6 / 6
⑥
しおりを挟む
駆ける。駆ける。駆ける。回復魔法を自らにかけ、昼も夜もなく駆ける。かすかなハルの残り香で、どっちに行ったのかはなんとなくわかる。残り香が少しずつ濃くなるにつれ、ハルに近付いているのがわかり、自然と足早になった。
濃い血の匂い! ハル、死んでんじゃねえぞ!
気持ちが先走り、足がもつれそうになる。酷使した体が悲鳴を上げているが、私はとうとう戦場の端へと辿りついた。兵士たちが見えたのだ。兵士もまた私をみつけ、慌ただしく動き始めるが、その瞬間──
──兵士たちのさらにむこう側で爆発が起きた。心配すべき状況にもかかわらず、私の頬は緩む。
あの魔力はハル! ちゃんと生きてたな!
ハルが生きていることが分かり、自然と尻尾をぶんぶんと振りながら爆発の場所に辿りついた私の目に写ったのは、奇妙な光景だった。
爆発の余波を受けたからか、両軍の中に立っている者はほとんどいない。おそらく敵側であろう兵士たちのど真ん中には半径200mほどのすり鉢状の陥没があり、その中央には満身創痍のハルが横たわっていた。
私は両軍が呆然としている虚を衝き、兵士たちを跳び越え、ハルへと駆けよった。意識はないものの、ハルが呼吸をしていることにほっと息をつく。
考えろ! ハルを助けるためにはどうすれば良い? この戦争自体は恐らくもう終わりだ。だが、ハルだけは違う。暗殺、懐柔、脅迫、形はそれぞれだろうが、両方からの手が伸びるのは間違いない。ニンゲンはいつだってそうだ。見えないところに逃げない限り、放っておいてはくれない。
……いや、1つだけ手があった。あの身なりの良い男は勘違いをしている。でないと、ヒラクなどがいる中、馬鹿なしきたりに縛られたニンゲンがハルを村長に任命することなどないはずだ。もちろん、気付いている可能性もあるにはあるが、これに賭けるしかない!
「ウオオオオオオオオオオオン!!」
私は力を振り絞り、威圧の意思を込めて吠えた。続けて、前脚についた赤い革製のバングルを喰いちぎり、両軍の隅から隅まで聞こえるように叫ぶ。
「我を縛っていた鎖はもうない! こやつの遺骸は我が貰う!!!」
私はハルを優しく口に咥えると、こっそりと回復魔法をハルにかける。兵士たちを跳び越え、再び走り始めた私たちを追うものはいなかった。
◆
「……その後、勇者と真っ白な大狼の姿を見た人はいなかったとさ。おしまい」
私が物語を読み終えると、子供達は一斉に口を開く。
「えー! 勇者様はどうなっちゃったの?」
「狼に食べられちゃったのかな?」
「でも、その狼ってこの村にいた聖獣様でしょ? お兄ちゃん、お姉ちゃんたちは絶対そんなことしないって言ってたよ!」
「ふふふ、さあみんな、そろそろ家に帰りましょうね」
元気いっぱいの子供達をみて嬉しくなった私が、笑顔で今日は帰るように伝えると、彼らは一斉に立ちあがる。
「「「はーい! リーナお姉ちゃん、また明日ね!」」」
「はい。また明日ね」
パパとママは今どこにいるのかしら。二人は絶対生きているって信じてるけど、やっぱり寂しいよ。
「「リーナ」」
「え?」
後ろから掛けられた声に驚いて振り返ると、そこには長く美しい黒髪をなびかせたお腹の大きな女性と、白髪に一部分だけ緑の髪をもった壮年の男性が立っていた。
「おかえりなさい!」
私は彼らに駆け寄って抱きついた。2人は私を優しく抱き返してくれる。
「「ただいま」」
※後書き※
以上で完結です。
短く、拙い物語にお付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m
長編書いたら読んでも良いよという方がもしいらっしゃいましたら、お気に入りや感想でコメントをいただけると嬉しいです(人´∀`*)
濃い血の匂い! ハル、死んでんじゃねえぞ!
気持ちが先走り、足がもつれそうになる。酷使した体が悲鳴を上げているが、私はとうとう戦場の端へと辿りついた。兵士たちが見えたのだ。兵士もまた私をみつけ、慌ただしく動き始めるが、その瞬間──
──兵士たちのさらにむこう側で爆発が起きた。心配すべき状況にもかかわらず、私の頬は緩む。
あの魔力はハル! ちゃんと生きてたな!
ハルが生きていることが分かり、自然と尻尾をぶんぶんと振りながら爆発の場所に辿りついた私の目に写ったのは、奇妙な光景だった。
爆発の余波を受けたからか、両軍の中に立っている者はほとんどいない。おそらく敵側であろう兵士たちのど真ん中には半径200mほどのすり鉢状の陥没があり、その中央には満身創痍のハルが横たわっていた。
私は両軍が呆然としている虚を衝き、兵士たちを跳び越え、ハルへと駆けよった。意識はないものの、ハルが呼吸をしていることにほっと息をつく。
考えろ! ハルを助けるためにはどうすれば良い? この戦争自体は恐らくもう終わりだ。だが、ハルだけは違う。暗殺、懐柔、脅迫、形はそれぞれだろうが、両方からの手が伸びるのは間違いない。ニンゲンはいつだってそうだ。見えないところに逃げない限り、放っておいてはくれない。
……いや、1つだけ手があった。あの身なりの良い男は勘違いをしている。でないと、ヒラクなどがいる中、馬鹿なしきたりに縛られたニンゲンがハルを村長に任命することなどないはずだ。もちろん、気付いている可能性もあるにはあるが、これに賭けるしかない!
「ウオオオオオオオオオオオン!!」
私は力を振り絞り、威圧の意思を込めて吠えた。続けて、前脚についた赤い革製のバングルを喰いちぎり、両軍の隅から隅まで聞こえるように叫ぶ。
「我を縛っていた鎖はもうない! こやつの遺骸は我が貰う!!!」
私はハルを優しく口に咥えると、こっそりと回復魔法をハルにかける。兵士たちを跳び越え、再び走り始めた私たちを追うものはいなかった。
◆
「……その後、勇者と真っ白な大狼の姿を見た人はいなかったとさ。おしまい」
私が物語を読み終えると、子供達は一斉に口を開く。
「えー! 勇者様はどうなっちゃったの?」
「狼に食べられちゃったのかな?」
「でも、その狼ってこの村にいた聖獣様でしょ? お兄ちゃん、お姉ちゃんたちは絶対そんなことしないって言ってたよ!」
「ふふふ、さあみんな、そろそろ家に帰りましょうね」
元気いっぱいの子供達をみて嬉しくなった私が、笑顔で今日は帰るように伝えると、彼らは一斉に立ちあがる。
「「「はーい! リーナお姉ちゃん、また明日ね!」」」
「はい。また明日ね」
パパとママは今どこにいるのかしら。二人は絶対生きているって信じてるけど、やっぱり寂しいよ。
「「リーナ」」
「え?」
後ろから掛けられた声に驚いて振り返ると、そこには長く美しい黒髪をなびかせたお腹の大きな女性と、白髪に一部分だけ緑の髪をもった壮年の男性が立っていた。
「おかえりなさい!」
私は彼らに駆け寄って抱きついた。2人は私を優しく抱き返してくれる。
「「ただいま」」
※後書き※
以上で完結です。
短く、拙い物語にお付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m
長編書いたら読んでも良いよという方がもしいらっしゃいましたら、お気に入りや感想でコメントをいただけると嬉しいです(人´∀`*)
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
追放された検品係、最弱の蛇に正しく聞いたら鉱脈を掘り当てた ~この世界は精霊の使い方を間違えている~
Lihito
ファンタジー
精霊に「やれ」と言えば動く。この世界の全員がそう信じている。
レイドだけが違った。範囲を絞り、条件を決め、段階的に聞く。それだけで最弱の蛇は誰より正確に答える。——誰にも理解されず、追放された。
たどり着いた鉱山町で、国が雇った上位精霊が鉱脈探査に失敗し続けていた。高性能の鷹が毎回違う答えを返す。
原因は鷹じゃない。聞き方だ。
レイドは蛇一体で名乗り出る。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ピコっぴさん、めっちゃ嬉しい感想ありがとうございます!
感想全部が嬉しすぎてにやにやしてしまいます(*´艸`*)
錬金術師がテイマーでお風呂でドッキリ戦闘はサックリも書きつづげながら頑張ってみます!٩(ˊᗜˋ*)و
yana様、いつもありがとうございます♪
書きたいところを全部書いていると、長編になってしまうのでかなり端折りました(*´艸`*)
キャラメイクが1番優先ではあるので、ぼちぼちプロットや設定を練り直してみます♪(人´∀`*)
本当にいつもありがとうございます♪٩(ˊᗜˋ*)و
yana様、ありがとうございます!
間違いなく犬(狼)は親バカですw
ただ戦闘は──(最終話をお待ちください!笑)