ネコハラ

たらこ飴

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祖母との電話

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 夕食後仔猫部屋に戻ったら、いつの間にか瑛二さんが仔猫たちに囲まれて眠っていた。部屋には瑛二さんの大きないびきが響いていた。仙台からの移動と作業とで疲れたんだろう。お腹の上につきみとそばが乗っているのも気にならないようだ。不思議と男性が部屋にいる状況を不快とは思わず、空気のように自然な存在として私は瑛二さんを受け入れていた。

 起こさないように炬燵に入りサンコを膝に乗せながらくつろいでいたとき、久しぶりに祖母から電話がかかってきたので引っ越したことを伝えた。ちなみに祖母は私が霊障による体調不良で仕事を休んでいたことやアパートを出たことをしらなかった。だからさくっと説明したらびっくりしていた。

「何で言わなかったの? そんなに大変なら、家に帰ってくれば良かったのに……」

「まあでも、無事に住む場所も見つかったし。猫と一緒だけど」

「あら、猫がいるの?」

 暗かった祖母の声が少し和らいだ。膝の上からサンコがにゃーと返事をした。

「うん、猫を飼ってる善二さんって人の家で住み込みで猫の世話をしてるの。今家に7匹いて外にも7匹いるんだ。あと他の家で飼ってる猫も5匹くらい遊びに来てて……」

 しばし電話の向こうが無音になった。驚いて言葉を失っているのだろうと思っていたら、少ししてぐすっと鼻を啜る音が聞こえてきた。

「……おばあちゃん?」

 祖母は涙声で話し始めた。

「あんたは昔から、私たちに苦労をかけまいとする子だった。震災でお母さんとお父さんが死んだときも悲しい顔ひとつ見せんかった。学校でいじめられてもわしらに何も言わなかったし、悩んでいる素振りすら見せないで……。でもわしらはね、分かってたんだよ。あんたが頑張っていることも、辛いのを隠してるのも」

 祖母の言葉に胸がぎゅっと掴まれるような感覚になった。辛さを隠していたというのとも違う。悲しい出来事と向き合おうとしていなかったわけでもない。他の人は私が両親と死別していると知ると「大変だったね」「辛かったね」「かわいそうに」と哀れみを示すけれど、私は自分をかわいそうだなんて思ったことは一度もなかった。言うまでもなく両親の死は私にとって衝撃だったし、寂しくなかったといえば嘘になる。でも悲しみが少しずつ上塗りされるみたいに、祖父母や猫との生活があたたかくて楽しくて幸せだったのだ。時々やってくる胸が張り裂けるような悲しみも、真っ白なPCの液晶をずっと一人で眺めているみたいな孤独感も、祖父母と猫がいたから和らいだのだ。

「おばあちゃん、私は自分をかわいそうだと思ったことはないよ。おばあちゃんもおじいちゃんは私をたくさん甘やかしてくれて、悪いことしたときはちゃんと叱ってくれた。色々あったけど、悲しみが薄れてしまうくらい、おばあちゃんたちとの生活が楽しかったの。世の中の人は私のことをかわいそうだとか、親を亡くしたから無気力になったんだって言ったりするけど、私は元々ぼーっとした子だったし……」

「そういえば、そうだったね」

 祖母は否定をすることなくまた鼻をすすった。

「あんたが元気そうで、安心したよ。何かあったら頼りなさいね」

「うん、分かった。おばあちゃんたちもいつかこっちに遊びにきてね。そのうち帰ると思うけど」

「そうだね、猫たちにも会いたいし」

「うん。じゃあ、元気でね」

「うん、またね」

 電話を切ったあと、サンコがぺろりと頬の涙を舐めてくれた。
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