忠犬と勇者

まるぽろ

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「うっ……」
 
 村に辿りついたとき、異様な光景が飛びこんできた。建物には火が放たれ、大人は容赦なく殺されている。子供達は縄等で縛られ、次々と馬車へと放り込まれていた。つまり──
 
──奴隷狩りである。
 
 ハルは激昂して飛びだした。剣を振るい、魔法を放ち、敵の命を狩り取っている。
 あーあ、面倒なことに首を突っ込んでからに。まあ、ああなったら私じゃ止められないし、怪我でも治して回るか。でもなあ……。
 
「「「「きゃあああああああああああ!!」」」」
 
 やっぱりこうなるわな。

 見た目が大狼である私が怪我人の元に近付くと、パニックになり叫ぶ者、意識を失う者、失禁する者など反応は様々であるが、ほとんど全員が恐怖に慄く。面倒になった私は、逃げ出そうとする奴らや暴れる奴を足で踏みつけて回復魔法を発動する。
 
 一時間もしないうちに奴隷狩りを行っていたものは制圧された。死屍累々である。ハルは生きている者達に声をかけ、中央に集まってもらっていた。
 
「ヒスイ、もう一度お願い」
「はいはい【エリアヒール】」
 
 ヒスイとはハルが私に付けた名だ。私のたてがみがハルがいた世界の宝石のようだからと言っていた。宝石にちなむとは、なかなか分かってきたではないか。
 
 ──閑話休題、私が人の言葉を話したことでざわめきが広がるが、広範囲を癒す回復魔法の光で包まれると先ほどとは別種のざわめきが起きた。唯一生き残っていた年長者──それでも20歳前ではあるのだが──が恐る恐るといった感じで私達の前に歩み出ると、跪いて頭を下げる。
 
「勇者様! 聖獣様! ありがとうございます!」
「はあ?」
  
 勇者? 聖獣? ああ……ハルといるとやはり面倒だ。
 
「ヒスイ、何でにやにや笑ってるの?」
「なんでもない」
 
 私達はその村に逗留することにした。ほとんどの大人を失くし、大きな街へ連れて行ったとしても生きて行くことは難しい。幸いなことに、ここはハルを召喚した帝国からも遠く離れており、私達にとってとても都合が良かったからだ。
 
 焼けた建物を解体し、使えるものを選んで新たな家を建てる。年長者たちも手伝ってはくれていたが、ほとんどは馬鹿力のハルが行っていた。ハルは、子供達ばかりなので昔ながらの長屋にするとかなんとか呟きながら作業を行い、できあがったのは風呂・炊事場が共用の、寝る部屋だけが連なった珍しい様式の建築物だった。
 
 しかし、1つだけ問題が起きた。親戚関係の者や近所の者たちを各部屋に割り振ったのだが、一人だけ残ってしまっていたのだ。年長者の青年であるヒラクがこちらにやってきて彼女のことを説明し、ハルに尋ねる。
 
「ハル様、この子はこの村の者ではありません。おそらくは元々馬車に乗っていたのではないかと思われますが、どうしましょうか?」
「そうなんだ。ねえ、キミの名前はなんていうのかな?」
 
 ハルが屈んで少女に尋ねても、彼女は口を噤んだまま動かない。ただ、何も写っていないかのように虚ろな目をなぜか私に向けていた。

 なんだ? 尻尾でも触りたいのか?

 私が尻尾を振ると少女の目がほんの僅かに揺らぐ。私が遊んでいる間、考え込んでいたハルはヒラクに告げる。
 
「じゃあ、この子は私達が預かるよ」
「それは助かりますが、よろしいのですか?」
「うん。とにかく名前を決めないとね。ん~と、キミの名前はリーナなんてどうかな?」
 
 こうして、ハルと私とリーナ(本人は同意していないが)、そして20人ほどの子供たち(数人の若者も含む)との共同生活が始まった。
 
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