忠犬と勇者

まるぽろ

文字の大きさ
2 / 6

しおりを挟む
 こやつの話によるとこやつの名前はハルと言うらしい。よくわからんが、元の世界の暦で3月に生まれたから名付けられた本名があるらしいが、ゲーム?で使っていたハンドルネーム?をこの世界では名乗ることにしたそうだ。
 ハルが言うには、この山の西にあるバルデア帝国の者により元いた世界からこの世界へと召喚されたらしい。
 
 ハルは既に剣を鞘に収めており、私の目の前に座って堰を切ったようにこれまでのことを話していた。私はその様子をじっと見つめ、ハルが落ち着いたのを見計らって尋ねる。
 
「それで? ハルはこれからどうするのだ?」
「わからないよ。ひとりぼっちでこんなところに連れてこられて、持ったこともなかった剣の訓練させられて。それにさ、見張りでついて来ていた人は狼にやられちゃったけど、ボクにはこれがあるから逃げることもできないしね」
 
 ハルは軽鎧を外し、服をまくって腹を見せてきた。そこには胸糞が悪くなる魔法陣が光を放っている。
 
「隷属魔術か」
 
 ハルは黙ったまま頷き、膝を抱え込んで顔を伏せてしまった。
 傷つけられた相手だ。見て見ぬふりもできた。しかし、私はハルに同情し、放ってはおけなかった。孤独はつらいことを知っているからだ。私は頭でハルの体を起こし、腹にある魔法陣に鼻先を近付けて魔力を練る。
 
「【ディスペル】」
「え?」
 
 私が解呪の魔術を発動すると、ハルの腹で光っていた魔法陣は跡形もなく消え去った。私はそれを確認し、ハルが皿に出していたポーションをぴちゃぴちゃと舐める。

 クソまずい……怪我は魔法で治してるから飲まなくても良いのに、カッコつけて飲むんじゃなかった。
 
「こんなサービスは滅多にしない。が、これで貸し借りなしだ。どこへでも行くがいい」
「キミはいったい……」
「私はアセナだぞ? 傷や病の回復、解呪はお手の物だ。その代わり、戦闘は得意ではな──」
「──ありがとう!!」
「うお!? 止めろ! くっつくな!」
「もふもふだあ……」
「ええい! ……?」
 
 私は私の胸に飛び込んできたハルを振り払おうとするが、ハルが嗚咽していることに気付いた。ひょろい体からは想像もできないほどの強い力でしがみつかれ、無理矢理引き剥がすこともできないでいると、ハルは暫く泣いた後、そのまま眠ってしまった。
 
 ちっ、まったくなんだってんだ。
 
     ◆
 
 翌日、ハルの泣き落としで私は『ハルが寂しそうにするから仕方なく』ハルの旅に同行することにした。
ハルの見張りをしていた者の武具を拝借し、ハルの武具はハルの血を塗ってから藪に捨てた。私達はバルデア帝国には戻らずに、山を越えて東へと向かった。
 
 それから、二人で様々な場所を旅した。街や村を訪れ、狩った魔物の素材を売って路銀を稼ぎ、肉以外の食糧を仕入れる。同時に、ハルにこの世界のことを教えた。国や貴族、戦争、冒険者と呼ばれる魔物を狩る集団、獣人やエルフなどの亜人、奴隷、魔物、食べられる植物や毒草のことなど、私が知っていることを一つ一つ教えていった。
 
 旅を始めて2年程経った頃、私達は大陸東部にある村へと向かっていた。ハルが登録した冒険者ギルドで引き受けた依頼のためだ。
 私はテイムされたことにしていたため、テイムされたことがわかる目印として前足に赤いバングルをはめられていた。
 最初は首輪だったのだが、その姿を見たハルが腹を抱えてけらけらと笑い、私のことを犬呼ばわりしたためバングルへと変えさせたのだ。なお、本来であればこの手の道具は魔術的な制約をつけるものなのだが、このバングルは只のハリボテだ。
 
 村が近付くにつれ、異変に気付く。村があるあたりの空が赤く、かすかな血の匂いが風に乗っていた。私はハルを背に乗せて駆け出した。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

追放された検品係、最弱の蛇に正しく聞いたら鉱脈を掘り当てた ~この世界は精霊の使い方を間違えている~

Lihito
ファンタジー
精霊に「やれ」と言えば動く。この世界の全員がそう信じている。 レイドだけが違った。範囲を絞り、条件を決め、段階的に聞く。それだけで最弱の蛇は誰より正確に答える。——誰にも理解されず、追放された。 たどり着いた鉱山町で、国が雇った上位精霊が鉱脈探査に失敗し続けていた。高性能の鷹が毎回違う答えを返す。 原因は鷹じゃない。聞き方だ。 レイドは蛇一体で名乗り出る。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

最愛が……腕の中に……あるのに……

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と結ばれたかった…… この国を最愛と導きたかった…… その願いも……叶わないのか……

処理中です...