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似てない父子
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翌日昼前まで寝ていた私は、ラジオ体操をしようと外に出て驚いた。なんとあの空き地の野原にトレイラーハウスが建っていたのだ。おしゃれなロッジ風のツリーハウスだった。いつの間に運ばれてきたのだろう。近づいて中を覗くが暗くてよく見えないし、ドアにも鍵がかかっていて中に入れない。ともあれトレイラーハウスだから災害時にも安心だし、木の匂いに猫たちも安心しそうだ。すごく良いアイデアだと思った。
本当のところ沢山の猫のお世話をできるか、無事に猫ハウスが建つか、猫たちをお迎えする準備はうまくいくか、捕獲が成功するかなど不安だらけだった。でも猫ハウスを見たら、途端に猫たちと暮らせる日が待ち遠しくなった。元々は猫たちの命を守りたいという気持ちから始めたことだったけれど、いつのまにか猫たちとの暮らしは私の一部になっていたのだ。彼らが心地よく暮らせる手助けができるのなら、捕獲でもお世話でも何でもやろう。
ラジオ体操を終え玄関に入ったとき、先ほど寝ぼけていて気づかなかったが男性用の靴が一つ置いてあるのが目に入った。もしやと思って今に向かうと、知らない若い男性が居間で道子さんと善二さんと一緒に朝ご飯を食べていた。
男性は私に気づくと振り返り、「どうも、善二の息子の瑛二です」と笑顔で自己紹介しぺこりと頭を下げた。爽やかな風が吹き抜けた。
「どうも……藤原です」
突然の鬼瓦Jr.登場に驚いて自分の名前を言うのをど忘れしてしまった。道子さんから善二さんに大工の息子さんがいることは聞いていたが、イメージが全く違っていたからだ。爽やかで知的な雰囲気をまとう瑛二さんは、善二さんとは全く似ていない。こんなことを言うのは失礼極まりないが、全く違う種類の人間に見える。少し癖のある長めの黒髪であまり男性的な空気感でなく、私の中にある大工像とはかけ離れた存在だった。
「凪砂ちゃんだね、親父から聞いてるよ。いつも親父と猫たちがお世話になってます」
「いえ……むしろ私のほうがお世話になってます」
「これから猫部屋のリフォームにとりかかるんだ。早くて一週間くらいでできると思うよ。しばらく作業の音でうるさくなるけど、よろしくね」
「よろしくお願いします」
瑛二さんは部屋に戻ってツナギに着替え仕事に向かった。ツナギを着ると少し大工っぽく見えるが、スーツやYシャツの方がよく似合いそうだ。
「善二さんと瑛二さんは、本当に血が繋がってるんですか?」
皿洗いをしていた道子さんに訊ねると、「全然似てないでしょ? あの子母親似なのよ」と笑った。
「すごく良い子なのよ、父親と違って穏やかだし頭も良くて。本も好きみたいだから、凪砂ちゃんと気が合ったりしてね」
道子さん曰く瑛二さんは無類の猫好きで、普段は仙台に住んでいるのだが、たまに実家に帰省したときは近所の野良猫たちと戯れていたという。善二さんとは性格が正反対でよく喧嘩をしているが、何だかんだ親思いで優しい性格だという。善二さんは心配をかけないために自らの窮状を瑛二さんに打ち明けなかったが、道子さんから連絡を受け事情を聞いたことで、無理を押して駆けつけたそうだ。
瑛二さんが猫ハウスの中に入り作業を始めると、ハウスの周りを探検していた猫たちは電動ドライバーの音にびっくりして、ヒュンッと一斉にどこかへ飛んでいってしまった。私は瑛二さんの作業を見守りつつ、遠くで手術を終えた猫たちの無事を願った。
本当のところ沢山の猫のお世話をできるか、無事に猫ハウスが建つか、猫たちをお迎えする準備はうまくいくか、捕獲が成功するかなど不安だらけだった。でも猫ハウスを見たら、途端に猫たちと暮らせる日が待ち遠しくなった。元々は猫たちの命を守りたいという気持ちから始めたことだったけれど、いつのまにか猫たちとの暮らしは私の一部になっていたのだ。彼らが心地よく暮らせる手助けができるのなら、捕獲でもお世話でも何でもやろう。
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「いえ……むしろ私のほうがお世話になってます」
「これから猫部屋のリフォームにとりかかるんだ。早くて一週間くらいでできると思うよ。しばらく作業の音でうるさくなるけど、よろしくね」
「よろしくお願いします」
瑛二さんは部屋に戻ってツナギに着替え仕事に向かった。ツナギを着ると少し大工っぽく見えるが、スーツやYシャツの方がよく似合いそうだ。
「善二さんと瑛二さんは、本当に血が繋がってるんですか?」
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