5 / 21
キングレイ邸の案内
しおりを挟む
エヴァはジョンに屋敷を案内してもらっていた。
キングレイ邸の図書室の蔵書は、最新のものから古いものまで集まっていて豊富だった。
「最近の有名な詩集じゃないですか。ずっと見たいと思ってたんですけど、いつも売り切れで手に入らないんですよね」
エヴァは机の上に置いてあった、綺麗な装丁の詩集を手にとった。それは王都で流行になっている詩集で、エヴァはそれを読みたいと思っていた。
「本が読みたければ、好きに読んでくれて構わない」
エヴァは心からの笑顔で、ジョンを見つめた。
「ありがとうございます!」
喜びに輝く瞳に見つめられたジョンは、心をときめかせた。そして早口で答える。
「欲しい本があれば、司書のサムに言ってくれれば取り寄せてくれるだろう」
エヴァは読書を好きだが、ここにある本で満足だと答えた。
次は肖像画の間に案内された。エヴァはおとぎ話で聞いていたキングレイの騎士たちを肖像画で見ることができて、喜んだ。
「彼がミュルディスと契約を結んだキングレイの騎士だ。天使の名を持つゲイブリエル・キングレイ、君も知っているだろう?」
ジョンはエヴァが退屈していないか横目で確かめた。彼女が歴史の授業をつまらないと切り捨てる女性でないことを祈る。しかし彼女は瞳をキラキラと煌めかせ、頬を紅潮させていた。安心したジョンは、胸を撫で下ろした。
「ええ、私たちミュルディスの守護天使になられたお方ですよね。子供の頃から、どんな人だったんだろうと、ずっと想像していました。素敵なお方ですね」
エヴァは子供の頃を思い出した。妹と一緒にベッドに入りながら、毎日、彼の昔話をせがんだものだ。今見ている彼は、ジョンに似ている。エヴァは故郷のことを思い出した。
「私たちミュルディスはグリーンウッドにある隠れ里を故郷にすることを、彼に許してもらいました。その御恩を、私たちは永遠に忘れません」
ジョンは驚いた。そしてどこかにあるはずの資料を探すことを、心の中にあるメモに書き留めた。
ジョンが黙っているときにも、エヴァは食い入るように肖像を見つめていた。おかしな気配を感じるのだ。しかしエヴァは、あまりにもかすかな気配だったため、無視することにした。
そして話は、最後に飾ってある肖像の話になった。それは家族画で、二人の少年と両親が描かれている。
「これは私が子供の頃に書いてもらった肖像だ。父は一人の肖像を飾るより、家族で集まった肖像を飾る方がいいと言い張ったらしい」
肖像からジョンは父に似たのだと、はっきりわかるほど、父にそっくりだった。
「兄夫婦は肖像を書いてもらう前に亡くなってしまったから、これが2代分の肖像になるな」
そう言うジョンはとても悲しげで、エヴァの心はきゅっと痛んだ。
「お兄様たちはいつお亡くなりになられたんですか? このお屋敷は、まだ喪中のようですが……」
ジョンは少し時間を置いてから答えた。ジョンの口は、兄を語ろうとするとかたくなるからだ。
「三週間前の大雨の日に亡くなった。しかし兄さんは用心深い人だった。緊急の用事があるとかで、大急ぎで出かけたらしいが、きっと……」
ジョンは言うつもりのなかったことまで言ってしまい、唇を固く引き結んだ。
「きっと?」
エヴァはその続きが気になったため促した。しかしジョンは首を振り、その話をすることを拒む。
エヴァはもう聞くべきではないと判断し、視線をジョンから肖像に戻した。子供の頃のジョンは。可愛らしい子供で、誇らしそうに兄と母の間に立っている。
しかし、この絵は何か気になる。エヴァはその疑問を声に出した。
「何かおかしい気がします。なんだか魔法の気配を感じるといいますか……うーん」
エヴァの言葉に、ジョンは戸惑ったが、すぐに決断を下した。
「魔法なら私にわからないな……絵の後ろに何か隠してあるのかも知れない」
ジョンが肖像に触ろうとすると、肖像から白い膜のようなものが現れた。
「こんな魔法は見たことありません! 似たものは見たことがありますけど、完成度が桁違いです!」
エヴァは魔法の専門家として鼻息を荒くして解説する。そしてこの魔法を自分の知識に手に入れるべく、解析に回った。
「エヴァ、危険なものかも知れない。下がった方がいい!」
ジョンは空いている片腕で、前に出ようとするエヴァを制した。
「大丈夫です、害がある魔法じゃないんです。これは多分……」
エヴァが言い終える前に、肖像から羊皮紙が何枚も飛び出した。ジョンは浮いているそれを一枚、手に取り読んだ。
それはグリーンウッドにある地所の契約書だった。ジョンはすぐに合点がいった。エヴァが言っていた隠れ里を、彼らが永久的に使えるという契約書だったのだ。
ジョンは羊皮紙を集めた。先日、光の先にあった契約書もその中にあり、それらは契約書と解説の束だった。
ジョンが探そうと思っていた資料は、ここにあったのだ。
キングレイ邸の図書室の蔵書は、最新のものから古いものまで集まっていて豊富だった。
「最近の有名な詩集じゃないですか。ずっと見たいと思ってたんですけど、いつも売り切れで手に入らないんですよね」
エヴァは机の上に置いてあった、綺麗な装丁の詩集を手にとった。それは王都で流行になっている詩集で、エヴァはそれを読みたいと思っていた。
「本が読みたければ、好きに読んでくれて構わない」
エヴァは心からの笑顔で、ジョンを見つめた。
「ありがとうございます!」
喜びに輝く瞳に見つめられたジョンは、心をときめかせた。そして早口で答える。
「欲しい本があれば、司書のサムに言ってくれれば取り寄せてくれるだろう」
エヴァは読書を好きだが、ここにある本で満足だと答えた。
次は肖像画の間に案内された。エヴァはおとぎ話で聞いていたキングレイの騎士たちを肖像画で見ることができて、喜んだ。
「彼がミュルディスと契約を結んだキングレイの騎士だ。天使の名を持つゲイブリエル・キングレイ、君も知っているだろう?」
ジョンはエヴァが退屈していないか横目で確かめた。彼女が歴史の授業をつまらないと切り捨てる女性でないことを祈る。しかし彼女は瞳をキラキラと煌めかせ、頬を紅潮させていた。安心したジョンは、胸を撫で下ろした。
「ええ、私たちミュルディスの守護天使になられたお方ですよね。子供の頃から、どんな人だったんだろうと、ずっと想像していました。素敵なお方ですね」
エヴァは子供の頃を思い出した。妹と一緒にベッドに入りながら、毎日、彼の昔話をせがんだものだ。今見ている彼は、ジョンに似ている。エヴァは故郷のことを思い出した。
「私たちミュルディスはグリーンウッドにある隠れ里を故郷にすることを、彼に許してもらいました。その御恩を、私たちは永遠に忘れません」
ジョンは驚いた。そしてどこかにあるはずの資料を探すことを、心の中にあるメモに書き留めた。
ジョンが黙っているときにも、エヴァは食い入るように肖像を見つめていた。おかしな気配を感じるのだ。しかしエヴァは、あまりにもかすかな気配だったため、無視することにした。
そして話は、最後に飾ってある肖像の話になった。それは家族画で、二人の少年と両親が描かれている。
「これは私が子供の頃に書いてもらった肖像だ。父は一人の肖像を飾るより、家族で集まった肖像を飾る方がいいと言い張ったらしい」
肖像からジョンは父に似たのだと、はっきりわかるほど、父にそっくりだった。
「兄夫婦は肖像を書いてもらう前に亡くなってしまったから、これが2代分の肖像になるな」
そう言うジョンはとても悲しげで、エヴァの心はきゅっと痛んだ。
「お兄様たちはいつお亡くなりになられたんですか? このお屋敷は、まだ喪中のようですが……」
ジョンは少し時間を置いてから答えた。ジョンの口は、兄を語ろうとするとかたくなるからだ。
「三週間前の大雨の日に亡くなった。しかし兄さんは用心深い人だった。緊急の用事があるとかで、大急ぎで出かけたらしいが、きっと……」
ジョンは言うつもりのなかったことまで言ってしまい、唇を固く引き結んだ。
「きっと?」
エヴァはその続きが気になったため促した。しかしジョンは首を振り、その話をすることを拒む。
エヴァはもう聞くべきではないと判断し、視線をジョンから肖像に戻した。子供の頃のジョンは。可愛らしい子供で、誇らしそうに兄と母の間に立っている。
しかし、この絵は何か気になる。エヴァはその疑問を声に出した。
「何かおかしい気がします。なんだか魔法の気配を感じるといいますか……うーん」
エヴァの言葉に、ジョンは戸惑ったが、すぐに決断を下した。
「魔法なら私にわからないな……絵の後ろに何か隠してあるのかも知れない」
ジョンが肖像に触ろうとすると、肖像から白い膜のようなものが現れた。
「こんな魔法は見たことありません! 似たものは見たことがありますけど、完成度が桁違いです!」
エヴァは魔法の専門家として鼻息を荒くして解説する。そしてこの魔法を自分の知識に手に入れるべく、解析に回った。
「エヴァ、危険なものかも知れない。下がった方がいい!」
ジョンは空いている片腕で、前に出ようとするエヴァを制した。
「大丈夫です、害がある魔法じゃないんです。これは多分……」
エヴァが言い終える前に、肖像から羊皮紙が何枚も飛び出した。ジョンは浮いているそれを一枚、手に取り読んだ。
それはグリーンウッドにある地所の契約書だった。ジョンはすぐに合点がいった。エヴァが言っていた隠れ里を、彼らが永久的に使えるという契約書だったのだ。
ジョンは羊皮紙を集めた。先日、光の先にあった契約書もその中にあり、それらは契約書と解説の束だった。
ジョンが探そうと思っていた資料は、ここにあったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。
いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。
ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、
実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。
だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、
王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。
ミレイにだけ本音を見せるようになり、
彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。
しかしレオンの完璧さには、
王宫の闇に関わる秘密があって——
ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、
彼を救う本当の王子に導いていく。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
冴えない女なのに美男子に言い寄られてます。
ぽぽ
恋愛
「一目惚れしました」
恋愛経験がなく、見た目も冴えない女のユイに告白してきたのは年下のハイスペックな男。
最初は冗談かと感じていたが、彼の態度に心が突き動かされる。
「本当に可愛い」
甘い言葉を吐き、ユイとの距離を縮めていくが、そんな彼には大きな秘密があった。
「騙される方が悪いから」
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる