無理やり連れて行かれた異世界で私はカースト最下位でした。でも好きな人がいるから頑張れます!

太もやし

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学校生活

懲罰室

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 懲罰室は狭くて、小さな窓が1つしかないというあからさまにヤバイ部屋だった。満月の月明かりのおかげで部屋は少し明るかったけど、月がかげったら何も見えなくなるだろう怖さがあった。

『いかにも懲罰をするための部屋じゃな。若者には辛いものがあるじゃろう。しかし安心せよ、リンカ。お主には、わらわがついておる』

 首巻きのように私の肩に乗っていたミューちゃんが、優しい声で慰めてくれた。それが嬉しくて、少し笑顔がこぼれた。

「そうだね、体育倉庫と思えば怖くないかも。それにミューちゃんもいるし、全然怖くないや」

 くぼんだマットレスが置いてあるベッドに座る。……これはマットレスじゃないな、ストレッチとかができる硬い板みたいなものだ。

 ミューちゃんを肩から下ろし、胸に抱く。すると、ミューちゃんはヒクヒクと鼻を動かした。お風呂に入ったから、臭くないはずだよ!

『リンカから良い匂いがするのぅ。お主、何を持っておる?』

 良い匂いでよかった。それに私、何か持っていたかな?

 ミューちゃんに硬いマットレスの上に座ってもらい、ポケットをあさってみる。

「あ、自称神様の男の子からもらったジャーキーがあるよ」

 ジャーキーを見せると、ミューちゃんの瞳が煌めいた。今にもジャーキーに飛びつきそうだ。

『ひ、一口で良い……! わらわにそれをおくれ!』

 ミューちゃんがごめん寝の体勢を取る。か、かわいい。私が悶えていると、勘違いしたのかミューちゃんが潤んだ瞳で、顔を上げた。

『わかった、わらわの昔話を聞かせてやろう。情報と交換しておくれ?』

 そんなことしなくてもあげる予定だったけど、話が聞きたいから、ミューちゃんの言葉に頷いた。

「じゃあ、先に話を聞かせてね。どんな話がいいかな? ここに来る前の話とか?」

 ミューちゃんは頷いて、可愛い身振り手振りを交えつつ話しだした。

『わらわは半月ほど前まで、我らの母が守護なさっている“魔の森”におったのじゃ。そこで平穏と共に暮らしておった。しかしある日、悪質な魔法の扉が開いての。裏庭に飛ばされてしまったのじゃ』

「それは大変だったね。今も帰れてないってことは、扉は閉じたままなの?」

 ミューちゃんは私の質問に頷いたあと、悲しそうに溜息をついた。

『裏庭にはわらわと同じ境遇の魔獣がたくさんおったから、最初は焦りすら感じておらんかった。しかしわらわのようなものは、元々、裏庭におった自我を失した魔獣との縄張り争いに破れ、もう何匹残っておるのかすら分からぬ。あの裏庭は魔法使い共の卒業試験で使われる魔獣がおるらしいが、今は凶暴化しておる……リンカと対峙した、わらわのようにな。お主の命が惜しいならば、1人では2度と近寄ってはならぬぞ』

 そしてミューちゃんは私の太ももに、可愛い手を乗せた。

『わらわはあのとき、生き残るためにお主を殺すつもりじゃった。しかしなんじゃ、この細く今にも折れそうな足は。生き残るためとはいえ、自分より弱いものと思わしきものにすら牙を向くとは、“魔の森”に住む気高き魔獣としての矜持(きょうじ)を忘れておったに違いないわ……怖がらせてしまって、すまんかったの』

 ミューちゃんは自分を責めるように目を伏せた。私はそんなミューちゃんの手を、気持ちが伝わるようにギュッと握った。

「私もミューちゃんが怖がってるのに気づかなくて、ごめん。それにひどい怪我をさせてごめんね。何度謝っても足りないの」

 震える私の声が部屋に響いた。こんなに良い子を傷つけたなんて、後悔だけじゃ足りなかった。

『わらわがお主を威嚇したから、お主は力を解放した。つまりお互い様じゃ』

 そしてミューちゃんは、私のお腹に頭を擦り付けた。小さな頭の感触が、お腹から心に伝わる。

『もう気にするでないぞ、リンカ。わらわは全く気にしてないゆえな』

 涙が出そうになるのを、ズビッと鼻をすすることで耐える。うう、ミューちゃん暖かいよ。

『それにお主と出会えたことで、アンリお兄様にもお会いになれたしの』

 本当に嬉しそうな声でミューちゃんが言った。それが少し面白くて、ふっと吹き出してしまった。

 泣きそうになったり笑ったり、感情が揺れて少しも眠くないはずなのに、なぜか瞼(まぶた)が急に重たくなってきた。

『アンリお兄様はファータ・クランの姫についてお話したがっていたが、わらわは何も知らぬゆえ話すことができなんだことは心残りじゃが、これからお役に立つことを誓ったゆえな、わらわとお兄様の愛は永遠じゃ』

 にゃはははとミューちゃんが楽しそうに笑っている。それなのに私は、深い眠りの底に落ちてしまった。
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