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こやつの話によるとこやつの名前はハルと言うらしい。よくわからんが、元の世界の暦で3月に生まれたから名付けられた本名があるらしいが、ゲーム?で使っていたハンドルネーム?をこの世界では名乗ることにしたそうだ。
ハルが言うには、この山の西にあるバルデア帝国の者により元いた世界からこの世界へと召喚されたらしい。
ハルは既に剣を鞘に収めており、私の目の前に座って堰を切ったようにこれまでのことを話していた。私はその様子をじっと見つめ、ハルが落ち着いたのを見計らって尋ねる。
「それで? ハルはこれからどうするのだ?」
「わからないよ。ひとりぼっちでこんなところに連れてこられて、持ったこともなかった剣の訓練させられて。それにさ、見張りでついて来ていた人は狼にやられちゃったけど、ボクにはこれがあるから逃げることもできないしね」
ハルは軽鎧を外し、服をまくって腹を見せてきた。そこには胸糞が悪くなる魔法陣が光を放っている。
「隷属魔術か」
ハルは黙ったまま頷き、膝を抱え込んで顔を伏せてしまった。
傷つけられた相手だ。見て見ぬふりもできた。しかし、私はハルに同情し、放ってはおけなかった。孤独はつらいことを知っているからだ。私は頭でハルの体を起こし、腹にある魔法陣に鼻先を近付けて魔力を練る。
「【ディスペル】」
「え?」
私が解呪の魔術を発動すると、ハルの腹で光っていた魔法陣は跡形もなく消え去った。私はそれを確認し、ハルが皿に出していたポーションをぴちゃぴちゃと舐める。
クソまずい……怪我は魔法で治してるから飲まなくても良いのに、カッコつけて飲むんじゃなかった。
「こんなサービスは滅多にしない。が、これで貸し借りなしだ。どこへでも行くがいい」
「キミはいったい……」
「私はアセナだぞ? 傷や病の回復、解呪はお手の物だ。その代わり、戦闘は得意ではな──」
「──ありがとう!!」
「うお!? 止めろ! くっつくな!」
「もふもふだあ……」
「ええい! ……?」
私は私の胸に飛び込んできたハルを振り払おうとするが、ハルが嗚咽していることに気付いた。ひょろい体からは想像もできないほどの強い力でしがみつかれ、無理矢理引き剥がすこともできないでいると、ハルは暫く泣いた後、そのまま眠ってしまった。
ちっ、まったくなんだってんだ。
◆
翌日、ハルの泣き落としで私は『ハルが寂しそうにするから仕方なく』ハルの旅に同行することにした。
ハルの見張りをしていた者の武具を拝借し、ハルの武具はハルの血を塗ってから藪に捨てた。私達はバルデア帝国には戻らずに、山を越えて東へと向かった。
それから、二人で様々な場所を旅した。街や村を訪れ、狩った魔物の素材を売って路銀を稼ぎ、肉以外の食糧を仕入れる。同時に、ハルにこの世界のことを教えた。国や貴族、戦争、冒険者と呼ばれる魔物を狩る集団、獣人やエルフなどの亜人、奴隷、魔物、食べられる植物や毒草のことなど、私が知っていることを一つ一つ教えていった。
旅を始めて2年程経った頃、私達は大陸東部にある村へと向かっていた。ハルが登録した冒険者ギルドで引き受けた依頼のためだ。
私はテイムされたことにしていたため、テイムされたことがわかる目印として前足に赤いバングルをはめられていた。
最初は首輪だったのだが、その姿を見たハルが腹を抱えてけらけらと笑い、私のことを犬呼ばわりしたためバングルへと変えさせたのだ。なお、本来であればこの手の道具は魔術的な制約をつけるものなのだが、このバングルは只のハリボテだ。
村が近付くにつれ、異変に気付く。村があるあたりの空が赤く、かすかな血の匂いが風に乗っていた。私はハルを背に乗せて駆け出した。
ハルが言うには、この山の西にあるバルデア帝国の者により元いた世界からこの世界へと召喚されたらしい。
ハルは既に剣を鞘に収めており、私の目の前に座って堰を切ったようにこれまでのことを話していた。私はその様子をじっと見つめ、ハルが落ち着いたのを見計らって尋ねる。
「それで? ハルはこれからどうするのだ?」
「わからないよ。ひとりぼっちでこんなところに連れてこられて、持ったこともなかった剣の訓練させられて。それにさ、見張りでついて来ていた人は狼にやられちゃったけど、ボクにはこれがあるから逃げることもできないしね」
ハルは軽鎧を外し、服をまくって腹を見せてきた。そこには胸糞が悪くなる魔法陣が光を放っている。
「隷属魔術か」
ハルは黙ったまま頷き、膝を抱え込んで顔を伏せてしまった。
傷つけられた相手だ。見て見ぬふりもできた。しかし、私はハルに同情し、放ってはおけなかった。孤独はつらいことを知っているからだ。私は頭でハルの体を起こし、腹にある魔法陣に鼻先を近付けて魔力を練る。
「【ディスペル】」
「え?」
私が解呪の魔術を発動すると、ハルの腹で光っていた魔法陣は跡形もなく消え去った。私はそれを確認し、ハルが皿に出していたポーションをぴちゃぴちゃと舐める。
クソまずい……怪我は魔法で治してるから飲まなくても良いのに、カッコつけて飲むんじゃなかった。
「こんなサービスは滅多にしない。が、これで貸し借りなしだ。どこへでも行くがいい」
「キミはいったい……」
「私はアセナだぞ? 傷や病の回復、解呪はお手の物だ。その代わり、戦闘は得意ではな──」
「──ありがとう!!」
「うお!? 止めろ! くっつくな!」
「もふもふだあ……」
「ええい! ……?」
私は私の胸に飛び込んできたハルを振り払おうとするが、ハルが嗚咽していることに気付いた。ひょろい体からは想像もできないほどの強い力でしがみつかれ、無理矢理引き剥がすこともできないでいると、ハルは暫く泣いた後、そのまま眠ってしまった。
ちっ、まったくなんだってんだ。
◆
翌日、ハルの泣き落としで私は『ハルが寂しそうにするから仕方なく』ハルの旅に同行することにした。
ハルの見張りをしていた者の武具を拝借し、ハルの武具はハルの血を塗ってから藪に捨てた。私達はバルデア帝国には戻らずに、山を越えて東へと向かった。
それから、二人で様々な場所を旅した。街や村を訪れ、狩った魔物の素材を売って路銀を稼ぎ、肉以外の食糧を仕入れる。同時に、ハルにこの世界のことを教えた。国や貴族、戦争、冒険者と呼ばれる魔物を狩る集団、獣人やエルフなどの亜人、奴隷、魔物、食べられる植物や毒草のことなど、私が知っていることを一つ一つ教えていった。
旅を始めて2年程経った頃、私達は大陸東部にある村へと向かっていた。ハルが登録した冒険者ギルドで引き受けた依頼のためだ。
私はテイムされたことにしていたため、テイムされたことがわかる目印として前足に赤いバングルをはめられていた。
最初は首輪だったのだが、その姿を見たハルが腹を抱えてけらけらと笑い、私のことを犬呼ばわりしたためバングルへと変えさせたのだ。なお、本来であればこの手の道具は魔術的な制約をつけるものなのだが、このバングルは只のハリボテだ。
村が近付くにつれ、異変に気付く。村があるあたりの空が赤く、かすかな血の匂いが風に乗っていた。私はハルを背に乗せて駆け出した。
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