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きっかけ③
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今日は食欲がなかった。何も食べていない私を見たクレアが、すっと私の前に金色のキャンディの包みのようなものを置いた。ボンボンチョコレートだと分かった。
「ありがとう」
友人にお礼を言って、包み紙を開けて中の丸い茶色いお菓子を口に含む。甘くなめらかなチョコレートの味と、アーモンドの味が口いっぱいに広がる。同時に涙が溢れそうになる。自分が傷ついているのだということに、今更ながら気づいた。何が一番辛いかって、これまで抱いてきた姉への気持ちを、何も知らない他人から侮辱されたことだ。あの落書きを見たら、ロマンはどんな顔をしただろう。彼女の悲しげな表情を思い浮かべると、余計に胸が痛んだ。
「エイヴェリー、あなた一人で抱えることはないわ。いつだって力になる」
気遣わしげな表情をしたクレアの手のひらが、そっと私の肩に置かれる。
「私が何か言われる分には構わないの。姉が……ロマンがあの落書きを見ていたらと思うと……」
両手で顔を覆って泣き出した私の髪を、クレアの手が優しく撫でているのが分かった。
「許せねぇ……」
ドンッ、とオーシャンが拳で机を叩く音が響く。
「あんな汚ねぇ真似してしらばっくれやがって……。なぁクレア、俺たちでジャンヌたちに仕返ししてやろうぜ!」
「オーシャン、少し落ち着いた方がいいわ」
冷静にオーシャンを宥めるクレア。
「落ち着けるわけねーだろ?! エイヴェリーを泣かせる奴らを野放しにしておけるかよ!!」
「気持ちは分かるけど、私たちが何か反撃をすることで、エイヴェリーが余計に酷い目にあうことも考えられるわ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ」
「とりあえず、私たちでエイヴェリーを護衛することにしましょう。彼女がどこに行くにもついて行く。何か危険が迫ったら彼女を守る。それでどう?」
オーシャンはまだ何か言いたそうではあったが、クレアの提案に頷いた。
「二人とも、そこまでしてもらわなくてもいいわ。私は一人でも……」
ただでさえオーシャンとクレアにはお世話になりっぱなしなのに、学校にいる時まで彼女達の時間を私のために割かせるわけにはいかない。それに、こうなったのは元はといえば私がジャンヌに逆らったことが原因なのだ。何を言われても黙っておけば、こんなことにはなっていなかった。
「エイヴェリー、お前はもっと人に甘えていい」
「そうよ、こんな時くらい頼ってほしいわ。私は休みも多いし、あまり役には立てないかもしれないけど……。あなたにこれ以上傷ついてほしくないの」
二人の言葉に胸が熱くなる。どうして私はこんなに他人とうまくやれなくて、一番怒らせてはならない人間の怒りを買って攻撃対象になったあげくに、大切な友人たちにまで迷惑をかけてしまうのか。二人の提案を心強く思う反面、情けなくて仕方なかった。
「二人とも、ありがとう」
お礼を言うとオーシャンは、「よし、じゃあ今日から俺はエイヴェリーのナイトになるぞ!」と拳で胸を叩いた。
「私だって負けないわ」
クレアも続く。オーシャンはジャンヌに関する聞き込みを行うと刑事のようなことを言って、教室を飛び出した。クレアも慌てて後を追って行った。取り残された私は窓の外、グラウンドで友人たちと輝かんばかりの笑顔でサッカーをしている姉の姿をただ眺めていた。
クレアとオーシャンが先輩から聞き出した情報によると、彼女には腰巾着が4人ほどおり、気に食わない人間がいると彼女たちに命じて制裁を下させるのだという。冷淡で陰湿、それでいて自分の手を汚さない狡猾な彼女の餌食になった人間は数多く、クラスメイトの中には不登校になった生徒もいるらしい。
ジャンヌは決して強い人間ではない。仲間を従えて悪事を働いているが、本来一人では何もできない人間なのだ。だが、誰も彼女には向かえないのは、彼女の背後にいる大人の存在を怖がっているからなのか、それとも彼女の被っている悪魔の仮面に怯えているからなのか。
「ありがとう」
友人にお礼を言って、包み紙を開けて中の丸い茶色いお菓子を口に含む。甘くなめらかなチョコレートの味と、アーモンドの味が口いっぱいに広がる。同時に涙が溢れそうになる。自分が傷ついているのだということに、今更ながら気づいた。何が一番辛いかって、これまで抱いてきた姉への気持ちを、何も知らない他人から侮辱されたことだ。あの落書きを見たら、ロマンはどんな顔をしただろう。彼女の悲しげな表情を思い浮かべると、余計に胸が痛んだ。
「エイヴェリー、あなた一人で抱えることはないわ。いつだって力になる」
気遣わしげな表情をしたクレアの手のひらが、そっと私の肩に置かれる。
「私が何か言われる分には構わないの。姉が……ロマンがあの落書きを見ていたらと思うと……」
両手で顔を覆って泣き出した私の髪を、クレアの手が優しく撫でているのが分かった。
「許せねぇ……」
ドンッ、とオーシャンが拳で机を叩く音が響く。
「あんな汚ねぇ真似してしらばっくれやがって……。なぁクレア、俺たちでジャンヌたちに仕返ししてやろうぜ!」
「オーシャン、少し落ち着いた方がいいわ」
冷静にオーシャンを宥めるクレア。
「落ち着けるわけねーだろ?! エイヴェリーを泣かせる奴らを野放しにしておけるかよ!!」
「気持ちは分かるけど、私たちが何か反撃をすることで、エイヴェリーが余計に酷い目にあうことも考えられるわ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ」
「とりあえず、私たちでエイヴェリーを護衛することにしましょう。彼女がどこに行くにもついて行く。何か危険が迫ったら彼女を守る。それでどう?」
オーシャンはまだ何か言いたそうではあったが、クレアの提案に頷いた。
「二人とも、そこまでしてもらわなくてもいいわ。私は一人でも……」
ただでさえオーシャンとクレアにはお世話になりっぱなしなのに、学校にいる時まで彼女達の時間を私のために割かせるわけにはいかない。それに、こうなったのは元はといえば私がジャンヌに逆らったことが原因なのだ。何を言われても黙っておけば、こんなことにはなっていなかった。
「エイヴェリー、お前はもっと人に甘えていい」
「そうよ、こんな時くらい頼ってほしいわ。私は休みも多いし、あまり役には立てないかもしれないけど……。あなたにこれ以上傷ついてほしくないの」
二人の言葉に胸が熱くなる。どうして私はこんなに他人とうまくやれなくて、一番怒らせてはならない人間の怒りを買って攻撃対象になったあげくに、大切な友人たちにまで迷惑をかけてしまうのか。二人の提案を心強く思う反面、情けなくて仕方なかった。
「二人とも、ありがとう」
お礼を言うとオーシャンは、「よし、じゃあ今日から俺はエイヴェリーのナイトになるぞ!」と拳で胸を叩いた。
「私だって負けないわ」
クレアも続く。オーシャンはジャンヌに関する聞き込みを行うと刑事のようなことを言って、教室を飛び出した。クレアも慌てて後を追って行った。取り残された私は窓の外、グラウンドで友人たちと輝かんばかりの笑顔でサッカーをしている姉の姿をただ眺めていた。
クレアとオーシャンが先輩から聞き出した情報によると、彼女には腰巾着が4人ほどおり、気に食わない人間がいると彼女たちに命じて制裁を下させるのだという。冷淡で陰湿、それでいて自分の手を汚さない狡猾な彼女の餌食になった人間は数多く、クラスメイトの中には不登校になった生徒もいるらしい。
ジャンヌは決して強い人間ではない。仲間を従えて悪事を働いているが、本来一人では何もできない人間なのだ。だが、誰も彼女には向かえないのは、彼女の背後にいる大人の存在を怖がっているからなのか、それとも彼女の被っている悪魔の仮面に怯えているからなのか。
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