忠犬と勇者

まるぽろ

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「ふう……、復興も大分落ち着いたねー」
「そうだな」
「……」
 
 奴隷狩りの件から一カ月ほど経ったころ、私たちは3人で風呂に入っていた。リーナは相変わらず黙ったままであるが、ハルは根気よく彼女に話しかけ続けていた。
 
「これからは、ここでのんびり過ごして行けたらいいね」
「ああ、それも良いな。お前との旅は慌ただし過ぎた」
「あはは、悪かったよ」
「全くだ。旅路の戦闘はともかく、じめじめした暗くて狭いダンジョンに連れていかれ、せっかく狩った肉の血を抜いたあげく火を通した塩辛いものを食わされたり、毒を食わされたりと散々な目にあわされたな」
 
 玉ねぎを食べさせられたときのことを思い出し、私が唸り声を上げるとリーナの肩がぴくりと震える。ハルは私の方を責めるような目つきで睨んだ。私が唸り声を止め、尻尾でリーナを優しく包み込むと、彼女が少し微笑んだような気がした。ハルも彼女の変化に気付いたようであり、にっこりと笑みを浮かべてから話を続ける。
 
「前の世界の本では、魔物は玉ねぎを食べられるし、料理したものの方が好きなのがテンプレなんだよ」
「血が滴る新鮮な肉が一番美味い」
「はいはい。ねえ、ちなみに擬人化とかはできないの?」
「……それも『テンプレ』か?」
 
 ハルは、ぽりぽりと頬を掻きながら頷く。
 
「阿呆が。出来る訳がなかろう(……今はまだな)」
「だよねえ。まったく世知辛い異世界だよ(ヒスイが人型になったら夫婦みたいに見えるのかな? ってボクは何を考えてるんだか)」
 
 風呂から上がると、私はぶるぶるっと体を震わせ、魔法で風を纏って水分を飛ばしてから暖炉の前に寝そべった。ハルとリーナは布で体を拭くと、暖炉と私の間に座り、私の腹に背中を預けて髪を乾かし始める。
 
「顔が少し赤いぞ。寒いのか?」
「なんでもない」

 私は尻尾を二人に巻きつけて目を閉じる。季節は秋が終わり冬が始まった頃、肌寒くなった夜に、私はこのぬくもりを心地良く感じていた。
 
     ◆
 
 厳しい冬の寒さも穏やかになってきたある日のこと、私が庭で日向ぼっこをしているとリーナがとてとてと歩いてきた。ゆっくりと腰をおろし、背中を私の体に預けると、ハルが買い与えた本を開いて読み始める。私は体と尻尾でリーナを包み込み、再びまどろむ。晴れた日の昼はこうして寄り添うことが常となっていた。
 
 一方、ハルは狩った魔物の素材を売り、食糧を買うために街へとでかけていた。肉についてはハルと私が狩り、野菜は年長者が育てていたが、いかんせん人手が足りずに穀物が不足していたからである。騒動の後、冒険者時代にハルが稼いだ金で麦や塩を購入できたため、この冬はどうにか過ごすことができたが、食糧事情は喫緊の課題であった。
 
 また、この村に追い打ちをかける新たな出来事が近付いて来ていた。
 
「ハルをライン村の村長に任命する。これはこの地の領主であるフロイド伯爵からの書状である」
 
 ハルとともにこの村へとやってきた身なりのいい男は村人を集め、高らかに宣言した。ハルは書状を受け取り頭を下げる。
 
「ありがたき幸せ」
「ついては、そなたにはこの地の管理を行い、税を納める義務が生じる」
「(悪徳領主のテンプレか!)承知いたしました。しかし、この村は奴隷狩りに襲われたためご覧の通りのあり様でして」
 
 こいつはまた変なことを考えてないか?
 ハルが僅かに表情を変えたのを見逃さず、私が頭の中で呆れていると、男は言葉を続ける。
 
「わかっておる。ゆえに、フロイド伯爵は昨年から来年までの収穫については無税とし、二年後は三公七民、その翌年からは通常通りの四公六民とするとのお達しが出ておる。また、街の住民の中でこの村の出身の者で戻れる者を探すとのことだ」
「(ごめん伯爵様! 優良領主の方だった!)閣下の温情に感謝いたします」
 
 はあ、ハルは騙されてるんだろうなあ……。
 
 翌日、男が帰った後、私はハルに忠告することにした。
 
「ハル、騙されるなよ。伯爵とやらは、お前の力と金を当てにしているだけだぞ」
「え?」
 
 思った通り、ハルは私が何をいっているか理解できておらず、口を開いたまま呆けた顔を晒していた。
 
「考えてもみろ。奴隷狩りらを単身で退ける力を、冒険者として稼いだ金を、寒村の税を多少免除するだけで長きにわたり自らの領地に留めておけるのだ。決して人が良いだけではない」
「えええ、ちょっと尊敬したのに……」
「まあ、この村にとって都合が悪い話ではないがな」
「そうだよね! これから頑張ろう!」
 
 私がにやりと嗤うと、ハルは笑顔になり手をぐっと握り締め決意を新たにするのであった。
 
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