罠に嵌められた悪役令嬢は流刑先の辺境で聖女と讃えられる

まるぽろ

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「……どうして私たちに? 儀式の対価としては重すぎます」

 魔力ポーションだけでも高価なのに、薬師の情報の価値は遥かに高い。軍事のことはあまり詳しくないけれど、魔力回復のポーションを作れる薬師は王国の重要人物として囲い込まれているはず。

「会話の内容でしばらく間グランゼにいらっしゃると分かりました。グランゼにいる間だけでいいのです。一年に一度村で儀式を行っていただけないでしょうか。どうかお願いします」

 中年の男性はそう言いながら床に膝を突き、頭を下げた。

「土下座なんてお止めください! なにをそんなに焦っていらっしゃるのですか?!」

 彼の体を抱えて無理やり起こす。悲痛な面持ちの男性は、弱々しい声で語り始めた。

「村の起こりは、百年以上前に落ち延びた秘薬師とその仲間が隠れ住んだことから始まるそうです。戦争、革命、内戦……争いばかりの時代を山に籠ることで生き延び、それからはそっと自然とともに生き、知識や技術を受け継いできました。
 三十年ほど前でしょうか。大切に使っていた儀式のための魔導具が壊れ、私たちはやむを得ず外に出ました。運良くこの村を見つけ、神官様に事情をお話しして定期的に儀式を執り行っていただけるようにはなったのですが……。 
 もう六十を超える長老が秘薬師を授かって以降、誰も薬師すら授からないのです。簡単なものに関しては、私を含め数名が受け継いでいます。ですが、職業を持つものでしか分からない勘のようなものがあり、魔力ポーションなどの難易度の高いものについては誰も成功していません。
 定期的に来てくださっていた神官様も七年ほど前から来れなくなり、早く後継者を見つけないと受け継いできた技術が消え失せてしまいます。どうか……」

 六十歳……亜人の長命種ならともかく、この世界の人族としてはかなり長生きなほうだ。焦るのも無理はないのだけど、私たちに秘匿としてきた情報まで渡す理由になるのだろうか。

「なぜ私たちにはお話になったのですか? 秘密を伝える必要はなかったのでは?」

「……対価を受け取られていれば、帰りに地図を回収して一度限りの縁だったでしょう。しかし、貴方は受け取られなかった」

「たったそれだけのことで?」

 私の問いに中年の男性は口ごもる。その代わりに、背後にいた狐人族の男から声がかかった。

「誠実な主人を好む犬人族と気ままな猫人族がこれだけ懐いてるんだ。少なくとも悪人ではないだろ。それに、生い先の短い長老連中の焦りっぷりはすさまじいものがあるのさ。それこそ、賭けに出るくらいにはな」

「賭けとは魔力ポーションのことを打ち明けるということでしょうか?」

「ああ。賭けと言ってもいくつか条件を出していたがな。あんたは断ったが、その条件の一つが報酬を妥当な金額に減らすことだ。条件を満たした上で、俺たちがこれだと思った相手に事情を説明し、継続的に来てもらえるよう説得しろってさ」

「お眼鏡にかなったと?」

「その通りだ。できれば村に住んでもらえる神官を探せって言われていたが、そんな酔狂なやつなんてそうそう見つかる訳がない。なあ、一年に一回だけでいいんだ。どうにか頼めないか?」

 そう言って狐人族の男は頭を深々と下げた。すぐに受け入れてしまいそうだったのだが、私が何か言うよりも早く、いつもと違った雰囲気のパステルが口を開く。

「儀式で薬師が出なかったらどうするのにゃ? それに、秘密を知ったお嬢に敵意を向けたりしたら戦争にゃよ?」

「──っ!」

 狐人族の男性は全身の毛を逆立て、顔面を青ざめさせる。パステルから漏れる異様な気配に、私まで生唾を呑み込んでしまった。

 確かに、私たちの口を封じようとする可能性はゼロじゃない。殺すまではないにしろ、監禁するなんてこともありえるのかもしれない。

「パステル」

「あいにゃ~」

 ルゥの呼びかけで、パステルはいつもの彼女に戻った。私を含めこの場にいる三名が同時に息を吐く。

「お嬢、これは断るべきだな」

 ルゥならそう言うよね。ルゥはこの旅を始めてからいつも私の安全を第一に考えてくれてる。でも──

「ルゥ、ありがとう。たとえ危険があるとしても、私は行こうと思う。査問会がなければ、ルゥとパステルが一緒に来てくれなければ、お父様が角馬を用意してくれなければ、私が恐怖に駆られて無理に急がなければ、砂糖を食べたあの子たちが調子に乗って駈けなければ……どれか一つでも違っていたら、きっと私たちは彼らと出会っていない」

 ──私は、この人たちの善性を信じたい。二人とも村の行く末を心配しているのが分かる。それに、あの女を見たときのような胸騒ぎはこの人たちからは感じない。

「これが天命だと?」

「国益や利権などに縛られていない私の前に、特別な事情を抱えた人が現れた。それがただの偶然なのか、天命なのかは分からないけれど、私にできることがあるなら協力したいの」

 私は中年の男性の方へ振り向き、右手を差し出す。

「私は、シェリィ・ベルナール。この話をお受けします。グランゼにいる間は一年に一度お伺いすると約束しましょう」

「あ、あ、ありがとうございます!」

 中年の男性は感極まった様子で差し出した右手を両手で掴んだ。しかし、ふと何かに気付いた様子で私を見る。

「……あの、査問会というのは?」

 どうすべきだろう。王都に行くのなら私の噂を聞くかもしれない。人伝に聞くよりも、正直に話しておいたほうがいいとは思う。でも、どう話せばいい? 

 私の手を掴んだまま、中年の男性は返事を待っている。間が空くほど、何を言っても言い訳がましく聞こえそうな気がしてくる……。

「実は私、物語によく出てくるような極悪非道の悪役令嬢なの」
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