柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

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第1章 官吏試験編

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同意を得られなかった景雲はむうをとむくれる。

「本当に堅いな。
いつお前は息を抜いてるんだか」

悪態を突かれても、秀英は眼中にないらしい。
相手にされない景雲は更につまらなそうにして、今度は晏寿にちょっかいを出し始めた。

「俺が言った通り、男女同室だったろう?
これから楽しみだな」

口元を扇子で抑え、にやりと笑う。
晏寿も秀英のようにさらりと景雲をかわしたかったが上手くいかず、ぴくりと反応してしまった。
その反応を見て更に景雲が悪乗りする。


「大丈夫だ、晏寿の良いようにしてやるから。
どうせ生娘だろうに」

「…!!」


景雲の発言に晏寿は顔を真っ赤にする。
しかし、それは肯定したのも同然であった。

「…き、貴兄はそう言うことしか言えないのですか!?」
「さてな」

目を細めてにやりと笑う。
秀英より格段に良い反応を示すため、景雲は楽しくて仕方がなかった。

そして、そんな二人のやり取りを秀英は呆れたように見ていたのだった。




門をくぐり、それぞれの家路に着く。

景雲は晏寿と反対方向であったが、秀英は同じ方向であった。

秀英は帰りの車を用意していると思っていた晏寿は、徒歩で帰ろうとしていた秀英を見て驚く。
ちなみに景雲はしっかり車で帰っていった。

「使いの者は用意してなかったのですか?」

思わず聞いてしまう。
晏寿は質問はしたものの、返答は期待してはなかった。
しかし、秀英は答えた。

「歩けない距離ではない。
それに運動にもなる」
「…そうですか」
「家の地位を利用して贅沢をするのは好きではない」

秀英の意見に晏寿はさらに驚いた。
秀英はもっと傲慢な男と思っていただけに、こういう考えを持っているのが不思議でならなかった。
「…意外ですね」
「何がだ?」
「もっと家のことを鼻に掛けているのかと思っていました。
私の周りの良家の人達はそういう人が多かったから。
でも貴兄は違うのですね」
「それは、付き合う人材を間違えているからではないのか」
「うちは落ちぶれて選べるほど裕福ではありませんから。
本来なら、私も家のために嫁ぐべきだったんですが…」

どうして秀英に身の上話をしているのだろうと
晏寿ははっと気付いて、口を紡ぐ。

すると晏寿が急に黙ったことに疑問に思ったのか、秀英が今度は口を開いた。

「縁談はなかったのか?」
「いえ…あるにはあったのですが、
兄がここに嫁がせる位なら官吏試験を受けたほうがいいと」
「縁談に恵まれなかったのか」
「はい、良くて老後の世話をさせられるところでした」
「老後の世話…」

そう言ってふっと秀英は笑う。

(あ…笑った…)

晏寿は秀英の笑った顔を初めて見て、目を見開く。

そして、足も止まってしまった。

「…?」
「あ、ああ、すみません。
何だか、最初の印象と違いますね」

思わず晏寿は何も考えずに発言してしまった。
秀英の気分を害してないかとどぎまぎする。
しかし杞憂だったようで。

「初めて会ったときは緊張していたし男尊女卑の物言いに腹も立っていた。
それに、これから行動を共にする相手に毒づく必要もない」

秀英はさらりと言ってのけた。
これが素なのだろうか。
晏寿は隣を歩く秀英を見上げた。
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