柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

文字の大きさ
39 / 133
第3章 休暇編

4

しおりを挟む
「そうだ、晏寿の仕事ぶりはどうなんだ?
ぜひ同僚の君達からの評価を聞いてみたい」

食事が進んでいくとだんだん二人にも慣れたのか、食後に怜峯がそんなことを聞いてきた。
晏寿は後片付けをしていたが怜峯の発言にどきりとする。

「ちょっと兄様、変なこと聞かないでよ」
「いいじゃないか、減るもんじゃないし」

晏寿の不満も景雲があっさりと否定してしまい、また片づけに手いっぱいになってしまったため晏寿はそれ以上の苦言が言えなかった。

「もし晏寿がいなかったら、先日まで行っていた北楊村で馴染むのに時間がかかっていたと思います。女人の柔らかい雰囲気のお蔭でまず子供達が馴染んでくれて。
俺と秀英だけだったらきっとあそこまで溶け込めなかった」
「確かに。それに実を言うと、今の大臣のところに配属されたばかりの頃は晏寿は周りから存在を否定されていました。
しかし、彼女自身の頑張りと実力で今の職場で晏寿を悪く言う人はいません。むしろ華があると喜んでいます」

「もー、やだなぁ。
二人が変なこというから居心地悪いじゃない」

バツの悪い表情でせっせと茶碗や鍋を片づけていく。質問をした怜峯はというと、自分の妹の評価が高かったことに満足なのか嬉しそうに目を細めた。
晏寿はこれ以上自分に分が悪いことを言われないために二人を促した。

「あ、ほら。だいぶ遅くなっちゃったじゃない。家の人が心配してるんじゃない?」
「ああ、だいぶ長居してしまったな。
景雲、そろそろ帰るぞ」

秀英が晏寿の真意には気付かずに、単純に人への迷惑を考えた行動に出る。
景雲は秀英に言われて渋々腰をあげた。
そして玄関まで晏寿と怜峯は見送りに出る。

「遅くまですみませんでした。そして夕食をありがとうございます」
「いや、晏寿の仕事をしている様子なんてなかなか聞ける話ではないからこちらこそありがとう」

秀英と怜峯のやり取りを聞いていて、最初は二人のことを良く思っていなかった怜峯が打ち解けてくれたことにほっとする晏寿。

「だがな」

しかしそんな雰囲気を怜峯はあっさりとぶち壊した。

「同僚、友人としては認めるが、晏寿を嫁にはやらんからな!」

二人が帰ったあと怜峯が晏寿にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。



「お帰りなさいませ、秀英様」

秀英が家に帰ると恭しく鈴が頭を下げる。
それを秀英は「ああ」と軽く流す。

「あの、秀英様」
「なんだ」
「本日はどちらに…
このように遅くなることは今までなかったので、ご主人様も奥様も心配なさって」
「鈴には関係ない。用があれば直接二人から聞く」
「っ!」

晏寿の家での柔らかい雰囲気はなく、後ろをちょこちょこ歩く鈴を冷たくあしらう。
その反応に鈴は息を飲んだ。その様子を気にするでもなく、秀英は自室へと向かった。

「お兄様!おかえりなさいませ」

鈴を撒いたあと、次に現れたのは妹・伯 紅露はく こうろである。
桃色の着物をひらひらさせながら秀英に近づいてくる。

「お兄様、今日は遅かったのですね?」
「…友人と夕食を食べて帰ってきた」

実妹は鈴のようにはあしらえない。
正直に何をしていたのか話す。

「まぁ!
お兄様にそんな仲のご友人がいらっしゃったのね。ねぇ、どんな方?」

質問を投げかけながら、部屋に入っていく秀英のあとを追う紅露。
どんな、と言われて暫く考え、思いついたことを口にする。

「…言動が軽い者と、根性が座っている者だな」
「全然お兄様と性格が違うのですね。どこでお知り合いになったの?」
「同僚だ」
「お仕事仲間なのね」

口元に両手をあてて、楽しそうに笑う紅露。
それを秀英は不思議そうに見る。

「そんなに俺の同僚の話が面白いか?」
「そうではなくて。
お兄様が誰かと出かけたり、誰かの話をするなんて今までありませんでしたし。初めてお兄様が人間に感じましたわ」
「…俺は生まれたときから人間だが」
「まるで人形のようでしたもの。兄妹とは思えないくらい。だから、お兄様と無駄話ができて嬉しいの」

本当に嬉しそうに紅露が笑うので、秀英はそれ以上何も言えなかった。
ただ『一年以上おしゃべりと一緒にいたから移ってしまったか』と少しばかり心配するのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...