時計の魔女の追憶

結月彩夜

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1章

プロローグ

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月が高く昇る真夜中のこと。
山の中にそびえたつ古い塔があった。
いつもは人気のない場所だが今日ばかりは違っていた。
「ようやっと、集まれるようになりましたな。“魔女狩り”をしていたもの達ももうおらぬ。」
「残党も落ち着きましたね。」
「我らの存在を信じる者も少なくなって来ましたがな…。」
「もはや、我らはおとぎ話とかしましたな。」
「そうですねえ。時の流れのなんと早い事でしょう。」

『妖精に精霊、悪魔に天使。
今となっては非現実的といわれる者たち。
そんな彼らの中でひと際際立つ者たちがいた。
そんな彼ら・彼女らを魔法使いあるいは魔女と総称した。
魔女は、魔法使いは、妖精は、精霊は、本当に存在したのだろうか。
一般的には、幻覚かあるいは神聖視されたヒトだったとする説が有名である。
また、彼らはある時から排除の対象ともなった。
それが、有名な“魔女狩り”である。
世界的規模で行われた“魔女狩り”の影響で、資料は散逸してしまっており、何故世界規模で“魔女狩り”が行われたかは不明となっている。』
とある本の一説を読み上げ少年はケラケラと笑っていった。
「だってさ。僕らは存在するのにね。それに、僕らを殺したのは、君たちだっていうのにね。」
「当時、私らを殺したのはもう生きてないし、奴らは、資料も残さなかった。だから、今の者たちがわからないのも仕方のないことだよ。」
「確かに忘れ去られましたね…。とはいえ、表に出るものもすくなってきましたしねえ。仕方のないことかもしれません。」

「若いもんもすくないしなあ。」
「え?そうなんですか?師匠。ここにいる方々若くないですか?」
「そう見えるだけじゃよ。ほれそこの窓辺に腰かけておる方がおるじゃろ?」
「はい」
「かの方が最高齢じゃよ。」
「え?!いや若くないですか!?」

「かの方は古い魔女なのだよ。古い方々は外見が若いことが多いのだよ。」
「そうなんですね。」

「我らはこれからどうなるのであろうな。」
「さあてねえ。」
窓辺の少女が初めて言葉を発した。
「多くのものはすぐ近くにいた隣人さえも忘れ去ろうとしています。なのであらば、世界とヒトとの架け橋でもあった我らはもう不要なのでしょう。」
月を見上げていた彼女は振り返って続けた。
「魔女や魔法使いはそう遠くないうちに本当におとぎ話と化すでしょうね。それもまた、運命なのでしょう。」

「…やはり滅びますか。」
「しようのないことなのだらうな。」
「理解はしても納得したくはありませんな。」
─.─

「師匠あの方はなんとおっしゃるのですか?」
「ん?ああ、かの方か。かの方は『時計の魔女ルー・ルー』だよ。」


人は見知らぬ者を、理解出来ないものを恐怖する。
そうして起こったのが、“魔女狩り”であった。
時は流れ、当時を知るものは、今となっては数えるほどしかいない。
そんな数少ない1人である時計の魔女は再び月を見上げた。
そうして、思いを巡らせる。
不思議の生き物たちが、当たり前に闊歩していた時代を瞼の裏に移して。

時計の魔女は回想する。

───
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午後6時にもう1話投稿します


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