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怒りと決意
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ジョンを除いた四人は、応接室で先ほど話していたことをセシルに伝えた。
「ふんふん、これからミュルディスと対峙するかも知れないから、私の異能が必要なのね。うん、エヴァと何度か訓練したことがあるから、できるわよ」
セシルはこともなさそうに、そう言う。彼女の異能は自信が大きく関係するため、血のにじむ訓練で経験を積んでいる。その経験に裏付けされた自信で、彼女は頷いた。
暗い雰囲気のジョンが応接室に入った。レディに思い当たる節があると言っていたジョンは、自室で、ミュルディスとの契約書を調べていた。
「ミュルディスと契約しているレディが誰かわかった」
ジョンは低い声でそう言った。彼は落ち込んでいて、辛そうな顔をしている。
「どうしたんですか、ジョン? なぜ、そんなに悲しそうなの?」
驚いたエヴァはジョンに駆け寄り、腕に触れた。少しでも彼の悲しみを和らげることができれば、とエヴァは願った。
「彼女もキングレイだ……キングレイだった、だな。あのミュルディスは、彼女の一族を守るように、私の祖父が頼んだ契約を守っているに過ぎない。その契約書は、こちらにある……」
ジョンは腕に触れているエヴァの手を、もう一方の手で上から優しく触った。
「あのレディは、祖父の妹の娘だろう。父は従姉妹と折り合いが悪く、私は一度も会ったことはないが……動機は全く分からない」
ジョンは顔をしかめた。
しかしセシルが口を大きく開けて、彼女自身は答えが分かっている問をジョンにした。
「貴族が同じ一族を殺す理由なんて、一つじゃないの?」
みんな分からず、お互いに顔を見合わせた。
セシルはできの悪い生徒を相手にするように、首を横に振った。そして大げさに肩を落として、こう言う。
「ほしいものは、ただ一つ。爵位よ」
一瞬、間が空いたあと、ジョンは大きく震えた。
「そんなことのために、兄さんは殺されたのか!」
怒りを制御しようとしたが、無理だった。ジョンは激高し、大声を出した。エヴァの手を離し、手が真っ白になるほどの握りこぶしをつくる。
「ジョン、落ち着いてください」
エヴァは懇願するように、握りこぶしを握る。ジョンの気持ちは痛いほどわかるが“キングレイ”の名前が持つ重要性をエヴァは、理解していた。
「あなたにとって『そんなこと』は、彼女にとって人を殺してでも手に入れたいことだったようね」
セシルは冷静な声で諭すように言った。グレイがジョンの肩を叩く。クレアはエヴァのそばに寄り、状況の行く末を案じた。
「落ち着くんだ、ジョン。戦う相手とその思惑がわかった。私たちがすべきことはなんだ?」
グレイの落ち着いた声に、ジョンは段々と平静を取り戻した。
「勇敢に戦い、相手に敗北を与える……しかしもう一度だけ、本当に彼女たちが犯人なのか、確かめさせてくれ」
ジョンは自分が導き出した答えを信じたくなかった。だから作戦を考えた。
「ジョン、どうするつもりなんですか? 危ないことは絶対にさせられません」
すこし怒った声を出したエヴァは、ジョンの握りこぶしを強く握った。ジョンはエヴァの方を向き、握りこぶしをほどき、その手を握った。
「いいや、兄の無念を晴らすためなら、家族への信頼を取り戻すためなら、私は危ない橋を何度だって渡ってやる。君の心配はありがたいが、これはやらなければならないことなんだ。家族が傷つけあうなんて、間違っている」
琥珀色の瞳は、悲しみと失望に彩られていた。エヴァは彼の目尻を撫でる。ジョンの部屋で愛を交わしていたときの、愛と優しさに満ちた輝きを取り戻してほしかった。
「ダメだよ、エヴァ、もう決めたんだ。君を愛しているが、今は私を信じてほしい」
真剣なジョンに、エヴァはとうとう折れた。
「わかりました、あなたを信じます」
でも、絶対に守るから。エヴァは心の中で、そう付け足した。
「ふんふん、これからミュルディスと対峙するかも知れないから、私の異能が必要なのね。うん、エヴァと何度か訓練したことがあるから、できるわよ」
セシルはこともなさそうに、そう言う。彼女の異能は自信が大きく関係するため、血のにじむ訓練で経験を積んでいる。その経験に裏付けされた自信で、彼女は頷いた。
暗い雰囲気のジョンが応接室に入った。レディに思い当たる節があると言っていたジョンは、自室で、ミュルディスとの契約書を調べていた。
「ミュルディスと契約しているレディが誰かわかった」
ジョンは低い声でそう言った。彼は落ち込んでいて、辛そうな顔をしている。
「どうしたんですか、ジョン? なぜ、そんなに悲しそうなの?」
驚いたエヴァはジョンに駆け寄り、腕に触れた。少しでも彼の悲しみを和らげることができれば、とエヴァは願った。
「彼女もキングレイだ……キングレイだった、だな。あのミュルディスは、彼女の一族を守るように、私の祖父が頼んだ契約を守っているに過ぎない。その契約書は、こちらにある……」
ジョンは腕に触れているエヴァの手を、もう一方の手で上から優しく触った。
「あのレディは、祖父の妹の娘だろう。父は従姉妹と折り合いが悪く、私は一度も会ったことはないが……動機は全く分からない」
ジョンは顔をしかめた。
しかしセシルが口を大きく開けて、彼女自身は答えが分かっている問をジョンにした。
「貴族が同じ一族を殺す理由なんて、一つじゃないの?」
みんな分からず、お互いに顔を見合わせた。
セシルはできの悪い生徒を相手にするように、首を横に振った。そして大げさに肩を落として、こう言う。
「ほしいものは、ただ一つ。爵位よ」
一瞬、間が空いたあと、ジョンは大きく震えた。
「そんなことのために、兄さんは殺されたのか!」
怒りを制御しようとしたが、無理だった。ジョンは激高し、大声を出した。エヴァの手を離し、手が真っ白になるほどの握りこぶしをつくる。
「ジョン、落ち着いてください」
エヴァは懇願するように、握りこぶしを握る。ジョンの気持ちは痛いほどわかるが“キングレイ”の名前が持つ重要性をエヴァは、理解していた。
「あなたにとって『そんなこと』は、彼女にとって人を殺してでも手に入れたいことだったようね」
セシルは冷静な声で諭すように言った。グレイがジョンの肩を叩く。クレアはエヴァのそばに寄り、状況の行く末を案じた。
「落ち着くんだ、ジョン。戦う相手とその思惑がわかった。私たちがすべきことはなんだ?」
グレイの落ち着いた声に、ジョンは段々と平静を取り戻した。
「勇敢に戦い、相手に敗北を与える……しかしもう一度だけ、本当に彼女たちが犯人なのか、確かめさせてくれ」
ジョンは自分が導き出した答えを信じたくなかった。だから作戦を考えた。
「ジョン、どうするつもりなんですか? 危ないことは絶対にさせられません」
すこし怒った声を出したエヴァは、ジョンの握りこぶしを強く握った。ジョンはエヴァの方を向き、握りこぶしをほどき、その手を握った。
「いいや、兄の無念を晴らすためなら、家族への信頼を取り戻すためなら、私は危ない橋を何度だって渡ってやる。君の心配はありがたいが、これはやらなければならないことなんだ。家族が傷つけあうなんて、間違っている」
琥珀色の瞳は、悲しみと失望に彩られていた。エヴァは彼の目尻を撫でる。ジョンの部屋で愛を交わしていたときの、愛と優しさに満ちた輝きを取り戻してほしかった。
「ダメだよ、エヴァ、もう決めたんだ。君を愛しているが、今は私を信じてほしい」
真剣なジョンに、エヴァはとうとう折れた。
「わかりました、あなたを信じます」
でも、絶対に守るから。エヴァは心の中で、そう付け足した。
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