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第5章 自宅謹慎編
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よくよく考えれば秀英はあれだけ先走ったものの、自分の家の説得が一番厄介だということに気付いた。
自室でそのことを考えるだけで億劫になっていた。
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのは白祐だった。
「昼間に出かけられてからどこか元気がない御様子ですが、どうかされましたか?」
「白祐…もしもの話をする」
「はい」
「もし、俺が嫁にしたいという娘がいると言ったらどうする」
「なんと!ようやく身を固める気になられましたか!して、どこの家の娘でございますか?」
もしもの話、と前置きしたにも関わらず、白祐は興奮気味に秀英にまくしたてた。
その態度に呆れてため息をつく。
「もしもの話だと言ったではないか」
「なれど、若の口からそう言ったお話をなさらないので、心に決めたお方がいるのではないのですか?」
図星を突かれ、黙ってしまう秀英。それを肯定ととり、更に白祐は詰め寄る。
「そのお心に決めた女人はどなたでございますか?苑家の姫、それとも甫家の姫でございますか?」
「…柳家だ」
「柳と申しますと…柳 晏寿でございますか」
白祐は晏寿の名前を出すと急に険しい顔になる。
しかし、それは想定していたことだったので秀英は特に態度を変えることはなかった。
「お言葉ですが若、柳 晏寿だけは止めるよう申したはずでは」
「それは糸家のことがあったからだろう。糸家が失脚した今は関係ないはずだ」
「しかし…」
「それに白祐が決めることではない。これから父上に話す」
「若…」
まだ反論してくるかと思い、白祐を見やると秀英はぎょっとした。
白祐が涙ぐんでいたのだ。
白祐は手拭いを取り出し、涙をぬぐう。
「私は嬉しゅうございます。若はどこか唐変木で御自身に興味が無く、こちらが尻を叩かねば嫁をとらないかと思っておりましたが御自分で見つけてくるとは…そして旦那様を説得してまで一緒になりたいと思われるなんて」
「…反対しないのか?」
「若が決めたことにございます。私はこれ以上何も言いますまい。それにこれを逃せば、若は一生独身を貫きそうな気が致しますので止めませぬ」
「そうか…」
はっきりと断言されて言葉が出なかった。
しかし白祐が思いかげず味方になってくれたため、これから父親へ話を進める手助けになってくれるのではと思うのであった。
所代わって柳家宅。
瑚蘭が異様に興奮していた。
「晏寿、よかったじゃない!あなたをあんなに強く思ってくださる殿方がいて。しかもそれが眉目秀麗で有名な伯家の御嫡男だし」
浮足立つ瑚蘭を尻目に晏寿の気持ちは沈んでいた。
秀英の言葉や気持ちが嬉しく無かったわけではない。むしろ高揚するほど嬉しかったのだ。
しかし、景雲の言っていた裏切ることのできない相手のことも気になるし、何より、先日まで仮面夫婦をしていた京雅のこともある。
京雅に至ってはふたたび後宮に戻す気満々だったのだ。
秀英の申し出に簡単には返事ができないのだった。
「母様」
「なあに?」
ずっと黙っていた晏寿がようやく口を開いた。
「私ね、簡単には秀英の気持ちには応えられない」
「…」
抑揚のない口調に思わず黙りこむ瑚蘭。
「景雲が私との縁談を進められないって断った理由は、景雲の大事な友人が私に気持ちがあるから裏切ることができないかららしいの。それからこの間までの仕事で、ある人と夫婦のふりをしてて、その人が別れ際に本当の夫婦になりたいから私のことを諦めないって言ってた。
少なくとも三人の気持ちを知った上で、条件がいいからってだけで誰かを選べないよ」
「…そう」
混乱する娘の手をそっと包む。
そしてゆっくり頭を撫でた。
「そんなに沢山の人から慕われて、晏寿は幸せ者ね。私が秀英君を押してる理由は、別に良いところの出身だからじゃないわ。さっき話したときに真剣に私の目を見て、晏寿のことをどれだけ想っているかを伝えてくれたから。他の人とは話したことがないからわからないけど、秀英君なら晏寿のことを本当に大事にしてくれるって思ったわ。一番はあなたの幸せよ、晏寿」
「っ母様…」
気持ちがいっぱいいっぱいで。
とうとう晏寿の目から涙がこぼれた。
自室でそのことを考えるだけで億劫になっていた。
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのは白祐だった。
「昼間に出かけられてからどこか元気がない御様子ですが、どうかされましたか?」
「白祐…もしもの話をする」
「はい」
「もし、俺が嫁にしたいという娘がいると言ったらどうする」
「なんと!ようやく身を固める気になられましたか!して、どこの家の娘でございますか?」
もしもの話、と前置きしたにも関わらず、白祐は興奮気味に秀英にまくしたてた。
その態度に呆れてため息をつく。
「もしもの話だと言ったではないか」
「なれど、若の口からそう言ったお話をなさらないので、心に決めたお方がいるのではないのですか?」
図星を突かれ、黙ってしまう秀英。それを肯定ととり、更に白祐は詰め寄る。
「そのお心に決めた女人はどなたでございますか?苑家の姫、それとも甫家の姫でございますか?」
「…柳家だ」
「柳と申しますと…柳 晏寿でございますか」
白祐は晏寿の名前を出すと急に険しい顔になる。
しかし、それは想定していたことだったので秀英は特に態度を変えることはなかった。
「お言葉ですが若、柳 晏寿だけは止めるよう申したはずでは」
「それは糸家のことがあったからだろう。糸家が失脚した今は関係ないはずだ」
「しかし…」
「それに白祐が決めることではない。これから父上に話す」
「若…」
まだ反論してくるかと思い、白祐を見やると秀英はぎょっとした。
白祐が涙ぐんでいたのだ。
白祐は手拭いを取り出し、涙をぬぐう。
「私は嬉しゅうございます。若はどこか唐変木で御自身に興味が無く、こちらが尻を叩かねば嫁をとらないかと思っておりましたが御自分で見つけてくるとは…そして旦那様を説得してまで一緒になりたいと思われるなんて」
「…反対しないのか?」
「若が決めたことにございます。私はこれ以上何も言いますまい。それにこれを逃せば、若は一生独身を貫きそうな気が致しますので止めませぬ」
「そうか…」
はっきりと断言されて言葉が出なかった。
しかし白祐が思いかげず味方になってくれたため、これから父親へ話を進める手助けになってくれるのではと思うのであった。
所代わって柳家宅。
瑚蘭が異様に興奮していた。
「晏寿、よかったじゃない!あなたをあんなに強く思ってくださる殿方がいて。しかもそれが眉目秀麗で有名な伯家の御嫡男だし」
浮足立つ瑚蘭を尻目に晏寿の気持ちは沈んでいた。
秀英の言葉や気持ちが嬉しく無かったわけではない。むしろ高揚するほど嬉しかったのだ。
しかし、景雲の言っていた裏切ることのできない相手のことも気になるし、何より、先日まで仮面夫婦をしていた京雅のこともある。
京雅に至ってはふたたび後宮に戻す気満々だったのだ。
秀英の申し出に簡単には返事ができないのだった。
「母様」
「なあに?」
ずっと黙っていた晏寿がようやく口を開いた。
「私ね、簡単には秀英の気持ちには応えられない」
「…」
抑揚のない口調に思わず黙りこむ瑚蘭。
「景雲が私との縁談を進められないって断った理由は、景雲の大事な友人が私に気持ちがあるから裏切ることができないかららしいの。それからこの間までの仕事で、ある人と夫婦のふりをしてて、その人が別れ際に本当の夫婦になりたいから私のことを諦めないって言ってた。
少なくとも三人の気持ちを知った上で、条件がいいからってだけで誰かを選べないよ」
「…そう」
混乱する娘の手をそっと包む。
そしてゆっくり頭を撫でた。
「そんなに沢山の人から慕われて、晏寿は幸せ者ね。私が秀英君を押してる理由は、別に良いところの出身だからじゃないわ。さっき話したときに真剣に私の目を見て、晏寿のことをどれだけ想っているかを伝えてくれたから。他の人とは話したことがないからわからないけど、秀英君なら晏寿のことを本当に大事にしてくれるって思ったわ。一番はあなたの幸せよ、晏寿」
「っ母様…」
気持ちがいっぱいいっぱいで。
とうとう晏寿の目から涙がこぼれた。
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