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里親希望
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午後、無事に手術を終えてサンコたちが帰ってきた。家に帰ってきた母子5匹は最初ドライバーの音に驚いていたが、やがて帰宅前より綺麗になった部屋の中でくつろぎはじめた。猫たちは手術を頑張ったご褒美にあげた少し高級な『銀の缶詰』を夢中で食べ毛繕いをしたあと、ソファの上で団子になって寝始めた。同じく去勢が済んだゆうやけとあさやけも、部屋に着くなりこたつの中で眠りはじめた。皆慣れない長距離の移動と手術で疲れたのだろう。頑張ったね、と1匹ずつを撫でて労う。
夕方仕事を終えた瑛二さんが仔猫部屋に来て、猫たちと遊んだ。瑛二さんの雰囲気がそうさせるのか、仔猫たちもサンコもすぐに瑛二さんに懐いてしまった。瑛二さんは猫やうさぎなどの動物に近い、隣にいると心地の良い不思議な空気感を纏っていた。柔らかい話し口調で、ときどき軽やかに笑う。猫の扱いも上手で遊ぶのも抱くのも手慣れていた。
「猫って不思議だよね、部屋にいるだけで眠くなる」
「分かります、私もここで生活するようになって睡眠時間が増えました」
「やっぱりそうか。何だが俺も眠くなってきたよ」
横になって猫を撫でているうち瑛二さんは床ですやすや眠ってしまったので、寒くないように毛布をかけて居間に向かった。
道子さんも来て居間で善二さんと三人お茶をしていたとき、急に私の携帯が鳴った。知らない番号だったので無視しようとしたが、まさかと思い電話に出てみた。
「はい、藤原です」
『あの~、私渡辺というものなんですが……SNSで里親募集の情報見て連絡したんですが、アメショ全柄の仔猫ちゃんって、もうもらわれちゃいましたかね?』
相手は男性らしかった。里親募集をかけてまもないのに、連絡がきたことに驚いた。
「アメのことでしょうか? まだですよ」
『本当ですか?!』
電話口の声がぱっと明るくなった。
「去勢手術とワクチンがまだなので、終わり次第お渡しする形になりますが、それでも良いですか?」
『はい、全然大丈夫です。むしろ助かります。それであの……実際にどんな子か見てみたいんですが、面会に行ってもいいですか?』
「多分大丈夫だと思うんですが、一応家主に確認をとってまた折り返しますね」
電話を切ったあと二人に里親希望の人からだと伝えると、道子さんは飲んでいたお茶を吹き出し、茶菓子を持ってきた善二さんは腰を抜かしかけた。
「早くね? いやあ、驚いたわ」道子さんは口をハンカチで拭いながら言った。
「もっと時間がかかると思っとった!」
善二さんも驚いている。
「ですよね、私も驚きました。 アメショ柄の子は人気あるから、早く決まるかもしれないとは思っていたけど、まさかこんなにすぐに連絡くるなんて思いませんでした」
「驚いたと言う割に冷静よね」
「よく言われます、歳のわりに落ち着いてるって」
「その落ち着きを私と善二にも分けてほしいわ。でもよかった、里親が決まるか心配してたけど希望が見えたわ。凪砂ちゃんのおかげね」
「いえいえ、そんな」
自分が大したことをしたとは思わないけれど、二人の役に立てたのならよかった。こうやって他の子も順調に決まればいい。もちろん、仲良くなった猫たちと別れるのは寂しいけれど。
ギャル猫ボランティアの酒井さんにアメの里親希望の方が現れたと電話で伝えたら、喜んでくれた。
『良かったね~、にしても早いね! 凪砂ちゃんのチラシがセンス良かったからだよ』
「ありがとうございます」
『あ、でも気をつけてね。パッと見いい人そうでも、ごく一部だけど虐待するようなやばい人もいるから。うちらは里親希望の人の家にお邪魔して、猫を飼うのに適した環境か確認してからお渡しするんだよね』
「そうですよね。見た目だけじゃわからないし、気をつけないといけまけんよね……」
『うん。まあ、皆の里親決まるまでは大変だろうけど頑張ってね。こっちでできることがあれば協力するし、応援してるから』
「色々とありがとうございます」
電話を切ったあと善二さんに都合の良い日取りを聞き、先ほど電話をくれた里親希望の渡辺さんに連絡を取って相談した。その結果面会は三日後になった。
仔猫部屋では猫たちがトンネルに出入りしたり、とっくみあいをして遊んでいた。アメショの血の入ったアメとまるに比べ女の子のつきみは小さいため、力では叶わない。その代わり彼女はすばしっこさと賢さで勝ちに行く。とっくみあいの最中兄たちが油断して後ろを向いた隙に、後ろから飛びかかる。キジトラのそばは2匹に比べたら身体が小さいが、力が強いために喧嘩では負けない。
アメとねずみのおもちゃで遊びながら、この子といられるのもあとわずかかもしれないと感じて切なくなった。
アメだけじゃなく、仔猫たちや外猫たちも皆いつ私たちの手を離れるか分からない。少しでも思い出を残したいと、アメたちが走り回りとっくみあいをしたり、トンネルやおもちゃで遊ぶ様子を動画に撮った。これでいつでもこの子たちが家にいた記録を、私とともに過ごしたことを鮮明に思い出せる。
何も知らずにネズミのおもちゃにじゃれつくアメが、兄弟や私たちと離れても新しい飼い主の元で幸せになることを願った。
夕方仕事を終えた瑛二さんが仔猫部屋に来て、猫たちと遊んだ。瑛二さんの雰囲気がそうさせるのか、仔猫たちもサンコもすぐに瑛二さんに懐いてしまった。瑛二さんは猫やうさぎなどの動物に近い、隣にいると心地の良い不思議な空気感を纏っていた。柔らかい話し口調で、ときどき軽やかに笑う。猫の扱いも上手で遊ぶのも抱くのも手慣れていた。
「猫って不思議だよね、部屋にいるだけで眠くなる」
「分かります、私もここで生活するようになって睡眠時間が増えました」
「やっぱりそうか。何だが俺も眠くなってきたよ」
横になって猫を撫でているうち瑛二さんは床ですやすや眠ってしまったので、寒くないように毛布をかけて居間に向かった。
道子さんも来て居間で善二さんと三人お茶をしていたとき、急に私の携帯が鳴った。知らない番号だったので無視しようとしたが、まさかと思い電話に出てみた。
「はい、藤原です」
『あの~、私渡辺というものなんですが……SNSで里親募集の情報見て連絡したんですが、アメショ全柄の仔猫ちゃんって、もうもらわれちゃいましたかね?』
相手は男性らしかった。里親募集をかけてまもないのに、連絡がきたことに驚いた。
「アメのことでしょうか? まだですよ」
『本当ですか?!』
電話口の声がぱっと明るくなった。
「去勢手術とワクチンがまだなので、終わり次第お渡しする形になりますが、それでも良いですか?」
『はい、全然大丈夫です。むしろ助かります。それであの……実際にどんな子か見てみたいんですが、面会に行ってもいいですか?』
「多分大丈夫だと思うんですが、一応家主に確認をとってまた折り返しますね」
電話を切ったあと二人に里親希望の人からだと伝えると、道子さんは飲んでいたお茶を吹き出し、茶菓子を持ってきた善二さんは腰を抜かしかけた。
「早くね? いやあ、驚いたわ」道子さんは口をハンカチで拭いながら言った。
「もっと時間がかかると思っとった!」
善二さんも驚いている。
「ですよね、私も驚きました。 アメショ柄の子は人気あるから、早く決まるかもしれないとは思っていたけど、まさかこんなにすぐに連絡くるなんて思いませんでした」
「驚いたと言う割に冷静よね」
「よく言われます、歳のわりに落ち着いてるって」
「その落ち着きを私と善二にも分けてほしいわ。でもよかった、里親が決まるか心配してたけど希望が見えたわ。凪砂ちゃんのおかげね」
「いえいえ、そんな」
自分が大したことをしたとは思わないけれど、二人の役に立てたのならよかった。こうやって他の子も順調に決まればいい。もちろん、仲良くなった猫たちと別れるのは寂しいけれど。
ギャル猫ボランティアの酒井さんにアメの里親希望の方が現れたと電話で伝えたら、喜んでくれた。
『良かったね~、にしても早いね! 凪砂ちゃんのチラシがセンス良かったからだよ』
「ありがとうございます」
『あ、でも気をつけてね。パッと見いい人そうでも、ごく一部だけど虐待するようなやばい人もいるから。うちらは里親希望の人の家にお邪魔して、猫を飼うのに適した環境か確認してからお渡しするんだよね』
「そうですよね。見た目だけじゃわからないし、気をつけないといけまけんよね……」
『うん。まあ、皆の里親決まるまでは大変だろうけど頑張ってね。こっちでできることがあれば協力するし、応援してるから』
「色々とありがとうございます」
電話を切ったあと善二さんに都合の良い日取りを聞き、先ほど電話をくれた里親希望の渡辺さんに連絡を取って相談した。その結果面会は三日後になった。
仔猫部屋では猫たちがトンネルに出入りしたり、とっくみあいをして遊んでいた。アメショの血の入ったアメとまるに比べ女の子のつきみは小さいため、力では叶わない。その代わり彼女はすばしっこさと賢さで勝ちに行く。とっくみあいの最中兄たちが油断して後ろを向いた隙に、後ろから飛びかかる。キジトラのそばは2匹に比べたら身体が小さいが、力が強いために喧嘩では負けない。
アメとねずみのおもちゃで遊びながら、この子といられるのもあとわずかかもしれないと感じて切なくなった。
アメだけじゃなく、仔猫たちや外猫たちも皆いつ私たちの手を離れるか分からない。少しでも思い出を残したいと、アメたちが走り回りとっくみあいをしたり、トンネルやおもちゃで遊ぶ様子を動画に撮った。これでいつでもこの子たちが家にいた記録を、私とともに過ごしたことを鮮明に思い出せる。
何も知らずにネズミのおもちゃにじゃれつくアメが、兄弟や私たちと離れても新しい飼い主の元で幸せになることを願った。
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