40 / 133
第3章 休暇編
5
しおりを挟む
翌日。
元々じっとしていられない性分の景雲は朝から城下をふらふらしていた。
適当な店に入って物色していたが、酒屋に入ったとき自分が制作に携わった「わらべ唄」を見つけた。
さすがにその時はほくそ笑んでしまった。
酒屋を後にして、雑貨屋の近くを通りかかったときだった。
「あれは…、伯家の姫、秀英の妹か?」
店先にいたのは秀英の妹、紅露である。
ちなみに景雲と紅露は面識はない。
けれど、景雲の頭の中には貴族の家族構成の情報がしっかりと入っている。
だから、紅露の着ている着物の一部に伯家を表す家紋と家族構成の情報で秀英の妹と判断できたのだ。
景雲は紅露に近づき、話しかけた。
「やぁ、初めまして」
「…どなた?」
「俺は容 景雲。君の兄の秀英と一緒に仕事をしているんだ」
「まぁ、お兄様の?じゃあ昨晩話していたのは景雲様のことかしら」
まさか秀英が妹に自分の話とは思っていなかったので、景雲は目を丸くする。
しかしすぐにいつもの飄々とした表情に戻して話を続けた。
「秀英から話を聞いているのか。俺のことは何と?」
「景雲様のことを直接は指しておりませんの。
言動が軽い方と、根性が座っている方とおっしゃっておりましたわ」
『根性が座っている』というのを聞いて、景雲はすぐに晏寿のことだと思った。
だから自分のことを秀英が『言動が軽い』と表現したことに少しばかりいらっとした。
でも、間違っていないため何とも言えない。
そのことを紅露に教えるつもりもないため、景雲は違う話をすることにした。
「そうか、晏寿のことも話してるんだな」
「晏寿様…?」
景雲から出てきた女性らしい名前を聞いて、紅露はきょとんとした。
自分の兄と女の人を結びつけられないほど、秀英には女の影はないらしい。
「秀英から聞いてないか?晏寿というのは同期の女人だ」
「女の人も働いているのですか!?しかも、あのお兄様と一緒に」
「まだ浸透してないのだな。女人でも官吏試験を受けられるようになって、晏寿がその第一号だ」
「そうだったのですか、知りませんでしたわ。
でも私、お兄様の口から女の人のことを聞くのは初めてです」
両頬に手を当てて楽しそうにしている紅露。
兄の知らない部分を聞いて、嬉しいらしい。
ふと景雲が視線を外す。
「お、噂をすれば何とやら。紅露殿、秀英が話していた女人とは会ってみたくは?」
「会えるのでしたら是非!」
目をきらきらさせながら景雲を見る。
ふっと景雲は笑って、ある方向へと手を振った。
「おーい、晏寿!」
偶然買い物に来ていた晏寿が通りかかったのだ。大きな声で名前を呼ばれて晏寿はびっくりしたが、景雲だったので呆れた視線を向ける。
「景雲、こんな街中で大きな声で呼ばないでよ。恥ずかしいじゃない」
「いいだろう、減るもんじゃない」
そこまで言って、景雲が隣にいた紅露に視線を向ける。それにつられて晏寿も紅露を見た。
「こちら秀英の妹君の伯 紅露殿」
「え、秀英の妹さん!?初めまして、柳 晏寿と申します」
「兄がお世話になっております。
伯 紅露と申します」
慌てて挨拶する晏寿。
それに対して紅露は優雅にお辞儀した。
「わ~、秀英にこんなに可愛い妹さんがいるなんて。景雲は知ってたの?」
「いや、先程見かけたから声をかけた」
景雲の発言に晏寿は顔をしかめた。
「初対面でいきなり声かけたの?」
景雲は晏寿に対して肩をすくませるだけだった。今度は紅露のほうに向きかえる。
「いいですか。
いきなり知らない人に声かけられても簡単に返事しちゃ駄目ですよ。今回はまだ大丈夫でしたけど、この男も本来は信頼してはならないんですから。秀英に景雲の処罰は託しておきます」
「おい、俺は女人に声をかけるだけで犯罪者扱いになるのか?」
「黙らっしゃい。こんな純粋無垢なお嬢さんを誑かそうとして」
「…すごいです」
「はい?」
少しばかり紅露を放置して景雲と言い合いをしていたら、いきなり紅露が呟いた。
元々じっとしていられない性分の景雲は朝から城下をふらふらしていた。
適当な店に入って物色していたが、酒屋に入ったとき自分が制作に携わった「わらべ唄」を見つけた。
さすがにその時はほくそ笑んでしまった。
酒屋を後にして、雑貨屋の近くを通りかかったときだった。
「あれは…、伯家の姫、秀英の妹か?」
店先にいたのは秀英の妹、紅露である。
ちなみに景雲と紅露は面識はない。
けれど、景雲の頭の中には貴族の家族構成の情報がしっかりと入っている。
だから、紅露の着ている着物の一部に伯家を表す家紋と家族構成の情報で秀英の妹と判断できたのだ。
景雲は紅露に近づき、話しかけた。
「やぁ、初めまして」
「…どなた?」
「俺は容 景雲。君の兄の秀英と一緒に仕事をしているんだ」
「まぁ、お兄様の?じゃあ昨晩話していたのは景雲様のことかしら」
まさか秀英が妹に自分の話とは思っていなかったので、景雲は目を丸くする。
しかしすぐにいつもの飄々とした表情に戻して話を続けた。
「秀英から話を聞いているのか。俺のことは何と?」
「景雲様のことを直接は指しておりませんの。
言動が軽い方と、根性が座っている方とおっしゃっておりましたわ」
『根性が座っている』というのを聞いて、景雲はすぐに晏寿のことだと思った。
だから自分のことを秀英が『言動が軽い』と表現したことに少しばかりいらっとした。
でも、間違っていないため何とも言えない。
そのことを紅露に教えるつもりもないため、景雲は違う話をすることにした。
「そうか、晏寿のことも話してるんだな」
「晏寿様…?」
景雲から出てきた女性らしい名前を聞いて、紅露はきょとんとした。
自分の兄と女の人を結びつけられないほど、秀英には女の影はないらしい。
「秀英から聞いてないか?晏寿というのは同期の女人だ」
「女の人も働いているのですか!?しかも、あのお兄様と一緒に」
「まだ浸透してないのだな。女人でも官吏試験を受けられるようになって、晏寿がその第一号だ」
「そうだったのですか、知りませんでしたわ。
でも私、お兄様の口から女の人のことを聞くのは初めてです」
両頬に手を当てて楽しそうにしている紅露。
兄の知らない部分を聞いて、嬉しいらしい。
ふと景雲が視線を外す。
「お、噂をすれば何とやら。紅露殿、秀英が話していた女人とは会ってみたくは?」
「会えるのでしたら是非!」
目をきらきらさせながら景雲を見る。
ふっと景雲は笑って、ある方向へと手を振った。
「おーい、晏寿!」
偶然買い物に来ていた晏寿が通りかかったのだ。大きな声で名前を呼ばれて晏寿はびっくりしたが、景雲だったので呆れた視線を向ける。
「景雲、こんな街中で大きな声で呼ばないでよ。恥ずかしいじゃない」
「いいだろう、減るもんじゃない」
そこまで言って、景雲が隣にいた紅露に視線を向ける。それにつられて晏寿も紅露を見た。
「こちら秀英の妹君の伯 紅露殿」
「え、秀英の妹さん!?初めまして、柳 晏寿と申します」
「兄がお世話になっております。
伯 紅露と申します」
慌てて挨拶する晏寿。
それに対して紅露は優雅にお辞儀した。
「わ~、秀英にこんなに可愛い妹さんがいるなんて。景雲は知ってたの?」
「いや、先程見かけたから声をかけた」
景雲の発言に晏寿は顔をしかめた。
「初対面でいきなり声かけたの?」
景雲は晏寿に対して肩をすくませるだけだった。今度は紅露のほうに向きかえる。
「いいですか。
いきなり知らない人に声かけられても簡単に返事しちゃ駄目ですよ。今回はまだ大丈夫でしたけど、この男も本来は信頼してはならないんですから。秀英に景雲の処罰は託しておきます」
「おい、俺は女人に声をかけるだけで犯罪者扱いになるのか?」
「黙らっしゃい。こんな純粋無垢なお嬢さんを誑かそうとして」
「…すごいです」
「はい?」
少しばかり紅露を放置して景雲と言い合いをしていたら、いきなり紅露が呟いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる