侯爵と約束の魔女 ひと目惚れから始まる恋

太もやし

文字の大きさ
21 / 21

永遠の続きを

しおりを挟む
 ジョンはまた医師のセドリックに看てもらった。全治三ヶ月の診断を下され、ジョンは寝室で安静を言いつけられた。
 《戦乙女》の面々は、エヴァをキングレイ邸に残し、エリザベスとゲイブリエルを王都の警察に連行していった。

「ジョン、ケガの具合はどうですか?」

 エヴァはジョンの部屋に入ると、心配そうに尋ねた。ジョンは悲しげな微笑みを浮かべる。全くそんな気分ではなかったが、エヴァを安心させたかったからだ。

「ケガがなんだ。生きているから、それでいい……兄さんたちと生まれるはずだった子どもは、もっと幸せになるはずだったんだ」

 生まれるはずだった子どもの話をエリザベスから聞かされたジョンは、悲嘆に暮れていた。あの子は両親に愛され、幸せな未来が約束されていた。それを奪ったエリザベスを、ジョンは許せそうになかった。

「そんなこと言わないでください、ジョン。私はあなたがケガをしただけで、こんなにも胸が痛いんですから」

 エヴァはジョンの手を握った。暖かな温度が、ジョンの手に伝わる。

「誰にも知られずに両親と弔われてしまったけれど、あの子もちゃんと弔ってあげましょう? こんなに優しい叔父さんが、あの子の魂が天に迎えられるように祈るんだから、神様だって優しくしてくれます」

「ああ、愛しいあの子の魂に神の祝福を……そういえば、エヴァ。君はいつまで、私に敬語で喋るんだい?」

 ジョンは十字をきった。そしてエヴァの手を取り、口づけると、いたずらな輝きを灯す瞳で彼女を見つめる。

「これは癖のようなものなんです。だってキングレイ様は、ずっと私のおとぎ話の騎士だったんですよ」

 エヴァは頬を染めながら、はにかんだ。

「おとぎ話の騎士か……彼もミュルディスの魔女と恋に落ちたんだよ。愛する女性のため、彼女の種族を救った。まさに童話のような存在だ」

 エヴァは知らなかった事実に、目をぱちくりとさせた。

「まあ、知らなかったわ」

「知らなくて当然だよ。彼女がどこの出身か、後の世のキングレイの当主が贔屓をしてしまわないように、隠してしまったんだから……だから、このことは私たちと、私たちの子どもだけの秘密だ」

 ジョンはエヴァの耳元でささやいた。

「君はいつ軍を退役できる? 早く私の元に来てほしい。そうすれば、私はもう君を離さない」

 エヴァは耳にかかる吐息に震えた。そしてジョンの背中に手を回し、愛していると伝える。

「あと一年、契約が残ってるわ……待っていて、絶対にあなたの腕に帰ってくるわ」

「一年か……長いけれど、ちゃんと待つよ。遠距離恋愛だって、私には全く苦じゃない。ああ、苦しくないとも……時々、君に会いに行っていいかい?」

 ジョンはエヴァを強く抱きしめる。まるで溶け合おうとするみたいに。

「私だって、あなたに会いにいくわ。時間も距離も、私たちの邪魔はできないもの」

 エヴァはジョンの唇に優しいキスをした。

「ああ、愛しいエヴァ、私だけの魔女。私は君のように魔法は使えないけれど、君を幸せにしてみせると誓うよ」

 エヴァは思わず笑ってしまった。ジョンが不思議そうにエヴァを見つめる。そんな彼も愛おしくて、エヴァは子どもにするような頬のキスを彼に贈った。

「あなたは魔法を使えるわ。あなたは私に恋の魔法をかけたもの…この世の中で最も強い、そして永遠の魔法を、ね」

 エヴァの愛しさが募った言葉に、ジョンは幸せそうに笑った。ああ、彼のこの笑顔が大好き。エヴァもつられて、笑みを深める。

 天上からの光が降り注いでいるかのように、彼女たちは幸せに光り輝いていた。こんな時間を重ね、私たちは幸せになる。そんな未来が二人を待っていた。
 キングレイとミュルディスはこれからも続いていく。その歴史のタペストリーを編み続ける人が、ここにいるのだから。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ぷるぷる
2017.09.19 ぷるぷる

大変面白かったです!
ジョンとエヴァのこれからを期待します

2017.09.20 太もやし

ありがとうございます!

期待に応えられるように、頑張りますね。
感想ありがとうございました

解除

あなたにおすすめの小説

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

王の影姫は真実を言えない

柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。 けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。 一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。

セイレーンの家

まへばらよし
恋愛
 病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。