罠に嵌められた悪役令嬢は流刑先の辺境で聖女と讃えられる

まるぽろ

文字の大きさ
24 / 24

2-5

しおりを挟む
「ここにしようにゃ!」

 パステルの先導で進むこと数分──耳をぴくぴくと、鼻をひくひくとさせていた彼女は、一軒の店の前で立ち止まった。

 何の変哲もない外観、『大衆食堂』と書かれた小さな看板がなければ、気づかずに素通りしていただろうお店。隠れ家的な店に当たりが多いというのは、前世からの鉄板だ。どんな料理が出てくるのかわくわくする。

「らっしゃっい!」

 ドアを開けて中に入った私達に、威勢のいい声が浴びせられた。カウンターの奥では、三十歳前後のお兄さんがにかっといい笑顔をこちらに向けている。

 軽く会釈してから四人掛けのテーブルに座って店内を眺めれば、掃除が行き届いた内装に期待が高まっていく。

 紙のメニューらしきものはないけれど、壁に並べられている料理名が書かれた木の板が目に留まった。所どころ裏返っているのは、品切れってことかしら?

「なんにしましょう?」

 数分たったころ、エプロン姿のお兄さんがカウンターの奥からやってきた。店は一人で切り盛りしているのか、他の店員はいないようだ。

「ノア君、何がいい? あの板に料理名が書いてあるわ」

「えっと……なんでもいいです」

 この一週間ほどで大体わかってきた。ノア君は遠慮していつもこう言うけれど、食べたい料理があるとそこで少しだけ視線が止まるんだ。

 今回はあれかな? オススメって書いてあるし、今日の私達にぴったり。

「じゃあ、ノア君と私が冒険者になった記念日だし、冒険者セットにしましょうか。飲み物は、何か果実水をお願いします」

 ノア君の視線が釘付けになっていた冒険者セット、内容が書かれてないところもそれはそれで面白そう。

「ルゥとパステルはどうする?」

ブルーブル顔色が悪い牛のワイン煮込みとワインを頼む」

「あたしはマッドサーモン乱心したマスの岩塩焼きと蜂蜜酒にするにゃ」

「あいよっ!」

 にっこりと笑った男性は勢いのある声で返事をし、厨房へと戻っていった。


「冒険者セットお待ちっ!」

 わくわくしながら待っていた私とノア君の目の前に運ばれてきたのは一口大の肉の山。1ポンドステーキどころではないその量に、呆気にとられてしまう。

「……ノア君、私の分も食べる?」

「えっ?」

「こんなに食べられないの」

「じゃあ、うん。いただきます」

 三分の一ほどをノア君の皿に載せてもまだ多い。とりあえず食べれるだけ食べてから考えようと思い、二股のフォークで肉を突き刺した。口に入れて咀嚼すれば、塩味とともに濃厚な肉な旨味が口の中に広がる。

「美味しい!」

「今のはロックバード岩鶏の塩焼きだよ。脂肪が少ないが力強い肉の旨味が抜群だろう!」

 まだ近くにいたお兄さんが元気よく肉の説明してくれた。この冒険者セットは、グランゼ近郊で冒険者が狩ってくる様々な獲物の盛り合わせだそうだ。うん、これはいいかも。シンプルな味付けで、お気に入りのお肉を見つけられるセットってなかなか粋じゃないかしら。

 別のお客さんが入ってきたためお兄さんは注文を取ってから厨房へと戻っていき、ルゥとパステルにも分けつつ様々な種類の肉に舌鼓を打つのだった。
 


「は~、お腹いっぱいだね」

「苦しいです……」

 店から出て、ノア君と私はぽっこりでたお腹をさする。結局ノア君は、冒険者セット二人前分ほどを食べきっていた。小さな身体からは想像できないほどたくさんのお肉と付け合わせの蒸した芋を食べていくノア君。そんな彼に気分をよくしたお兄さんが、別の種類のお肉を追加してくれたためだ。

「いいお店だったね。お客さんも優しかったし」

 それに、周りにいたお客さんもこれも食え、あれも食うかなどと言ってノア君の前に取り分けた料理を置いていくものだから、私たちのテーブルはかつてテレビで見た大食い番組のようになっていた。

「……はい」

 ノア君はなにか貰う度にぺこりと頭を下げながらも、一言も発することなく黙々と食べ続けたためこのありさまだ。
 
 もちろん情報収集もちゃんとできた。ノア君がきっかけを作ってくれたから、お礼がてらデキャンタを持ってお酒を注いでまわり、色々な話を聞かせてもらった。

「明日はどうしようか? いくつか良さそうな狩場も教えてもらえたし、そのどこかに行ってみる?」

 今日食べた獲物がいそうな場所はお客さんたちに教えてもらえた。地図がないから正確な場所が分かるわけではないけれど、ルゥとパステルには十分な情報だったらしい。

「時間があれば午後から行ってみるのもいいな」

「午前中は何をするの?」

「ノアの装備を整え、森に籠る準備だな」

 えっと……ルゥ? 私たちって森に籠るの? なんで? 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...