柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

文字の大きさ
115 / 133
第8章 無駄な経費削減編

3

しおりを挟む
「そういえば私が後宮にいる時、どうしてあんなに頻繁に文を出してきたの?」

赤い頬を誤魔化すかのように、晏寿はここぞとばかりに違う話を振った。
秀英は温くなっている茶を一口飲み、碗を置く。

「景雲と授 安里について晏寿ではないかと疑いをかけていた。そこで文から聞き出せないかと二人で策を投じていた。
出生不明の妃の登場と妃の名前、晏寿の仕事内容に似通った部分が多かったからな。だが実際は核心を得られないまま終わってしまった」

碗の縁を指でなぞりながら、曖昧な笑みを浮かべる秀英。
秀英と景雲がそのようなことを考えていたのかと晏寿は胸中で驚く。
しかし、晏寿には引っかかる部分があった。

「ねえ、それなら紅露が私を追いかけてきたことで、どこに行ったのか探れたはずじゃないの?」

晏寿の言葉に秀英はぴたりと動きを止める。そして表情が無くなり、晏寿はその秀英の挙動にぞくりとする。
元々端正な顔立ちの秀英が無表情になると、突き放すような冷たさを感じる。

「それを俺は聞き出すことができなかったんだ」

静かに秀英が呟く。

「晏寿」
「…何?」

「このことを話すには俺の生い立ちを話さなければならない。求婚をしている身としては、知ってもらいたい気持ちと知られれば離れていってしまうのではないかという不安もある。それでも、」
「教えて」

秀英の発言を遮って晏寿は言う。

「ちょっとやそっとじゃ私は揺るがないし靡かないわ。腹括るわよ」
「流石だな」

表情を少し緩め、先程の冷淡さが緩和される。
晏寿はこれから話される秀英の言葉を一言一句逃すまいと気を引き締めた。
そして秀英が話し始めた。


俺と紅露は兄妹であるが、母親の違う異母兄妹である。

貴族でよくあるのが前妻が何らかの理由でその立ち位置が空席になり、後妻を娶り、それぞれの間に子が生まれるというもの。

しかし伯家は違った。

俺は父が一度だけ犯した過ちから生まれた。

父は紅露の母親と親の決めた縁談で婚姻を結んだ。
その後、数年二人の間には子ができず、周りが焦り始めた。
そんな毎日に嫌気がさしていた父は、たまたま立ち寄った小さな村で俺の本当の母親と出会い、一夜を共にした。

そして、その一年後に俺が生まれた。

父は俺が生まれたことは知らず、村を訪れることもなかった。
俺が五つになる頃にようやく紅露の母が身ごもり、無事紅露が生まれた。
紅露の誕生は伯家にとって喜びと同時に落胆を生んだ。
せっかく生まれてきた子が男ではないことで、跡取り問題が生じ始めた。
再び父は周りから言われることに苛立ち、ふと五年前にもこのようなことがあったことを思い出し、村を訪れた。

そこには一夜の過ちで生まれていた、自分の血を引く五つになる息子がいた。

生母はすでに流行り病で亡くなっており、俺は村の人達によって育てられていた。
父はすぐに俺を引き取り、夫婦の間に生まれたものとして扱い、名も「秀英」と改めさせた。

この事実はほんの一部の人間しか知らず、紅露さえも知らない。

それからというもの俺は伯家の跡取りとして厳しく育てられ、今日にいたる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...