雨に天国、晴に地獄

月夜猫

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第五話

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「あの……わたし半分人間じゃないんですか?」
「そうなりますね」
「母は人間ですよね……?」
「そのはずですよ。蒼司そうじはお嬢様の母君とは現世で会ったといっていましたし、なにより、もしも奥方が人間ではなかったのなら、わざわざ現世で暮らす必要はなかったわけですから」
たしかにそうだ。
人間、じゃないんだ。わたし。
「さて、お嬢様をお招きしたわけをお話いたしましょうか」
「はい」
「さて、先ほど蒼司そうじは“雨野家の当主であった“と申し上げました。お嬢様、あなたは蒼司そうじの一人娘です。つまり、あなたが当代当主なのです」
「はい?」
本日N回目の「このヒト何言ってるんだろう…?」状態であった。
「わたしが、当主、雨野家の」
「はい、そうです」
「……本気でおっしゃってます?」
「あたりまえじゃないですか」
「えーと。父が亡くなったのはもう、10年近く前なのですが。なぜ今頃になって?」
彼はわたしを“当代当主“と言った。ならばわたしはすでに当主なのだ。話を聞く限り、父が死んだからわたしが当主になったのだ。ならば、10年近く前からわたしは当主であるはずだ。
なぜ、10年もたってからわたしを探したのだろうか。
「見つからなかったのです。正確には見つけられなかったが正しいのでしょうが」
「見つけられなかった?」
「はい。蒼司が死亡したことはすぐにわかりました。そして、それと同時に新しい当主が立ったことも、です。血から考えて新たに当主になったのは蒼司の娘です。蒼司が娘が生まれたと自慢したころから考えても年のころは4つか5つ。あまりにも幼いので、保護しなければと思ったのですがね…。しかし、当主になったのとほぼ同じくして気配が消え去ったのですよ。そうなれば見つけることは非常に困難になってしまうのです。私共は探すときに相手の力の気配を追いかけます。ですが気配がわからなければ追いかけることはできません。ですから、私共はあなたを見つけることができなかったのです。しかし」
そこで彼は一度言葉を区切った。
「しかし?」
わたしは彼にそう問いかけて続きを促した。
「しかし」と彼はもう一度言って続きの言葉を話し始めた。
「しかし、最近になってあなたの気配が再び探せるようになったのです。なぜだかはわかりませんがそれは奇跡に等しく感謝すべきことでした。そうして、私共は再びあなたを探し始めたのです。そして、ようやくあなたを見つけたのです。正式に当主の座に着けるものはただひとり、あなた一人しかいないのです。ですからどうか正しく当主になっていただきたいのです」
彼はわたしにそう言った。
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