無理やり連れて行かれた異世界で私はカースト最下位でした。でも好きな人がいるから頑張れます!

太もやし

文字の大きさ
17 / 21
学校生活

ミューちゃんと歩く帰り道

しおりを挟む
 そして少し進んだところで、頭の上のミューちゃんから大きな溜息が聞こえた。

『なぜわらわがこの小娘の面倒を見ねばならぬのじゃ、アンリお兄様……』

 可愛らしい少女の声が、頭の上から聞こえた。

「ありがとうね、ミューちゃん。ミューちゃんはアンリさんのことが好きなんだね」

『そうじゃな、わらわはアンリお兄様のことが好きじゃ。わらわの主はハルトの方じゃが、アンリお兄様の方が好きなのじゃ』

 主って飼い主って意味かな?

「ハルトさんが飼い主ってことだよね? なんでなの?」

『わらわはこんななりになってしまったが、Sランクの魔獣じゃからの。アンリお兄様は資格をお持ちでないと言っておったわ。じゃがしかし、わらわのためにこれから取得するとも言ってくれたのじゃ。素晴らしいお方じゃろう?』

 あっちでも大型の動物を飼うときは資格が要るって聞いたことあるし、そういうものなのかも?

「さすがアンリさんだね。それで、Sランクってどれぐらいすごいの?」

『それしきも知らぬのか、小娘。お主は本当に馬鹿じゃのう。じゃがわらわは優しいから、お馬鹿なお主に優しく教えてやろう、Sランクはかなり強いと言う意味じゃよ』

 にゃははは、とミューちゃんは笑った。可愛いけど、圧倒的にバカにされている……

「それぐらいわかるよ? 1番上は何で、上から何番目なのって聞いたの」

『おや、分かるのか。分からないと思ったぞ? 1番上はSSランク、つまりわらわは上から2番目じゃの。お主にはたまたま、本当にたまたま遅れを取ったが、本気であればお主ごときひとたまりも、ニャウン!』

 頭の上で、ミューちゃんが痛そうな声を上げながら飛び跳ねた!

「ど、どうしたの、ミューちゃん!?」

 プシュプシュという荒い鼻息が聞こえる。少し怒っているようだった。

『ハルトがわらわに呪(まじな)いをかけたのじゃ。人に危害を加えるようなことを考えれば、身体に激痛が走るというな。逆らえばどうなるか分からぬ相手に情報をむしり取られ、こき使われる……わらわはいわば契約で縛られた身じゃ』

「逆らえばどうなるか分からぬ相手って、ハルトさんのこと? そんなに強いの?」

 最高位って言ってたけど、私の前でハルトさんが魔法を使うときは、だいたい私がピンチで焦ってるときだから、細かく見たことはないな。いつの間にかに魔法を使ってくれて、終わってる感じ。

『あやつは白の神子じゃから攻撃魔法は得意じゃないはずなのじゃが、なかなかやりおるからの。命が惜しいなら、逆らわぬのが吉じゃ』

 あー、白の神子って聞いたことあるかも。

「白の神子って何? なんでハルトさんは攻撃魔法を得意じゃないと思うの?」

『神に選ばれた子のことじゃ。癒しと防御を得意とする白の神子は破壊の化身である黒の神子を抑える役割があるのじゃが、黒の神子は現在、行方不明なのじゃ』

 なんかスケールが大きい話になってきた。私は思わず首を傾げそうになったが、ミューちゃんのにゃという声に、すぐに頭を元の位置に戻した。

「その神子ってどうやって選ばれるの? 人から勝手に呼ばれる感じ?」

 溜息が聞こえた。ミューちゃんは私のこと、絶対にバカにしてる。

『大聖堂にいる教皇に神託が下ると言われておる。先代が死ねば、次代が生まれ開花したら神が教えたもうのじゃ。わらわの母が言うには、人間が崇める神は気まぐれでイタズラ好きの子供みたいなやつらしいぞ』

 日本の神様も意外に変な神様多いし、神様って変な人が多いのかも。

「なんでミューちゃんのお母さんは神様のことを知ってるの? そっちの方がすごくない?」

 にゃふ、とミューちゃんが吐息だけで笑った。

『魔獣の母と言えば、お主ら人の神にも劣らぬ、我らの神×××に決まっておろう。素晴らしき母、我らの守護者よ』

 我らの神のあと、なんて言ったか聞き取れなかった。脳みそが名前を拒絶するというか、発音が全く別物だった。

「じゃあ、ミューちゃんは神様と連絡が取れるんだね。それってすごいことじゃない?」

『……まあ、わらわにも色々あるのじゃ。ほら、寮とやらについたぞ。この話は終わりじゃ』

 急に話を濁されてしまった。何か言いたくないことがあったのかな?

 寮の門にある明かりに照らされた女性がいた。ピーテット夫人だ。

「こんばんは、ピーテット夫人。こんなところで、どうしたんですか?」

 近寄って挨拶すると、ものすごい渋い顔をされた。なんだか怒ってる?

「あなたが門限を破っているとホーネットさんから聞いて、確かめたら男性と会うために寮を出ていったとライコネンさんが教えてくれました。あなた、寮生活というものを分かっていらして?」

 ああ、今まで気づいていなかったけど、私は2人に嵌められたのだ。そこまで卑怯な手を使ってくるなんて、思いもしなかった。

「えっと、ライコネンさんから手紙を渡されたから、ちょっと外出していただけなんです。会いに行ったんじゃなくて、散歩に行っていたんです」

 ちょっと苦しい言い訳かな。でも最初は本当のことだし、信じてもらえるかも知れない。

「では、頭に乗せている、その魔獣はハルトさまのモノではなくて?」

『モノと言うではない、小娘。わらわは気高き魔獣、それを否定するならば、わらわにも考えがあるぞ』

 ふしゃーとミューちゃんが頭の上で威嚇する。ちょっと、爪が頭に刺さってるんですけど!

「どれだけ威嚇しても、その姿では怖くありませんよ。白の神子が契約した魔獣を恐れる者がいますか?」

『ふふ、どうにかしてお主を食ろうてやっても良いのだぞ? どれだけ辛かろうが、誇りを汚される前にお主を殺してやる』

 ああ、ミューちゃんは痛みに耐えてるから、私に爪を立てているんだ。ミューちゃんの誇りという難しいことは分からないけど、それが大事だと言うことは私にでも分かる。

 頭の上にいるミューちゃんをガッと勢いよく捕まえる。

『何をするのじゃ、小娘! わらわは今、あちらの小娘と会話をしておるのじゃぞ』

 ミューちゃんが私の手から離れ、頭の上を飛ぶ。

「ピーテット夫人、ミューちゃんの悪口はやめてください。人の嫌なことを言うことは最低なことだって、私にだって分かります」

『こむ……いや、リンカ……』

 ミューちゃんが初めて名前を呼んでくれた。信頼をもらった気がして、嬉しかった。だからミューちゃんのためにも、私は戦いたかった。

「ハルゾノさんあなた、また私に逆らうの?」

 怖い顔したってダメだ。今回は私が絶対に正しいんだから、怖がる必要はない。

「これは逆らってるんじゃなくて、本当のことを言ってるんです。ミューちゃんに酷いこと言わないでください」

 私はピーテット夫人に向かって胸を張り、彼女に堂々と対峙する。弱気なところは少しでも見せたくなかった。

 ピーテット夫人は眉間にシワを寄せ、タンタンと威嚇するように、つま先を地面に打ち鳴らした。

「そう、あなたは私に逆らうのね。それじゃあ、懲罰室行きよ。因子も封印させていただきます」

 脅したって、無駄だ。私はピーテット夫人の目から目を逸らさず頷いた。

「そうされたって構いませんよ。私は間違っていないんですから、あなたに従う理由はないですもん」

 ピーテット夫人が口の中でゴニョゴニョと何か呟いた。聞き取ろうと体を寄せたけど、その前に私の体を気持ちの悪い因子がまとわりつく。

「これであなたの因子は封印されました。3日間、あなたは魔法が使えないまま懲罰室で過ごしてもらいます」

 魔法が使えないって言われても、15年の人生で魔法を使ったことあるのなんて、こっちに来てからの3回しかないから、あんまり実感がわかない。ただ、懲罰室という響きは少し怖かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...