柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

文字の大きさ
57 / 133
第4章 後宮潜入編

14

しおりを挟む
紅露がやってきてから、晏寿の心労は増えていった。

もちろん知り合いの女の子が傍にいるというのは心強いのだが、如何せん京雅と対立するのだ。
京雅が隙を見計らって公務を抜け出して晏寿の元へと行くと、大概紅露が晏寿のことを一人占めしている。
二人が仲良さげにお茶をしている所を見るとなかなか京雅も邪魔はできなかった。

「ねぇ、安」
「はい」

夜、二人きりになったとき京雅は切り出した。

「最近来た侍女と随分と親しいみたいだけど」
「紅露のことですか?彼女とはちょっとした知り合いだったもので」
「…僕が昼間行っても気づかなかったでしょ。一緒におしゃべりしたかったのに」
「え、また公務を無断欠勤なされたのですか?」

抜けだしたことがばれ、墓穴を掘る。
しかし京雅も引けなかった。

「あの子が来てから、安は僕に冷たい」
「そんなことありません」
「あるよ。だって僕にかまってくれない。君は僕のお嫁さんってこと忘れちゃ駄目だよ」

そう言って晏寿をぎゅっと抱きしめる。
京雅は晏寿のことを意識し始めてからというもの、言動で愛を表現することが多い。
最初は晏寿も戸惑ったものの、それが毎日ということなので慣れてきてしまった。

晏寿は京雅の腕の中で小さく頷くのだった。


そして翌日。
晏寿にとってとても面倒な事態に陥る。

京雅は再び公務を抜け出し、晏寿に会いに来ていた。
そして丁度晏寿は厠に行っていて部屋を留守にしていた。
部屋には紅露だけが残っており、部屋の整理をしているところだった。

部屋の扉が勢いよく開けられ、中にいた紅露を驚いてそちらに振りかえった。
そこには京雅が立っていて、京雅もまさか紅露だけとは思ってなかったようできょとんとしている。

「…安は?」

京雅はひとまず紅露に晏寿の居所を聞いた。
それに恐る恐るといった様子で答える。

「安里様はお花を摘みに…」
「そう」

短く切り上げ、つかつかと中に入っていき椅子に座る京雅。
京雅の勝手な態度にむっとする紅露だが、京雅は仮にも自分の仕える晏寿の夫であり、この国の皇太子である。
茶の一つでも出さねば、と思い準備を始めた。

「ああ、いいよ、君が淹れなくても。安に淹れてもらうし」
「ですが…」
「僕は安のお茶が飲みたくてきたから」

紅露は更に頭にきて、とうとう言い返してしまった。

「お言葉ですが殿下、安里様も色々と忙しいのでございます。お茶を出すような雑事は私のような侍女に仰せ下さいませ」
「なら君は安以上においしくお茶を淹れられるの?」
「安里様より直々に習いましたゆえ、安里様以上は無理でも近くまではできるはずです!」

そう言って紅露はお茶を用意して、京雅の目の前に出した。

「どうぞ、お召し上がりください」
「…」

京雅は無言でその茶を飲んだ。

「…薄い」
「ええ!?ちゃんと安里様に言われた通りにしたのに…」

顔をしかめる京雅に、叫ぶ紅露。異様な空気が流れた。
そして訝しげに紅露を見やる。

「本当に安から習ったの?」
「勿論です!安里様がこちらに入られる前に、丁寧に手ほどきを受けました」
「…いいなぁ」

口を尖らせて紅露を見る京雅。
そんな京雅の態度に紅露は優越感に浸っていた。

「僕も教えてって言ったら安は一緒にやってくれるかな」
「これは私の特権ですわ」
「ずるいなぁ。僕ももっと一緒にいたいのに」
「私も一緒にいたいです!だからここまで追いかけてきたんですから」
「そこまで僕の邪魔をしたいの?」
「私の妨害をしているのは殿下ですわ!」


「…何をやっているんですか」

厠から帰ってきた晏寿は言い合っている二人を見て、入り口で呆然としていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...