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プロローグ
プロローグ2
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僕は、内臓を切らないように慎重にその魚の腹を捌いていく。さらに、腹の中をよく洗って塩を塗り込んだ。ふと横を見ると、ビニール手袋をつけた徹が魚の内臓を小川の中に放り込み、その場所をじっと見つめていた。
「徹、何やってんの?」
「内臓に食いついてる小魚が死なないか見てんだよ。毒持ってたらどうすんだよ」
「どっちにしろ食べ物がないと生きていけないからね。十日で人里に出れるかわかんないし、そもそも人がいるかもわかんないしさ」
「大丈夫だって! 美味そうじゃん!」
徹は大空の能天気な発言に首を横に振り、内臓を放り込んだ場所へと視線を戻す。内臓にはたくさんの小魚が食いついており、どんどんその大きさを小さくしていた。
数十分が経過すると徹もようやく納得し、僕は魚を遠火でじっくりと炙っていく。色々とやっているうちに時間が経っており、赤い太陽が沈み始めていた。風が草むらを撫でる音や虫の音、ぱちぱちと焼けた小枝が割れる音が響く。僕達はたき火を囲み、その様子を黙って眺めていた。
魚が良い具合に焼け、僕が取り分けるために立ちあがろうとすると、沈黙に耐えられなくなった徹がぼそりと呟く。
「俺たち帰れないのかな?」
「すまんが、今は無理じゃのう」
徹の疑問に答えた知らない声の方に、僕達は一斉に振り向いた。振り向いた先では、簡素なローブを着た老人がすぐ近くの草むらをこちらへと歩いてきており、彼はどかりと腰をおろして僕達の輪に加わる。
僕と徹は驚きすぎて黙ってその姿を眺めていただけだったが、大空は手近に置いていたナタに手をゆっくりと伸ばしていた。
「止めておいたほうが良いのう」
「っ!」
老人からちらりと視線を向けられた大空は慌てて右手を引っ込めた。老人はほっほっと笑い声を上げると、懐から取り出した木の器を僕に差し出した。
「まあまあ、そう険呑にするでない。せっかくの焼き魚じゃ。少し分けてくれ」
僕はお爺さんのことを警戒しながら全員に焼き魚を取り分け、昼ごはんにしようと思って忘れていた、ラップに包まれた黒い塊も皆に配っていく。
「お爺さん、これも食べていいよ」
「これは何じゃ?」
「ただのおにぎりだよ。具は海苔の佃煮と梅干し」
「ほうほう! おお、これも美味いのう! んぐ、こっちは──酸っぱあ!??」
「「「あはははは!」」」
僕たちはお爺さんがおにぎりを両手に持って頬張る姿に毒気を抜かれてしまい、大きな口を開けて笑ってしまった。
「さて、では移動するかの」
食事を終えたところで、お爺さんが立ちあがった。お爺さんは手に持っていた杖を掲げ、石突きで地面を軽く叩く。眩い光に眼を瞑ってしまった僕らが目を開けると、そこは数えきれないほど多くの本が浮かぶ、幻想的な図書館のような場所になっていた。
「まあ座るがよい。現状が掴めず、さぞ混乱は……そこまでしておらんようじゃが、少し説明しようかの」
お爺さんはゆったりとした椅子に腰を下ろしており、僕達に三人掛けのソファに座るように促した。僕達はきょろきょろと辺りを見渡しながら、言われるがままに腰を下ろす。
「まずはの、ここはアルヴィオールという世界じゃ。異世界の子らよ」
はあ……。やっぱりそうだよね。月だけでも大概そうだけど、この部屋に移動したこととかあり得ないし。
逃避しようとしていた事実が突きつけられたが、僕はなんとなく覚悟していたこともあり、あまり動揺はしなかった。大空は瞳をキラキラと輝かせてお爺さんの話も聞かずに図書館を見上げており、徹だけが顔を蒼白にしてお爺さんに尋ねる。
「か、帰ることはできないのでしょうか?」
「先程も言った通り、いますぐというのは無理じゃ。異なる世界間の転移なぞ、普通はありえん。しかし、それは実際に起こり、あのまま放っておけばお主らは死んでおった」
徹は体をふらふらとさせ、ソファの背もたれに背中を預けて果ての見えない天井を見上げる。代わりに、大空が興奮した様子で身を乗り出してお爺さんに尋ねる。
「モンスターがいるからか!?」
「確かに魔物はおるし、魔物との争いによって多くの人類は死ぬ。が、それとは別じゃ。その理由はアルヴィオールには魔素と呼ばれるものが存在しているからじゃよ。お主らの肉体にはそれらを処理する機能が備わっておらず、放っておけば遅効性の毒物のようにお主らの体を蝕み、お主らはいずれ異形の物と化していたじゃろうな」
いつの間にか姿勢を戻していた徹はひっと息を呑み、お爺さんに縋るように問いかける。
「俺たちは死ぬんですか!?」
「死なんようにするために、こうしてここに連れて来たのじゃ。お主らの体をアルヴィオールでも生きていけるように作り変える。また、この世界の人類は天稟、それに類するギフト、さらにスキルを与えられて生まれてくる。ここにある書物には全ての天稟が書かれておるのじゃ。お主らにも、この中にあるどれかの天稟を与えよう。ついでに言葉もな」
お爺さんは徹の眼をまっすぐにみつめ、ゆっくりと語りかけるように話してくれた。優しく力強いその声に、徹は上げかけていた腰をおろし、なんだか僕もほっと安心してしまう。
お爺さんはゆっくりと立ち上がると、目を細めて慈しむような笑顔になり、徹と僕の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「徹、何やってんの?」
「内臓に食いついてる小魚が死なないか見てんだよ。毒持ってたらどうすんだよ」
「どっちにしろ食べ物がないと生きていけないからね。十日で人里に出れるかわかんないし、そもそも人がいるかもわかんないしさ」
「大丈夫だって! 美味そうじゃん!」
徹は大空の能天気な発言に首を横に振り、内臓を放り込んだ場所へと視線を戻す。内臓にはたくさんの小魚が食いついており、どんどんその大きさを小さくしていた。
数十分が経過すると徹もようやく納得し、僕は魚を遠火でじっくりと炙っていく。色々とやっているうちに時間が経っており、赤い太陽が沈み始めていた。風が草むらを撫でる音や虫の音、ぱちぱちと焼けた小枝が割れる音が響く。僕達はたき火を囲み、その様子を黙って眺めていた。
魚が良い具合に焼け、僕が取り分けるために立ちあがろうとすると、沈黙に耐えられなくなった徹がぼそりと呟く。
「俺たち帰れないのかな?」
「すまんが、今は無理じゃのう」
徹の疑問に答えた知らない声の方に、僕達は一斉に振り向いた。振り向いた先では、簡素なローブを着た老人がすぐ近くの草むらをこちらへと歩いてきており、彼はどかりと腰をおろして僕達の輪に加わる。
僕と徹は驚きすぎて黙ってその姿を眺めていただけだったが、大空は手近に置いていたナタに手をゆっくりと伸ばしていた。
「止めておいたほうが良いのう」
「っ!」
老人からちらりと視線を向けられた大空は慌てて右手を引っ込めた。老人はほっほっと笑い声を上げると、懐から取り出した木の器を僕に差し出した。
「まあまあ、そう険呑にするでない。せっかくの焼き魚じゃ。少し分けてくれ」
僕はお爺さんのことを警戒しながら全員に焼き魚を取り分け、昼ごはんにしようと思って忘れていた、ラップに包まれた黒い塊も皆に配っていく。
「お爺さん、これも食べていいよ」
「これは何じゃ?」
「ただのおにぎりだよ。具は海苔の佃煮と梅干し」
「ほうほう! おお、これも美味いのう! んぐ、こっちは──酸っぱあ!??」
「「「あはははは!」」」
僕たちはお爺さんがおにぎりを両手に持って頬張る姿に毒気を抜かれてしまい、大きな口を開けて笑ってしまった。
「さて、では移動するかの」
食事を終えたところで、お爺さんが立ちあがった。お爺さんは手に持っていた杖を掲げ、石突きで地面を軽く叩く。眩い光に眼を瞑ってしまった僕らが目を開けると、そこは数えきれないほど多くの本が浮かぶ、幻想的な図書館のような場所になっていた。
「まあ座るがよい。現状が掴めず、さぞ混乱は……そこまでしておらんようじゃが、少し説明しようかの」
お爺さんはゆったりとした椅子に腰を下ろしており、僕達に三人掛けのソファに座るように促した。僕達はきょろきょろと辺りを見渡しながら、言われるがままに腰を下ろす。
「まずはの、ここはアルヴィオールという世界じゃ。異世界の子らよ」
はあ……。やっぱりそうだよね。月だけでも大概そうだけど、この部屋に移動したこととかあり得ないし。
逃避しようとしていた事実が突きつけられたが、僕はなんとなく覚悟していたこともあり、あまり動揺はしなかった。大空は瞳をキラキラと輝かせてお爺さんの話も聞かずに図書館を見上げており、徹だけが顔を蒼白にしてお爺さんに尋ねる。
「か、帰ることはできないのでしょうか?」
「先程も言った通り、いますぐというのは無理じゃ。異なる世界間の転移なぞ、普通はありえん。しかし、それは実際に起こり、あのまま放っておけばお主らは死んでおった」
徹は体をふらふらとさせ、ソファの背もたれに背中を預けて果ての見えない天井を見上げる。代わりに、大空が興奮した様子で身を乗り出してお爺さんに尋ねる。
「モンスターがいるからか!?」
「確かに魔物はおるし、魔物との争いによって多くの人類は死ぬ。が、それとは別じゃ。その理由はアルヴィオールには魔素と呼ばれるものが存在しているからじゃよ。お主らの肉体にはそれらを処理する機能が備わっておらず、放っておけば遅効性の毒物のようにお主らの体を蝕み、お主らはいずれ異形の物と化していたじゃろうな」
いつの間にか姿勢を戻していた徹はひっと息を呑み、お爺さんに縋るように問いかける。
「俺たちは死ぬんですか!?」
「死なんようにするために、こうしてここに連れて来たのじゃ。お主らの体をアルヴィオールでも生きていけるように作り変える。また、この世界の人類は天稟、それに類するギフト、さらにスキルを与えられて生まれてくる。ここにある書物には全ての天稟が書かれておるのじゃ。お主らにも、この中にあるどれかの天稟を与えよう。ついでに言葉もな」
お爺さんは徹の眼をまっすぐにみつめ、ゆっくりと語りかけるように話してくれた。優しく力強いその声に、徹は上げかけていた腰をおろし、なんだか僕もほっと安心してしまう。
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