雨に天国、晴に地獄

月夜猫

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第六話

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なぜ、わたしの気配を追えなかったのか。なぜ、当主の座に着けるものが他にいなかったのか。
謎はつきなかった。
それでも。重要なのは今なのだ。
「もしもです。もしもわたしが当主になることを断ったらどうなりますか」
「あなたが断ったらですか。そうですねえ、古くからある家が一つ消えることになるでしょう。」
「どうしてですか」
「先ほども申し上げた通り、正しく当主の座に着けるものはただ一人、あなたしかいないからですよ」
本当に、わたししかいないのか。なるしかないのかな。
どうしよう……。正直なところわたしは自分が当主の座に向いているとはこれっぽっちも思っていない。
わたしは頭が悪いとも言えないがいいともいえないし、特段得意なことがあるわけでもない。要するに、中途半端なのだ。
なのだから、わたしは自分が当主にふさわしいとはとてもでは無いが思えない。それでも、彼は一つの家が終わると言った。
それはいいのだろうか、それでいいのだろうか。
わたしの勘違いでなければなくなる雨宮家はわたしの父の家だ。
なくしてしまいたくない。
そう思った。
どうしようどうしたらいいんだろう。答えは知っている。わたしが当主になればいいのだ。
正直なところ決心が全くと言っていいほど、つかない。
わたしはどっちつかずなのだ。
何が正解か分からない。……分からない。わからない、わからない。
正解ってなんだっけ?どうしたらいいんだろう?どうしたら、どうしたら?
頭を抱えてうずくまりたくなった。
考えても、考えても、考えても、考えても。答えは見つからない。
「終わらせたくない」それは確かに本音だった。
だったらわたしが腹をくくればいいんだろう。
ここで諦めたら女がすたるとはこういうことを云うのだろう。
勝ち負けじゃないけれど、なんというかこう、「諦めたくない」そう思った。
じゃあ、やってやろうじゃないの。
「わたしが当主になる」それは夢物語だ。
やってやろうじゃないの、夢物語を現実にしてみせようじゃないの。
さあはじめよう
失敗したら?そんなことは今は二の次にして置いておこう。
「引き受けます。わたしにどこまでできるかわかりません。どこまでやれるかもわからない。それでもいいのなら。わたしは当主になることを引き受けます」
「本当ですかっ!良かったです。これで一安心です。改めまして昌祁しょうきと申します。お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「わたしは、雨宮司織しおりともうします」

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