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プロローグ
プロローグ1
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「はあっ、はあっ」
僕は汗をだらだらとかきながら、自転車を一生懸命漕いでいる。登り坂は徐々に緩やかになり、峠を越えると長い下り坂が続いていた。僕が漕ぐのをやめても自転車は重力に従って徐々に速度を上げていく。両手を大きく広げれば、山の空気は風となり、火照った体を気持ちよく冷やしてくれた。
「夏休み最高――っ!」
「風が気持ちいいいいいいい!」
僕が声を上げると、後ろから大空が僕の右横に並んできて同じように両手を広げて叫んだ。さらに左側には徹が並び、少しだけ不機嫌そうにみせながらこっちを向いて声を張る。
「ったく、暑苦しいよ! 気温も、お前らも!」
「もうすぐ着くから、冷たい川で泳ご!」
「そういう意味じゃねえ!」
僕は徹の嫌味をとぼけて躱し、大きく口を開けて笑った。目的地の秘密の場所までもう少し。坂を降り切ったところで舗装もされていない川沿いの道へと入り、10分も自転車を走らせれば到着だ。僕達は3人で4泊5日のキャンプへと来ていた……はずだった。
「前方に黒い靄(もや)を発見!」
「突撃ー!」
「おいおい、あれ虫の群れじゃないのか? 俺はパスな」
テンションがおかしくなっていた僕は大空の言葉に釣られ、徹の忠告も聞くことなく、黒い靄へと突入した。虫に当たる感覚がないことや、少しくらっとしたように感じたことに不安になり、慌ててブレーキをかける。目を開くとそこには──
──だだっ広い平原が広がっていた。
……え? どういうこと?
「ゆーたあああああ!?」
「え? うわあっ!?」
混乱する僕の後ろから大空が突っ込み、僕達はもみくちゃになりながら地面に転がる。
「いてて。優太、大丈夫か? なんで止まってんのさ?」
「いたたたた。大空、ごめんごめん。ってか、ここどこ? 徹は?」
僕は転がったまま辺りを見渡して黒い靄を探す。靄はすぐに見つかり、そこから自転車を押した徹が情けない声を上げながら出てきた。
「ゆーたぁ、ひろぉー」
「徹、ここだよー」
「優太、大空! お前ら何やってんだよ! 黒いのを避けて通り過ぎたらお前らいなくなってるし、めちゃくちゃ不安だったんだぞ!」
僕たちを視界に収めた徹は表情をがらりと変え、自転車を放って駆け寄ってきた。僕は徹が差し出してくれた手を掴み、よいしょっと口にしながら起き上がる。
「あははっ、ごめんって」
「まあ無事だったから良いけどさ。ほら、大空も」
「あざっす。せっかく面白いことになってんだから、冒険しようぜ!」
徹は僕に続いて大空にも手を差し伸べ、彼を引き起こした。不安そうな徹とは違い、大空は嬉しそうにはしゃいでいる。僕はちらりと徹の後方にある黒い靄の方へと視線を向け、少し焦ったようにうそぶく。
「……ってかさ。黒い靄は?」
「は?!」
慌てて後ろを振り向いた徹は黒い靄があることに安堵の息をつくと、僕と大空の方にゆっくりと振りむき、顔を赤くして飛びかかってくる。
「てめえ優太! あるじゃねえか!」
「「あははははは!」」
僕達は笑いながら丈の低い草原をごろごろと転がる。草や土の匂い、そよそよと吹く涼しい風、空気そのものが気持ち良い。三人でごろんと寝転がれば、晴れ渡った空に輝く太陽と、紫色の3つの月が美しかった。
「「「ほえ?」」」
間抜けな声を出した僕たちはがばっと立ち上がり、黒い靄を探す。大人一人分はあったそれは幼児ほどの大きさまで小さくなっており、一斉に走り始めた僕たちをあざ笑うかのように、僕たちの目の前で霧散する。伸ばされた腕を、風が優しく撫でて通り過ぎていた。
◆
しばらく呆然とした後、僕たちは荷物をまとめ、大きな木の下にブルーシートを敷いてテントを張った。作業をしていれば、ほんの少しだけ受け入れがたい出来事を忘れることができるような気がしていたから。
いやいや、無理だよね。テントを張るのなんて鼻歌歌いながらできるってかスイッチを押せばボンって広がるやつだし。こんな衝撃的なできごとからの現実逃避なんてそう簡単にできるもんじゃないし。はああ……。
「なあ、どうする?」
僕が何回目かわからないため息をついていると、隣でたき火の準備をしていた徹が話しかけてきた。火種はファイヤースターターがあるから簡単、最初にティッシュに火を付けて、新聞紙、この木の周囲に落ちてた枯れ葉と枯れ枝に火を移していく。僕は少しずつ大きくなる火を見つめながら、徹の質問に答えることができないでいた。
「……どうしよっか」
「とりあえず、人里を探さないか?」
「うん。でも、言葉通じるかな? そもそもここに人はいるのかな?」
「だよなあ……。食糧はどれくらいもつ?」
「僕が持ってきたのだけでも10日は大丈夫。徹は何を持ってきたの?」
「俺は甘い物が多いかな。チョコとか飴とか……ちょっと整理すっか」
僕は頷き、大空の分のバックパックも開けて、荷物をブルーシートの上に並べていった。二人とも個性が出てる。徹は甘いお菓子がたくさんと異世界転移・転生系のライトノベルが数冊……はは、笑えないって。それと、高そうなウイスキーの大瓶。それに、冒険物の洋画とかでよく見る平べったい形のステンレスのボトル──確か名前はスキットル──が3つ。これはわかる。僕もやってみたかった。
大空はするめやビーフジャーキー等の乾物に、ナイフ、ナタ、釣り道具一式にパチンコと……これは折りたたみ式の銛? なんで銛? 大空はどこに向かってるの? ってかあいつ、川で魚を探して来るって言って走っていったのに、何で持って行ってないの? アホなの? アホなの。
僕が心の中で毒づいていると、ちょうど大空が大きな声を上げながら、こちらに走ってきた。
「おーい! とったどー!」
──右手に、見たことのない魚をぶら下げて。
僕は汗をだらだらとかきながら、自転車を一生懸命漕いでいる。登り坂は徐々に緩やかになり、峠を越えると長い下り坂が続いていた。僕が漕ぐのをやめても自転車は重力に従って徐々に速度を上げていく。両手を大きく広げれば、山の空気は風となり、火照った体を気持ちよく冷やしてくれた。
「夏休み最高――っ!」
「風が気持ちいいいいいいい!」
僕が声を上げると、後ろから大空が僕の右横に並んできて同じように両手を広げて叫んだ。さらに左側には徹が並び、少しだけ不機嫌そうにみせながらこっちを向いて声を張る。
「ったく、暑苦しいよ! 気温も、お前らも!」
「もうすぐ着くから、冷たい川で泳ご!」
「そういう意味じゃねえ!」
僕は徹の嫌味をとぼけて躱し、大きく口を開けて笑った。目的地の秘密の場所までもう少し。坂を降り切ったところで舗装もされていない川沿いの道へと入り、10分も自転車を走らせれば到着だ。僕達は3人で4泊5日のキャンプへと来ていた……はずだった。
「前方に黒い靄(もや)を発見!」
「突撃ー!」
「おいおい、あれ虫の群れじゃないのか? 俺はパスな」
テンションがおかしくなっていた僕は大空の言葉に釣られ、徹の忠告も聞くことなく、黒い靄へと突入した。虫に当たる感覚がないことや、少しくらっとしたように感じたことに不安になり、慌ててブレーキをかける。目を開くとそこには──
──だだっ広い平原が広がっていた。
……え? どういうこと?
「ゆーたあああああ!?」
「え? うわあっ!?」
混乱する僕の後ろから大空が突っ込み、僕達はもみくちゃになりながら地面に転がる。
「いてて。優太、大丈夫か? なんで止まってんのさ?」
「いたたたた。大空、ごめんごめん。ってか、ここどこ? 徹は?」
僕は転がったまま辺りを見渡して黒い靄を探す。靄はすぐに見つかり、そこから自転車を押した徹が情けない声を上げながら出てきた。
「ゆーたぁ、ひろぉー」
「徹、ここだよー」
「優太、大空! お前ら何やってんだよ! 黒いのを避けて通り過ぎたらお前らいなくなってるし、めちゃくちゃ不安だったんだぞ!」
僕たちを視界に収めた徹は表情をがらりと変え、自転車を放って駆け寄ってきた。僕は徹が差し出してくれた手を掴み、よいしょっと口にしながら起き上がる。
「あははっ、ごめんって」
「まあ無事だったから良いけどさ。ほら、大空も」
「あざっす。せっかく面白いことになってんだから、冒険しようぜ!」
徹は僕に続いて大空にも手を差し伸べ、彼を引き起こした。不安そうな徹とは違い、大空は嬉しそうにはしゃいでいる。僕はちらりと徹の後方にある黒い靄の方へと視線を向け、少し焦ったようにうそぶく。
「……ってかさ。黒い靄は?」
「は?!」
慌てて後ろを振り向いた徹は黒い靄があることに安堵の息をつくと、僕と大空の方にゆっくりと振りむき、顔を赤くして飛びかかってくる。
「てめえ優太! あるじゃねえか!」
「「あははははは!」」
僕達は笑いながら丈の低い草原をごろごろと転がる。草や土の匂い、そよそよと吹く涼しい風、空気そのものが気持ち良い。三人でごろんと寝転がれば、晴れ渡った空に輝く太陽と、紫色の3つの月が美しかった。
「「「ほえ?」」」
間抜けな声を出した僕たちはがばっと立ち上がり、黒い靄を探す。大人一人分はあったそれは幼児ほどの大きさまで小さくなっており、一斉に走り始めた僕たちをあざ笑うかのように、僕たちの目の前で霧散する。伸ばされた腕を、風が優しく撫でて通り過ぎていた。
◆
しばらく呆然とした後、僕たちは荷物をまとめ、大きな木の下にブルーシートを敷いてテントを張った。作業をしていれば、ほんの少しだけ受け入れがたい出来事を忘れることができるような気がしていたから。
いやいや、無理だよね。テントを張るのなんて鼻歌歌いながらできるってかスイッチを押せばボンって広がるやつだし。こんな衝撃的なできごとからの現実逃避なんてそう簡単にできるもんじゃないし。はああ……。
「なあ、どうする?」
僕が何回目かわからないため息をついていると、隣でたき火の準備をしていた徹が話しかけてきた。火種はファイヤースターターがあるから簡単、最初にティッシュに火を付けて、新聞紙、この木の周囲に落ちてた枯れ葉と枯れ枝に火を移していく。僕は少しずつ大きくなる火を見つめながら、徹の質問に答えることができないでいた。
「……どうしよっか」
「とりあえず、人里を探さないか?」
「うん。でも、言葉通じるかな? そもそもここに人はいるのかな?」
「だよなあ……。食糧はどれくらいもつ?」
「僕が持ってきたのだけでも10日は大丈夫。徹は何を持ってきたの?」
「俺は甘い物が多いかな。チョコとか飴とか……ちょっと整理すっか」
僕は頷き、大空の分のバックパックも開けて、荷物をブルーシートの上に並べていった。二人とも個性が出てる。徹は甘いお菓子がたくさんと異世界転移・転生系のライトノベルが数冊……はは、笑えないって。それと、高そうなウイスキーの大瓶。それに、冒険物の洋画とかでよく見る平べったい形のステンレスのボトル──確か名前はスキットル──が3つ。これはわかる。僕もやってみたかった。
大空はするめやビーフジャーキー等の乾物に、ナイフ、ナタ、釣り道具一式にパチンコと……これは折りたたみ式の銛? なんで銛? 大空はどこに向かってるの? ってかあいつ、川で魚を探して来るって言って走っていったのに、何で持って行ってないの? アホなの? アホなの。
僕が心の中で毒づいていると、ちょうど大空が大きな声を上げながら、こちらに走ってきた。
「おーい! とったどー!」
──右手に、見たことのない魚をぶら下げて。
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