ネコハラ

たらこ飴

文字の大きさ
19 / 55

里親希望

しおりを挟む
 午後、無事に手術を終えてサンコたちが帰ってきた。家に帰ってきた母子5匹は最初ドライバーの音に驚いていたが、やがて帰宅前より綺麗になった部屋の中でくつろぎはじめた。猫たちは手術を頑張ったご褒美にあげた少し高級な『銀の缶詰』を夢中で食べ毛繕いをしたあと、ソファの上で団子になって寝始めた。同じく去勢が済んだゆうやけとあさやけも、部屋に着くなりこたつの中で眠りはじめた。皆慣れない長距離の移動と手術で疲れたのだろう。頑張ったね、と1匹ずつを撫でて労う。

 夕方仕事を終えた瑛二さんが仔猫部屋に来て、猫たちと遊んだ。瑛二さんの雰囲気がそうさせるのか、仔猫たちもサンコもすぐに瑛二さんに懐いてしまった。瑛二さんは猫やうさぎなどの動物に近い、隣にいると心地の良い不思議な空気感を纏っていた。柔らかい話し口調で、ときどき軽やかに笑う。猫の扱いも上手で遊ぶのも抱くのも手慣れていた。

「猫って不思議だよね、部屋にいるだけで眠くなる」

「分かります、私もここで生活するようになって睡眠時間が増えました」

「やっぱりそうか。何だが俺も眠くなってきたよ」

 横になって猫を撫でているうち瑛二さんは床ですやすや眠ってしまったので、寒くないように毛布をかけて居間に向かった。

 道子さんも来て居間で善二さんと三人お茶をしていたとき、急に私の携帯が鳴った。知らない番号だったので無視しようとしたが、まさかと思い電話に出てみた。

「はい、藤原です」

『あの~、私渡辺というものなんですが……SNSで里親募集の情報見て連絡したんですが、アメショ全柄の仔猫ちゃんって、もうもらわれちゃいましたかね?』

 相手は男性らしかった。里親募集をかけてまもないのに、連絡がきたことに驚いた。

「アメのことでしょうか? まだですよ」

『本当ですか?!』

 電話口の声がぱっと明るくなった。

「去勢手術とワクチンがまだなので、終わり次第お渡しする形になりますが、それでも良いですか?」

『はい、全然大丈夫です。むしろ助かります。それであの……実際にどんな子か見てみたいんですが、面会に行ってもいいですか?』

「多分大丈夫だと思うんですが、一応家主に確認をとってまた折り返しますね」

 電話を切ったあと二人に里親希望の人からだと伝えると、道子さんは飲んでいたお茶を吹き出し、茶菓子を持ってきた善二さんは腰を抜かしかけた。

「早くね? いやあ、驚いたわ」道子さんは口をハンカチで拭いながら言った。

「もっと時間がかかると思っとった!」

 善二さんも驚いている。

「ですよね、私も驚きました。   アメショ柄の子は人気あるから、早く決まるかもしれないとは思っていたけど、まさかこんなにすぐに連絡くるなんて思いませんでした」

「驚いたと言う割に冷静よね」

「よく言われます、歳のわりに落ち着いてるって」

「その落ち着きを私と善二にも分けてほしいわ。でもよかった、里親が決まるか心配してたけど希望が見えたわ。凪砂ちゃんのおかげね」

「いえいえ、そんな」

 自分が大したことをしたとは思わないけれど、二人の役に立てたのならよかった。こうやって他の子も順調に決まればいい。もちろん、仲良くなった猫たちと別れるのは寂しいけれど。

 ギャル猫ボランティアの酒井さんにアメの里親希望の方が現れたと電話で伝えたら、喜んでくれた。

『良かったね~、にしても早いね! 凪砂ちゃんのチラシがセンス良かったからだよ』

「ありがとうございます」

『あ、でも気をつけてね。パッと見いい人そうでも、ごく一部だけど虐待するようなやばい人もいるから。うちらは里親希望の人の家にお邪魔して、猫を飼うのに適した環境か確認してからお渡しするんだよね』

「そうですよね。見た目だけじゃわからないし、気をつけないといけまけんよね……」

『うん。まあ、皆の里親決まるまでは大変だろうけど頑張ってね。こっちでできることがあれば協力するし、応援してるから』

「色々とありがとうございます」
 
 電話を切ったあと善二さんに都合の良い日取りを聞き、先ほど電話をくれた里親希望の渡辺さんに連絡を取って相談した。その結果面会は三日後になった。

 仔猫部屋では猫たちがトンネルに出入りしたり、とっくみあいをして遊んでいた。アメショの血の入ったアメとまるに比べ女の子のつきみは小さいため、力では叶わない。その代わり彼女はすばしっこさと賢さで勝ちに行く。とっくみあいの最中兄たちが油断して後ろを向いた隙に、後ろから飛びかかる。キジトラのそばは2匹に比べたら身体が小さいが、力が強いために喧嘩では負けない。

 アメとねずみのおもちゃで遊びながら、この子といられるのもあとわずかかもしれないと感じて切なくなった。

 アメだけじゃなく、仔猫たちや外猫たちも皆いつ私たちの手を離れるか分からない。少しでも思い出を残したいと、アメたちが走り回りとっくみあいをしたり、トンネルやおもちゃで遊ぶ様子を動画に撮った。これでいつでもこの子たちが家にいた記録を、私とともに過ごしたことを鮮明に思い出せる。

 何も知らずにネズミのおもちゃにじゃれつくアメが、兄弟や私たちと離れても新しい飼い主の元で幸せになることを願った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

雨上がりの虹と

瀬崎由美
ライト文芸
大学受験が終わってすぐ、父が再婚したいと言い出した。 相手の連れ子は小学生の女の子。新しくできた妹は、おとなしくて人見知り。 まだ家族としてイマイチ打ち解けられないでいるのに、父に転勤の話が出てくる。 新しい母はついていくつもりで自分も移動願いを出し、まだ幼い妹を含めた三人で引っ越すつもりでいたが……。 2年間限定で始まった、血の繋がらない妹との二人暮らし。 気を使い過ぎて何でも我慢してしまう妹と、まだ十代なのに面倒見の良すぎる姉。 一人っ子同士でぎこちないながらも、少しずつ縮まっていく姉妹の距離。   ★第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...