16 / 133
第1章 官吏試験編
15
しおりを挟む
どこからそんなことが出てきたのかわからなかった晏寿であった。
背中に嫌な汗が流れる。
「生活が困窮しているのなら、俺が金を出す。
嫁ぎ先が欲しいなら、良縁を持ってきてやる。
糸家が邪魔なら、消してやってもいい。
どうだ?柳 晏寿――」
「…馬鹿にするのも対外にしてください。
私だけならまだしも、兄までも虚仮にしたような物言いで…
そこまで、私達兄妹は落ちぶれていません!」
ぐっと正面に悠然と座る儀円を睨む。
上司に楯突いてこれからの立場が危うくなったのも確かだが、兄まで馬鹿にされて、晏寿はとうとう黙ってはいられなかった。
儀円も強い眼差しで晏寿を見る。
晏寿は視線をそらしては駄目だ、と一心に目に力を込めた。
「…ふ、ははは!」
いきなり儀円が笑いだし、晏寿は肩をびくつかせる。
何が起こったのか、すぐには理解ができなかった。
何も言うことが出来ず、ただただ儀円の笑いが収まるのを待った。
「ああ…、笑った」
ひとしきり笑って満足したのか、やっと笑いが収まり晏寿は次に何を言われるのかを構えていた。
「いや、済まなかった。
でもお前をどうしても図ってみたかったんだ」
「何故、と聞いてもよろしいのですか」
「単純な疑問だ。
女が一人で男だらけの中に入ってくるんだ。
男が目当てか、財産が目当てかと考えるのが妥当だろう。
だが、お前は俺に啖呵切ってくるもんだから、まさかそんな返答が返ってくるとも思わなんだ」
優雅に腕を組み、まだ口の端には笑みを残したまま儀円が話す。
しかし、唐突に表情が真剣な顔になる。
「だが、まだまだそういうふうに思ってる奴らはわんさかいる。
そうじゃないと言い切りたいのなら、お前が示せ」
「!」
鋭い眼差しをやる儀円に少々気後れするも、晏寿は目を逸らさなかった。
そうして儀円はまた何かを企んでいるかのような表情に戻り、「話は以上」と切り捨てた。
晏寿は展開に遅れながらも、
「失礼いたします」
と部屋から出ようとしたのだが、
「あ、それと」
と再び儀円が呼びとめた。
「お前、そのいちいち確認するような言い方やめろ。
回りくどくて仕方ない。はっきりものは言え」
流石に振り回されていると感じた晏寿は、大きく息を吸ってきっぱりと言ってやった。
「わかりました!
こうなったら、なんでもはっきり、ずばずばと、言ってやりますから!」
ふん、と鼻息荒く部屋をあとにするのだった。
「くくっ…、一時は退屈しなさそうだな」
背中に嫌な汗が流れる。
「生活が困窮しているのなら、俺が金を出す。
嫁ぎ先が欲しいなら、良縁を持ってきてやる。
糸家が邪魔なら、消してやってもいい。
どうだ?柳 晏寿――」
「…馬鹿にするのも対外にしてください。
私だけならまだしも、兄までも虚仮にしたような物言いで…
そこまで、私達兄妹は落ちぶれていません!」
ぐっと正面に悠然と座る儀円を睨む。
上司に楯突いてこれからの立場が危うくなったのも確かだが、兄まで馬鹿にされて、晏寿はとうとう黙ってはいられなかった。
儀円も強い眼差しで晏寿を見る。
晏寿は視線をそらしては駄目だ、と一心に目に力を込めた。
「…ふ、ははは!」
いきなり儀円が笑いだし、晏寿は肩をびくつかせる。
何が起こったのか、すぐには理解ができなかった。
何も言うことが出来ず、ただただ儀円の笑いが収まるのを待った。
「ああ…、笑った」
ひとしきり笑って満足したのか、やっと笑いが収まり晏寿は次に何を言われるのかを構えていた。
「いや、済まなかった。
でもお前をどうしても図ってみたかったんだ」
「何故、と聞いてもよろしいのですか」
「単純な疑問だ。
女が一人で男だらけの中に入ってくるんだ。
男が目当てか、財産が目当てかと考えるのが妥当だろう。
だが、お前は俺に啖呵切ってくるもんだから、まさかそんな返答が返ってくるとも思わなんだ」
優雅に腕を組み、まだ口の端には笑みを残したまま儀円が話す。
しかし、唐突に表情が真剣な顔になる。
「だが、まだまだそういうふうに思ってる奴らはわんさかいる。
そうじゃないと言い切りたいのなら、お前が示せ」
「!」
鋭い眼差しをやる儀円に少々気後れするも、晏寿は目を逸らさなかった。
そうして儀円はまた何かを企んでいるかのような表情に戻り、「話は以上」と切り捨てた。
晏寿は展開に遅れながらも、
「失礼いたします」
と部屋から出ようとしたのだが、
「あ、それと」
と再び儀円が呼びとめた。
「お前、そのいちいち確認するような言い方やめろ。
回りくどくて仕方ない。はっきりものは言え」
流石に振り回されていると感じた晏寿は、大きく息を吸ってきっぱりと言ってやった。
「わかりました!
こうなったら、なんでもはっきり、ずばずばと、言ってやりますから!」
ふん、と鼻息荒く部屋をあとにするのだった。
「くくっ…、一時は退屈しなさそうだな」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる