柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

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第8章 無駄な経費削減編

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「ねぇ、秀英」
「…なんだ?」
「名前を変えたって言ってたよね。前は何て呼ばれていたの?」
えいだ」

もうその名を呼ぶ者はいない。
何年も前に捨てた名だった。

瑛。

晏寿はその名前を心の中で呟いて、秀英の額をそっと撫でる。

「瑛、さっきは頭突いてごめんなさい。それから、今までよく頑張ってきたわね。あなたは素晴らしい人よ。あなた自身があなたを認めてあげて」

晏寿の言葉が秀英の心にじんわりと広がる。
まるでずっと凍っていた心が溶けるように感じる。
そして今まで何があっても流れなかった涙が、秀英の目から一筋流れたのだった。


少しずつ冷静になってきた晏寿は自分のとった行動が恥ずかしくなり、ぎこちない動作で秀英から離れた。
ぬくもりが離れたことにより、秀英は寂しさを感じる。

「な、なんだか色々ありすぎて今日はお腹いっぱいになっちゃった!その、ごめんね!感情で動いちゃって」
「いや、かまわない」

秀英がいつもと変わらない態度なことに、晏寿は自分だけあたふたして恥ずかしく思う。

「今日はもう遅い。晏寿の父上の話はすまないがまたの機会に聞かせてくれないか?」
「それは全然かまわないよ。私は秀英のことを知れてよかった」
「それと…」

秀英が一度言葉を区切り、視線をずらす。
その行動に晏寿は首を傾げた。
そして立ち上がり、視線を合わせて秀英は言った。

「晏寿から抱きしめられるとは思っていなかった。それにあの名で呼ばれたのも久しぶりだった。それがとても嬉しかった。今度は俺から抱きしめてもいいか?」
「な…!だ、駄目!」

晏寿は一気に赤面する。
一方の秀英はどこかすっきりしたような顔で晏寿に迫る。

「何故?さきほどはあんなにも積極的だったのに、こちらからは駄目だとは納得がいかない」
「あれは勢いというか、感情で動いちゃったって言ったでしょ!」
「なれば晏寿は誰にでも感情が動けば、あのような行動をとるのか?」
「それも誤解よ!秀英は大切な人だから…ってこれもさっき言ったじゃない。何度も言わせないで!」

肩を上げて感情をあらわにする晏寿に対して、秀英はくつくつと喉で笑う。

「すまない。つい反応が可愛かったから意地の悪いことを言ってしまった」
「つまりからかってたってことでしょ。酷いんだから」
「だが晏寿。一つだけ頼みを聞いてくれないか?」
「何?」

「たまにでいい。二人きりの時には『瑛』と呼んでほしい。この名を久々に聞いたら、名前を無くしたくないと思ってしまった」
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