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キングレイ邸の案内
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エヴァはジョンに屋敷を案内してもらっていた。
キングレイ邸の図書室の蔵書は、最新のものから古いものまで集まっていて豊富だった。
「最近の有名な詩集じゃないですか。ずっと見たいと思ってたんですけど、いつも売り切れで手に入らないんですよね」
エヴァは机の上に置いてあった、綺麗な装丁の詩集を手にとった。それは王都で流行になっている詩集で、エヴァはそれを読みたいと思っていた。
「本が読みたければ、好きに読んでくれて構わない」
エヴァは心からの笑顔で、ジョンを見つめた。
「ありがとうございます!」
喜びに輝く瞳に見つめられたジョンは、心をときめかせた。そして早口で答える。
「欲しい本があれば、司書のサムに言ってくれれば取り寄せてくれるだろう」
エヴァは読書を好きだが、ここにある本で満足だと答えた。
次は肖像画の間に案内された。エヴァはおとぎ話で聞いていたキングレイの騎士たちを肖像画で見ることができて、喜んだ。
「彼がミュルディスと契約を結んだキングレイの騎士だ。天使の名を持つゲイブリエル・キングレイ、君も知っているだろう?」
ジョンはエヴァが退屈していないか横目で確かめた。彼女が歴史の授業をつまらないと切り捨てる女性でないことを祈る。しかし彼女は瞳をキラキラと煌めかせ、頬を紅潮させていた。安心したジョンは、胸を撫で下ろした。
「ええ、私たちミュルディスの守護天使になられたお方ですよね。子供の頃から、どんな人だったんだろうと、ずっと想像していました。素敵なお方ですね」
エヴァは子供の頃を思い出した。妹と一緒にベッドに入りながら、毎日、彼の昔話をせがんだものだ。今見ている彼は、ジョンに似ている。エヴァは故郷のことを思い出した。
「私たちミュルディスはグリーンウッドにある隠れ里を故郷にすることを、彼に許してもらいました。その御恩を、私たちは永遠に忘れません」
ジョンは驚いた。そしてどこかにあるはずの資料を探すことを、心の中にあるメモに書き留めた。
ジョンが黙っているときにも、エヴァは食い入るように肖像を見つめていた。おかしな気配を感じるのだ。しかしエヴァは、あまりにもかすかな気配だったため、無視することにした。
そして話は、最後に飾ってある肖像の話になった。それは家族画で、二人の少年と両親が描かれている。
「これは私が子供の頃に書いてもらった肖像だ。父は一人の肖像を飾るより、家族で集まった肖像を飾る方がいいと言い張ったらしい」
肖像からジョンは父に似たのだと、はっきりわかるほど、父にそっくりだった。
「兄夫婦は肖像を書いてもらう前に亡くなってしまったから、これが2代分の肖像になるな」
そう言うジョンはとても悲しげで、エヴァの心はきゅっと痛んだ。
「お兄様たちはいつお亡くなりになられたんですか? このお屋敷は、まだ喪中のようですが……」
ジョンは少し時間を置いてから答えた。ジョンの口は、兄を語ろうとするとかたくなるからだ。
「三週間前の大雨の日に亡くなった。しかし兄さんは用心深い人だった。緊急の用事があるとかで、大急ぎで出かけたらしいが、きっと……」
ジョンは言うつもりのなかったことまで言ってしまい、唇を固く引き結んだ。
「きっと?」
エヴァはその続きが気になったため促した。しかしジョンは首を振り、その話をすることを拒む。
エヴァはもう聞くべきではないと判断し、視線をジョンから肖像に戻した。子供の頃のジョンは。可愛らしい子供で、誇らしそうに兄と母の間に立っている。
しかし、この絵は何か気になる。エヴァはその疑問を声に出した。
「何かおかしい気がします。なんだか魔法の気配を感じるといいますか……うーん」
エヴァの言葉に、ジョンは戸惑ったが、すぐに決断を下した。
「魔法なら私にわからないな……絵の後ろに何か隠してあるのかも知れない」
ジョンが肖像に触ろうとすると、肖像から白い膜のようなものが現れた。
「こんな魔法は見たことありません! 似たものは見たことがありますけど、完成度が桁違いです!」
エヴァは魔法の専門家として鼻息を荒くして解説する。そしてこの魔法を自分の知識に手に入れるべく、解析に回った。
「エヴァ、危険なものかも知れない。下がった方がいい!」
ジョンは空いている片腕で、前に出ようとするエヴァを制した。
「大丈夫です、害がある魔法じゃないんです。これは多分……」
エヴァが言い終える前に、肖像から羊皮紙が何枚も飛び出した。ジョンは浮いているそれを一枚、手に取り読んだ。
それはグリーンウッドにある地所の契約書だった。ジョンはすぐに合点がいった。エヴァが言っていた隠れ里を、彼らが永久的に使えるという契約書だったのだ。
ジョンは羊皮紙を集めた。先日、光の先にあった契約書もその中にあり、それらは契約書と解説の束だった。
ジョンが探そうと思っていた資料は、ここにあったのだ。
キングレイ邸の図書室の蔵書は、最新のものから古いものまで集まっていて豊富だった。
「最近の有名な詩集じゃないですか。ずっと見たいと思ってたんですけど、いつも売り切れで手に入らないんですよね」
エヴァは机の上に置いてあった、綺麗な装丁の詩集を手にとった。それは王都で流行になっている詩集で、エヴァはそれを読みたいと思っていた。
「本が読みたければ、好きに読んでくれて構わない」
エヴァは心からの笑顔で、ジョンを見つめた。
「ありがとうございます!」
喜びに輝く瞳に見つめられたジョンは、心をときめかせた。そして早口で答える。
「欲しい本があれば、司書のサムに言ってくれれば取り寄せてくれるだろう」
エヴァは読書を好きだが、ここにある本で満足だと答えた。
次は肖像画の間に案内された。エヴァはおとぎ話で聞いていたキングレイの騎士たちを肖像画で見ることができて、喜んだ。
「彼がミュルディスと契約を結んだキングレイの騎士だ。天使の名を持つゲイブリエル・キングレイ、君も知っているだろう?」
ジョンはエヴァが退屈していないか横目で確かめた。彼女が歴史の授業をつまらないと切り捨てる女性でないことを祈る。しかし彼女は瞳をキラキラと煌めかせ、頬を紅潮させていた。安心したジョンは、胸を撫で下ろした。
「ええ、私たちミュルディスの守護天使になられたお方ですよね。子供の頃から、どんな人だったんだろうと、ずっと想像していました。素敵なお方ですね」
エヴァは子供の頃を思い出した。妹と一緒にベッドに入りながら、毎日、彼の昔話をせがんだものだ。今見ている彼は、ジョンに似ている。エヴァは故郷のことを思い出した。
「私たちミュルディスはグリーンウッドにある隠れ里を故郷にすることを、彼に許してもらいました。その御恩を、私たちは永遠に忘れません」
ジョンは驚いた。そしてどこかにあるはずの資料を探すことを、心の中にあるメモに書き留めた。
ジョンが黙っているときにも、エヴァは食い入るように肖像を見つめていた。おかしな気配を感じるのだ。しかしエヴァは、あまりにもかすかな気配だったため、無視することにした。
そして話は、最後に飾ってある肖像の話になった。それは家族画で、二人の少年と両親が描かれている。
「これは私が子供の頃に書いてもらった肖像だ。父は一人の肖像を飾るより、家族で集まった肖像を飾る方がいいと言い張ったらしい」
肖像からジョンは父に似たのだと、はっきりわかるほど、父にそっくりだった。
「兄夫婦は肖像を書いてもらう前に亡くなってしまったから、これが2代分の肖像になるな」
そう言うジョンはとても悲しげで、エヴァの心はきゅっと痛んだ。
「お兄様たちはいつお亡くなりになられたんですか? このお屋敷は、まだ喪中のようですが……」
ジョンは少し時間を置いてから答えた。ジョンの口は、兄を語ろうとするとかたくなるからだ。
「三週間前の大雨の日に亡くなった。しかし兄さんは用心深い人だった。緊急の用事があるとかで、大急ぎで出かけたらしいが、きっと……」
ジョンは言うつもりのなかったことまで言ってしまい、唇を固く引き結んだ。
「きっと?」
エヴァはその続きが気になったため促した。しかしジョンは首を振り、その話をすることを拒む。
エヴァはもう聞くべきではないと判断し、視線をジョンから肖像に戻した。子供の頃のジョンは。可愛らしい子供で、誇らしそうに兄と母の間に立っている。
しかし、この絵は何か気になる。エヴァはその疑問を声に出した。
「何かおかしい気がします。なんだか魔法の気配を感じるといいますか……うーん」
エヴァの言葉に、ジョンは戸惑ったが、すぐに決断を下した。
「魔法なら私にわからないな……絵の後ろに何か隠してあるのかも知れない」
ジョンが肖像に触ろうとすると、肖像から白い膜のようなものが現れた。
「こんな魔法は見たことありません! 似たものは見たことがありますけど、完成度が桁違いです!」
エヴァは魔法の専門家として鼻息を荒くして解説する。そしてこの魔法を自分の知識に手に入れるべく、解析に回った。
「エヴァ、危険なものかも知れない。下がった方がいい!」
ジョンは空いている片腕で、前に出ようとするエヴァを制した。
「大丈夫です、害がある魔法じゃないんです。これは多分……」
エヴァが言い終える前に、肖像から羊皮紙が何枚も飛び出した。ジョンは浮いているそれを一枚、手に取り読んだ。
それはグリーンウッドにある地所の契約書だった。ジョンはすぐに合点がいった。エヴァが言っていた隠れ里を、彼らが永久的に使えるという契約書だったのだ。
ジョンは羊皮紙を集めた。先日、光の先にあった契約書もその中にあり、それらは契約書と解説の束だった。
ジョンが探そうと思っていた資料は、ここにあったのだ。
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