草花の祈り

たらこ飴

文字の大きさ
57 / 60

32. コーラとポカリ、混ぜたらどうなる?

しおりを挟む
「お姉さんがいなくなって、寂しいでしょ?」

 私の部屋の鏡台の前、ドライヤーで髪を乾かしながらシエルが尋ねる。その明るいベージュの髪が、ドライヤーの風に吹かれて靡く。私と同じ、ラ・フランスのシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。

「もちろん。だけど、不思議と受け入れられてる。前の私なら、彼女が遠くに行ってしまわないように邪魔をして、泣き喚いて我儘を言っていたと思う。だけど、今は違う。姉の夢を応援しようと心から思えるわ」

 自分でも信じられない変化だった。以前の私だったら姉が外国に行くなどと聞いたら泣き叫び、NYに行くなら死ぬなどと脅しをかけていたかもしれない。もしくは、学校を辞めてついて行くとまで言い出したかもしれない。それが今は、素直に彼女の成功を願える。ロマンが遠くの地で良い友人を作り、縁と運に恵まれ、才能を開花させてほしいと心から思う。

 ドライヤーの音が止む。

「成長したってことね」

 と友人が微笑む。彼女が今日突然家に泊まりに来たのは、母親と喧嘩して家を飛び出したからなのだということを、私はオーシャンから送られてきたメールで知っていた。オーシャンは妹を頼むよとだけ言った。

 母親と喧嘩したことが嘘のような涼しい顔で、シエルは鏡越しに私を見つめて微笑んでいる。私も彼女に微笑み返す。今更ながら私の顔は、彼女の顔と全く違う。目は鋭くて、鼻は尖っていて、唇は赤い。シエルの目は相変わらず優しいブラウングレーで、細く鼻筋が通り、薄い桃色の唇は何かを言いたげに笑っている。

「前にオーシャンに言われたのよ、あなたと私はコカ・コーラとポカリスエットみたいだって」

 ベッドに腰掛ける私の横にやってきたシエルが言う。

「私がコーラで、あなたがポカリ?」

「そう。あなたはスパイスが効いていて、私はあっさりしてる」

「オーシャンって変なこと言うわよね」

「本当よね」

 こうして笑い合いながら、心の中でオーシャンの喩えに納得していた。私とシエルは真逆だ。だけど、シエルの私と違うところが、私はとても面白いと思う。彼女にはいつまでもこのままでいて欲しい。例え母親に非難され続けたとしても、この清涼飲料水のCMのような清々しい笑顔のままで、私のことを嵐が丘オタクと笑って、風のように会いに来て欲しい。

「あなたに告った子とはどうなの?」

 不意にシエルが尋ねた。

「クレアとはこの頃会ってないのよ」

 クレアは最近仕事が忙しく、学校にほとんど来ていない。時々メールや電話がくるし、ほんのたまに学校に来れば話すけれど、前みたいに頻繁にコミュニケーションはとれていない。

「凄く良い子そうじゃない? 付き合わないの?」

「良い子だけど……そういう対象じゃないわ」
 
「じゃあ、今のあなたにとって誰がそういう対象なの? オーシャン? それとも日本人の子?」

 悪戯っぽく笑いながら尋ねるシエルを睨む。

「誰もその中には入らないわ」

「あなたと将来付き合う子を当ててあげる。出席番号は28、イニシャルはO、髪は黒で短い、口が悪くて雑で勉強はできないけど、心はエリート」

「それってオーシャンじゃない」

「ふふ、よく分かったわね」

 シエルはこの頃、オーシャンと私の仲を取り持とうとしてくる。私がオーシャンに恋愛感情が無いと何度伝えても聞かない。私たちをデートさせようとしたり、オーシャンからのメールに返信せずにいると、『オーシャンが寂しがってるからメールをしてあげて』とシエルから連絡がくる。

「だから、オーシャンにそういう感情はないんだってば。彼女はいい人だけど、友達以上には見られない」

「だけど、これから変わるかも知れないじゃない?」

「変わりません。この話はもうやめて」

「何で怒ってるのよ」

「何でも」

 ベッドから立ち上がり部屋を出る。こんなに頭に来ているのは、一体何故なのか。オーシャンが嫌いなわけではない。むしろ友達としては好きだ。彼女はいつも冗談を言って暗い気分を明るくしてくれて、困っている時には助けてくれる。彼女のような友達がいて幸せだとも思う。

 だが、この頃のシエルは私とオーシャンに気を遣う余り、一緒にいてもオーシャンの話ばかりしたり、三人で遊ぶ約束をしても当日に『用事ができた』と言って来ないことが増えた。私はもっと二人で遊んでいる時間を大切にしたいのに、彼女にとっては双子の姉の恋の方が重要事項なのだろうか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾書籍発売中
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

処理中です...