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第4章 後宮潜入編
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「どう思うか、秀英」
二人きりになったところで景雲が小声で尋ねる。
秀英は真っすぐ前を向いたまま、淡々と話す。
「検閲にかかるだろうな。しかし、読まれても問題ない話ばかりだ」
「それにしても晏寿と話がしたいというだけで、こんなに苦労するとはな」
「全くだ」
ここで二人は改めて晏寿の存在が大きかったことを知った。
晏寿がいないだけで、どこか寂しさを感じる。
離れてそこまで時間は経っていないが、もう何年も会ってないような気持ちになっていた。
そんなことを思われているとは露知らない晏寿は今日も京雅の勉強に付き合っていた。
京雅は休憩時間のお茶受けを楽しみに勉強に励むようになった。
「ねぇ安里、今日のお茶菓子は何?」
「胡麻団子です。はい、これ解いて下さい」
「胡麻団子かぁ~」
まだ食べてもいないのに、京雅の顔は緩んでいく。それを晏寿が許すわけもなく、しっかり勉強するように促した。
よくこうして脱線していたが、京雅の勉強の意欲は増していた。だからどんどん知識を吸収していった。
「安里、できたよ」
「はい。…できてますね」
「じゃあお茶にしよう」
「わかりました。では準備してきます」
「うん」
嬉しそうに笑う京雅。そんなに楽しみかと、つい苦笑してしまうのだった。
茶と胡麻団子を用意して京雅の元へ行く。
それを京雅の前に並べると、更に目が輝きだした。
「良いにおい。いただきます」
「どうぞ」
美味しそうに京雅が胡麻団子を食べているのを見てから、晏寿も一つかじった。
中の餡も甘さ控えめで上手くできている。
「安里」
「はい?」
京雅の手がすっと伸びてきて口の端に触れる。
そして晏寿の口の端に触れた指をそのままぺろりと舐めた。
「…へ」
「胡麻がついてたよ」
ワザとなのか、それとも素でやったのか。
いきなりのことで晏寿は反応することができなかった。
「どうしたの、安里?」
「…へ?あ、はい…ちょっとびっくりしちゃって」
「びっくり?なんで?」
「…その、いきなり触れてきたので」
「?安里は僕のお嫁さんでしょ?ならいくら触れてもいいじゃない」
「…っ!」
そう言って京雅は右手で晏寿の手を握り、左手で晏寿の頬をすっと撫でた。
京雅の行動に晏寿は更に息を飲む。
京雅は優しく晏寿を見つめていて、晏寿はその場の空気に飲まれそうになっていた。
しかしはっと気付く。
今は勉強をする時間であって、こんな雰囲気になることがあるまじきことだ。
晏寿はぱっと手を放し、立ち上がった。
「休憩中とはいえ今は勉強する時間!からかわないでください」
晏寿は「次の準備をしてきます」とその場を立ち去った。
残った京雅はぽかんとしながら晏寿の後ろ姿を眺めていた。
「別にからかってなんかないんだけどな…」
ぽつりと呟いた京雅の声は残念ながら晏寿には届かなかった。
「大臣、頼まれていた検閲終わりました」
「ん、どうだったか」
二人きりの仕事場で杜補佐は儀円に話しかけた。
文を儀円に手渡しながら、いつもの柔和な笑顔を浮かべている。
「何て事ない現状報告でしたよ。初めて離れたから気になるのでしょう」
「杜補佐がそう言うのなら何も問題ない内容だな」
興味なさげに文をぷらぷらさせる。
「買被りすぎですよ」
「どんな難解な暗号でさえ解いてしまう奴はどこのどいつだ」
「あれはたまたまですって」
「よく言う」
儀円がこう言うのも無理はなかった。
杜補佐こと杜 宗寛。
彼は以前密輸の時に交わされていた当事者だけが読める密書をいとも簡単に解読したのである。
元々杜補佐は読解力と観察力を買われて儀円から引き抜かれたのだったが、彼の能力が最も発揮されたのは難解な暗号を解読する時であった。
これは儀円も思ってもみなかったことだった。
この時、儀円は杜補佐に対して
「何故こんな特技を黙っていた」
と聞いた。
すると杜補佐は
「さしたることではないと思っていたので」
と返したのだった。
「なら、この文はあいつに渡して大丈夫だな?」
「はい」
そして儀円は持っていた文をぽいっと机の上に投げたのだった。
二人きりになったところで景雲が小声で尋ねる。
秀英は真っすぐ前を向いたまま、淡々と話す。
「検閲にかかるだろうな。しかし、読まれても問題ない話ばかりだ」
「それにしても晏寿と話がしたいというだけで、こんなに苦労するとはな」
「全くだ」
ここで二人は改めて晏寿の存在が大きかったことを知った。
晏寿がいないだけで、どこか寂しさを感じる。
離れてそこまで時間は経っていないが、もう何年も会ってないような気持ちになっていた。
そんなことを思われているとは露知らない晏寿は今日も京雅の勉強に付き合っていた。
京雅は休憩時間のお茶受けを楽しみに勉強に励むようになった。
「ねぇ安里、今日のお茶菓子は何?」
「胡麻団子です。はい、これ解いて下さい」
「胡麻団子かぁ~」
まだ食べてもいないのに、京雅の顔は緩んでいく。それを晏寿が許すわけもなく、しっかり勉強するように促した。
よくこうして脱線していたが、京雅の勉強の意欲は増していた。だからどんどん知識を吸収していった。
「安里、できたよ」
「はい。…できてますね」
「じゃあお茶にしよう」
「わかりました。では準備してきます」
「うん」
嬉しそうに笑う京雅。そんなに楽しみかと、つい苦笑してしまうのだった。
茶と胡麻団子を用意して京雅の元へ行く。
それを京雅の前に並べると、更に目が輝きだした。
「良いにおい。いただきます」
「どうぞ」
美味しそうに京雅が胡麻団子を食べているのを見てから、晏寿も一つかじった。
中の餡も甘さ控えめで上手くできている。
「安里」
「はい?」
京雅の手がすっと伸びてきて口の端に触れる。
そして晏寿の口の端に触れた指をそのままぺろりと舐めた。
「…へ」
「胡麻がついてたよ」
ワザとなのか、それとも素でやったのか。
いきなりのことで晏寿は反応することができなかった。
「どうしたの、安里?」
「…へ?あ、はい…ちょっとびっくりしちゃって」
「びっくり?なんで?」
「…その、いきなり触れてきたので」
「?安里は僕のお嫁さんでしょ?ならいくら触れてもいいじゃない」
「…っ!」
そう言って京雅は右手で晏寿の手を握り、左手で晏寿の頬をすっと撫でた。
京雅の行動に晏寿は更に息を飲む。
京雅は優しく晏寿を見つめていて、晏寿はその場の空気に飲まれそうになっていた。
しかしはっと気付く。
今は勉強をする時間であって、こんな雰囲気になることがあるまじきことだ。
晏寿はぱっと手を放し、立ち上がった。
「休憩中とはいえ今は勉強する時間!からかわないでください」
晏寿は「次の準備をしてきます」とその場を立ち去った。
残った京雅はぽかんとしながら晏寿の後ろ姿を眺めていた。
「別にからかってなんかないんだけどな…」
ぽつりと呟いた京雅の声は残念ながら晏寿には届かなかった。
「大臣、頼まれていた検閲終わりました」
「ん、どうだったか」
二人きりの仕事場で杜補佐は儀円に話しかけた。
文を儀円に手渡しながら、いつもの柔和な笑顔を浮かべている。
「何て事ない現状報告でしたよ。初めて離れたから気になるのでしょう」
「杜補佐がそう言うのなら何も問題ない内容だな」
興味なさげに文をぷらぷらさせる。
「買被りすぎですよ」
「どんな難解な暗号でさえ解いてしまう奴はどこのどいつだ」
「あれはたまたまですって」
「よく言う」
儀円がこう言うのも無理はなかった。
杜補佐こと杜 宗寛。
彼は以前密輸の時に交わされていた当事者だけが読める密書をいとも簡単に解読したのである。
元々杜補佐は読解力と観察力を買われて儀円から引き抜かれたのだったが、彼の能力が最も発揮されたのは難解な暗号を解読する時であった。
これは儀円も思ってもみなかったことだった。
この時、儀円は杜補佐に対して
「何故こんな特技を黙っていた」
と聞いた。
すると杜補佐は
「さしたることではないと思っていたので」
と返したのだった。
「なら、この文はあいつに渡して大丈夫だな?」
「はい」
そして儀円は持っていた文をぽいっと机の上に投げたのだった。
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