柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

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第4章 後宮潜入編

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翌日、晏寿は儀円に先導されながら妃用の格好でとある部屋へと向かった。
その部屋に着くと先に儀円が入っていく。

「大臣を仰せつかっております、李 儀円でございます。本日は殿下に一人の女人と拝謁していただきたく参りました」

晏寿は緊張して外で待っていた。
そして儀円に呼ばれて中に入っていく。

中には儀円ともう一人、青年がいた。
たれ目と泣きぼくろが印象的だった。
彼の身につけている服の生地は見るからに上等そうで、晏寿は委縮する。

「李大臣、彼女?」
「はい。この者を殿下の妃に迎えようと思っております」
「へぇ…」

青年はまるで他人事のような反応である。
晏寿はこれまでの流れから、彼が宝 京雅であると認識した。

「挨拶を」
「はい」

晏寿は少し前に出て恭しく頭を下げた。

「授 安里と申します、よしなに」
「うん、僕は宝 京雅。よろしくね」

ふにゃっと笑うと柔らかいくせのついた髪が揺れる。
こうして顔合わせは終わり、さっさと儀円は出ていった。
いきなり二人きりになり、晏寿はどうしたものかと考える。
とにかく京雅のことを知らなければと思い、声をかける。

「あの、殿下」
「何?」
「殿下は何か疑問に思うことはございませんか?」
「あるよ」

漠然とした質問をしてしまったと思っていたが、晏寿の心配は余所にあっさりとしている京雅。ゆっくりとした動作で立っている晏寿を見上げる。

「とりあえず座ったら?」
「は、はい。失礼いたします」

京雅に距離をとって座る晏寿。
柔らかい視線を晏寿に向けて京雅は首を傾げた。

「じゃあ質問に答えるね。どうしてそんなに仰々しく話すの?」
「それは、貴方様がこの国の皇太子殿下だからにございます」
「でもこれから夫婦になるんでしょ?」
「…けれど」
「そもそも夫婦ってどうしたらいいの?」
「え…」
「父と会うときは母がいなかったし、母と会うときは父がいなかったから。だから二人でどんな会話をしたのかもどんな表情でお互いを見てたのかも知らない。君はそれを教えてくれるの?」

京雅の逸脱した話に晏寿は呆気にとられた。
そんな中でも、一つのことが判明した。

普通ならば生まれたときは“ただ”の赤ん坊だが、この人は生まれたときから「皇太子殿下」で、この国の次期国王なのだ。
普通の子供のようには接してもらっておらず、周りから一定の距離を保たれたまま今まで接せられてきたのだった。

だからどこか人間として足らない部分を晏寿は感じていた。
そして自分のしなければならない『使命』を今理解した。

『宝 京雅を人間にする』

ただの教育係ではなく、京雅の欠落している部分を埋めていくこと。これが真の仕事だったのだった。

理解した晏寿は京雅との間に自然にとっていた距離をつめて真っすぐ見つめた。

「貴方様は生まれたときから『皇太子殿下』なのですね」
「?」
「それなら私は貴方を一人の人間、『宝 京雅』として見つめます」
「どういうこと?」
「私は貴方の味方だということです。わからないことがあれば、私に何でもおっしゃってください。その代わり、私ももう遠慮しません」
「遠慮しないって?」
「二人きりのときは普通に接します。
人の目がある時はそうはいきませんが…これからは『殿下』とは呼ばずに『京雅様』とお呼びます」
「京雅様…か」

晏寿の申し出にどこか納得いかないような顔をする。何か気分を害したのだろうかと晏寿は不安になった。

「様もいらないんだけどなぁ。あと敬語も」
「…善処します」

そう言うと京雅はふふっと笑った。
楽しそうな京雅の姿を見て、心が温かくなる気がした晏寿であった。

しかし、この短時間で京雅という人は、王の器としても人としても足らない所だらけで、これから骨が折れるなと感じたのだった。
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