忠犬と勇者

まるぽろ

文字の大きさ
5 / 6

しおりを挟む
 それから3年弱の月日が流れた。村の生活は相変わらず厳しいものではあったが、ハルのおかげで安全な場所であることや、開墾の余地が多く残されていることが各地に広がると徐々に人口も増え、活気を取り戻していた。
 
 リーナは相変わらず言葉を話すことはできていなかったが、意識して喉から空気を出せるようになっていた。なにかきっかけがあれば話せるようになるだろうとハルに告げると、ハルはリーナを抱えて私に抱きついてきた。
 
 しかし、そんな満ち足りた幸せの日々がいつまでも続くことはなかった。収穫が終わったころ、あの身なりの良い男が再びやって来た。何も知らずに、税を納める準備をしていた私達に言った言葉は予想もしていなかったことだった。
 
「ライン村長ハルに告げる。戦争が始まるため、この村より10名を徴兵する。これは王命である」
「は? 今、なんと?」

 ハルが阿呆そうな声で聞き返すと、男は少し苛立った様子で再び告げる。

「戦争が始まるため、10名徴兵する。なお、戦時特例として今年の税は六公四民である」
「そんな!?」
「なお、伯爵からの伝言があるが聞くか?」

 ちっ! ハル、即決するなよ。

「は、はい。フロイド伯爵はなんと?」
「村長ハルが参戦するのであれば、徴兵はなし。税も四公六民で良いとのことだ」
「っ! 私が参ります!」

 心の中で呟いた忠告も虚しく、私の心配していたことが現実となってしまった。

「相分かった。では7日後までに、税の麦とともに街へ参れ」
「承知しました」
 
 最悪だ。

 翌日、ハルは私にこの村を頼むと言い残し、街へと向かった。私も連れて行くようにねばったが、聞き入れてくれるこはなかった。これまで村の防備は固めてきたが、ハルがいることが前提であったため万全とは言い難いものでしかなかったからだ。
 
 ハルがこの村を出て10日程経っただろうか。ハルのことを心配し、そわそわしている私の元にリーナがやってきた。彼女は私の頭や耳を優しく撫でると、口を数回ぱくぱくさせる。私は彼女の瞳をじっと見つめた。彼女の瞳は出会ったころと異なり、力強い意思を持っていた。彼女は首に両手を当てて、絞り出すように喉に力を込める。
 
「……い、いって」
「リーナ!? お前声が!?」
「れ、れん、しゅ、しゅう、し、して、たの。ハル、を、た、たす、けて」
 
 さらに後ろからも声がかかる。
 
「聖獣様! ここは私にお任せ下さい! 夜な夜な聖獣様が狩りに行ってくださっていたため、しばらくは魔物どもも近寄ってきますまい!」
 
 なんでそれを知っている!?
 ヒラクが行った通り、私はリーナが寝静まった後、村の近く(この村から30km以内ぐらい)にいる大物の魔物を狩って回っていた。
 確かに狩った魔物は村の門の前に置いてはいたが……解せぬ。
 
「パ、パ、おね、が、い」
「ウオオオオオオオオオオオオン!!」
 
 私の魔力を乗せた遠吠えにより風が巻き起こる。大気が震え、鳥が一斉に飛び立つ。リーナが突然の風に閉じていた目を開いたとき、私は既に駆けだしていた。
 
 ハル! ハル! 
 
 頭の中でハルの名を叫ぶ。
 
 リーナが私のことをパパと呼んだぞ! じゃあ、ママはお前だな!!!
 
     ■

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された検品係、最弱の蛇に正しく聞いたら鉱脈を掘り当てた ~この世界は精霊の使い方を間違えている~

Lihito
ファンタジー
精霊に「やれ」と言えば動く。この世界の全員がそう信じている。 レイドだけが違った。範囲を絞り、条件を決め、段階的に聞く。それだけで最弱の蛇は誰より正確に答える。——誰にも理解されず、追放された。 たどり着いた鉱山町で、国が雇った上位精霊が鉱脈探査に失敗し続けていた。高性能の鷹が毎回違う答えを返す。 原因は鷹じゃない。聞き方だ。 レイドは蛇一体で名乗り出る。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処理中です...