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2. 姉妹
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私とロマンは血の繋がらない姉妹だった。ロマンは父と前妻の子どもで、私は父と、元々父の愛人であった英国人の母の間に生まれた子だった。姉の本名は、ロマーヌといった。だが彼女は本名で呼ばれることをどういうわけか嫌った。だから私たち家族や彼女の友人たちは皆姉のことをロマンと呼んだ。
ロマンは赤毛の私とは違う明るいブラウンの巻き毛で、セピア色の優しげな二重瞼をしていた。
ロマンは幼い頃、鉄道の模型やジグソーパズルなどで遊ぶことを好んだ。時々彼女が遊びに夢中で私に目を向けないでいると、苛立った私は彼女の完成間近のパズルを両足で踏みつけてぐちゃぐちゃにした。そんな時ロマンは台無しにされた作品の前で、目に涙を溜めて肩を震わせていた。だが、彼女が私のしたことを両親に言いつけることはなかった。
小学校に入ったロマンは、小さな私の手をとってあちこち遊びに連れて行ってくれた。だがそのうち、彼女が他の友人たちと遊んでいるのを嫌がった私が遊びの邪魔をするようになり、友達からもう妹を連れてくるなと責められたロマンは、私を遊びに連れて行かなくなった。一緒に行きたいと駄々を捏ねて泣く私を、困ったように彼女が見つめていたのを覚えている。
私はロマンを独り占めしたかった。家にいるときは、思う存分彼女と2人きりになることができた。私はしょっちゅうロマンの部屋を訪れて、一緒に絵本を読んだり映画を観たり、テレビゲームをしたりして遊んだ。そんな時間が何よりも満ち足りて幸せだった。
中学2年の夏のこと。恒例の日曜のミサで、聖堂の隣の席にいたロマンの姿がいつの間にか消えていることに気づいた私は、ミサを抜け出して彼女の姿を探した。
教会の裏、青草の生えた芝生の上で、ロマンは同じ高校の同級生の女子とキスをしていた。その時私は叫び出したいくらいの苦痛に襲われて、踵を返して駆け出し、ミサに戻ることなく家に帰ると、自室のベッドに突っ伏して大声で泣いた。
帰ってきたロマンに、今日女の子とキスをしていたのを見たことと、彼女と別れてほしいことを伝えた。ロマンは困ったように頭を掻いた。そしてなおも彼女をヒステリックに責め続ける私に、ごめんねとだけ謝った。
その後私は家を飛び出して、バスで隣町の祖父母の家に向かった。
両親やロマンから何度も携帯に連絡が来たし、両親は3日おきに私を迎えにきたが、私は断固として帰らないと言い張った。
私が帰ったのは、一ヶ月後ーーロマンが恋人と別れてからだった。一ヶ月ぶりに見る姉は、顔色が悪く憔悴した様子だった。帰ってきた私を見た彼女は今にも泣き出しそうな顔で笑い、おかえりと私を抱きしめた。震える彼女の身体と声、そして温かな体温に、喜びよりも先に大きな罪悪感を感じたのを覚えている。
姉に恋人ができるたびに、私は家出を繰り返した。それによって姉がどれほど動揺し、傷つくかということを知っていながら。いや、知っていたからこそ、私はその行動を敢えて繰り返した。恋人の方に向いている彼女の意識を、私に向けたいがためだけに。姉が恋人と別れれば私の気持ちは晴れたが、同時に罪悪感も募っていった。
もう、こんなことはやめたい。そう思っているのにやめられない。
私とロマンが姉妹でなかったら、きっとこんなに苦しむことはなかっただろう。彼女と私が赤の他人同士として出会っていれば、どれほどよかったか。彼女の恋人として腕を組み、唇を重ね、隣で寄り添って眠る。そんな日々を何度夢見たことだろう。
話を聞いたオーシャンとクレアは、顔を見合わせ言葉を探している様子だった。そんな2人に向かって、私は本心では望んでいないはずの願いを口にした。
「急なんだけど、どちらかの家にしばらく泊めてほしいの」
これをすることで、また姉を傷つけることは分かっていた。だが今、姉に裏切られたような怒りとやるせなさを抱えている私には、この選択肢しかないように思えた。
「俺の家に来ればいい」
一拍おいて、オーシャンが答えた。
「母さんと双子の妹がいるけど……。ちゃんと部屋はあるし、いくらでもいていい」
「エイヴェリー、オーシャンの家に何日かいて飽きたら私の家に来てもいいわ。両親はほとんど留守だし、しばらくの間は私1人なのよ」
クレアがむしろ来て欲しそうに言うものだから、それまで深刻な話をしていたのも一転笑い出しそうになった。
「分かった。オーシャンの家の次はあなたの家に泊まる」
「約束よ、絶対ね」
クレアが左手の小指を立てた。私はそれに自分の小指を絡めた。
ロマンは赤毛の私とは違う明るいブラウンの巻き毛で、セピア色の優しげな二重瞼をしていた。
ロマンは幼い頃、鉄道の模型やジグソーパズルなどで遊ぶことを好んだ。時々彼女が遊びに夢中で私に目を向けないでいると、苛立った私は彼女の完成間近のパズルを両足で踏みつけてぐちゃぐちゃにした。そんな時ロマンは台無しにされた作品の前で、目に涙を溜めて肩を震わせていた。だが、彼女が私のしたことを両親に言いつけることはなかった。
小学校に入ったロマンは、小さな私の手をとってあちこち遊びに連れて行ってくれた。だがそのうち、彼女が他の友人たちと遊んでいるのを嫌がった私が遊びの邪魔をするようになり、友達からもう妹を連れてくるなと責められたロマンは、私を遊びに連れて行かなくなった。一緒に行きたいと駄々を捏ねて泣く私を、困ったように彼女が見つめていたのを覚えている。
私はロマンを独り占めしたかった。家にいるときは、思う存分彼女と2人きりになることができた。私はしょっちゅうロマンの部屋を訪れて、一緒に絵本を読んだり映画を観たり、テレビゲームをしたりして遊んだ。そんな時間が何よりも満ち足りて幸せだった。
中学2年の夏のこと。恒例の日曜のミサで、聖堂の隣の席にいたロマンの姿がいつの間にか消えていることに気づいた私は、ミサを抜け出して彼女の姿を探した。
教会の裏、青草の生えた芝生の上で、ロマンは同じ高校の同級生の女子とキスをしていた。その時私は叫び出したいくらいの苦痛に襲われて、踵を返して駆け出し、ミサに戻ることなく家に帰ると、自室のベッドに突っ伏して大声で泣いた。
帰ってきたロマンに、今日女の子とキスをしていたのを見たことと、彼女と別れてほしいことを伝えた。ロマンは困ったように頭を掻いた。そしてなおも彼女をヒステリックに責め続ける私に、ごめんねとだけ謝った。
その後私は家を飛び出して、バスで隣町の祖父母の家に向かった。
両親やロマンから何度も携帯に連絡が来たし、両親は3日おきに私を迎えにきたが、私は断固として帰らないと言い張った。
私が帰ったのは、一ヶ月後ーーロマンが恋人と別れてからだった。一ヶ月ぶりに見る姉は、顔色が悪く憔悴した様子だった。帰ってきた私を見た彼女は今にも泣き出しそうな顔で笑い、おかえりと私を抱きしめた。震える彼女の身体と声、そして温かな体温に、喜びよりも先に大きな罪悪感を感じたのを覚えている。
姉に恋人ができるたびに、私は家出を繰り返した。それによって姉がどれほど動揺し、傷つくかということを知っていながら。いや、知っていたからこそ、私はその行動を敢えて繰り返した。恋人の方に向いている彼女の意識を、私に向けたいがためだけに。姉が恋人と別れれば私の気持ちは晴れたが、同時に罪悪感も募っていった。
もう、こんなことはやめたい。そう思っているのにやめられない。
私とロマンが姉妹でなかったら、きっとこんなに苦しむことはなかっただろう。彼女と私が赤の他人同士として出会っていれば、どれほどよかったか。彼女の恋人として腕を組み、唇を重ね、隣で寄り添って眠る。そんな日々を何度夢見たことだろう。
話を聞いたオーシャンとクレアは、顔を見合わせ言葉を探している様子だった。そんな2人に向かって、私は本心では望んでいないはずの願いを口にした。
「急なんだけど、どちらかの家にしばらく泊めてほしいの」
これをすることで、また姉を傷つけることは分かっていた。だが今、姉に裏切られたような怒りとやるせなさを抱えている私には、この選択肢しかないように思えた。
「俺の家に来ればいい」
一拍おいて、オーシャンが答えた。
「母さんと双子の妹がいるけど……。ちゃんと部屋はあるし、いくらでもいていい」
「エイヴェリー、オーシャンの家に何日かいて飽きたら私の家に来てもいいわ。両親はほとんど留守だし、しばらくの間は私1人なのよ」
クレアがむしろ来て欲しそうに言うものだから、それまで深刻な話をしていたのも一転笑い出しそうになった。
「分かった。オーシャンの家の次はあなたの家に泊まる」
「約束よ、絶対ね」
クレアが左手の小指を立てた。私はそれに自分の小指を絡めた。
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