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一斉捕獲②
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途中どこかから、正○丸のCMのテーマによく似た調子外れのラッパ音と太鼓の音が聞こえてきたかと思うと、近隣に住む高齢女性三人がハチマキとタスキ姿で庭に行進してきた。タスキにはそれぞれ『野良猫の餌やり反対!』『野良猫駆逐!』『身勝手に猫を増やすな!』と書いてある。高齢女性1は『野良猫撲滅運動』と赤いマジックで書かれたプラカードを掲げ、2は大太鼓を反対向きに肩に背負い、3はラッパを咥えている。
「げっ、猫嫌いの三羽烏だわ……何だか嫌な予感がするね」
道子さんが忌々しげにつぶやいた。
ドン! という太鼓の音と共に三人が足を止め、プラカードの高齢女性1が居間の開き窓の方を向き拡声器を使って声高に主張を始めた。
『鬼瓦善二は無責任に野良猫に餌やりをして猫を増やし、おかげで我々は毎日奴らに庭を荒らし放題荒らされ糞尿被害で苦しんでいる! ただちに野良猫を保護しろ! でなければ保健所に入れろ!』
今度は左端の高齢女性2が大太鼓をどんどん叩いて叫んだ。
『我々の生活を侵害するな! 猫たちは害悪でしかない! 外猫の餌やりをただちに禁止しろ! さもなくば我々は鬼瓦を警察に訴える!』
右端の高齢女性3は下手くそなラッパを吹いたあと、
『野良猫駆逐! 野良猫駆逐!』
と機械的に言った。やがて2と3が演奏を始め、1が軍歌のようなメロディーの歌を大声で歌い出した。
『♬猫は 我らの 敵ゆえに 勝手な 餌やり 許されぬ 人の エゴで 増やされし 猫は 公害 他ならぬ♬』
「何やアレ、この世の終わりのちんどん屋みたいやな」
存田さんが顔を顰めた。
「善二さんが前に、文句を言ってくる人が三人いるっていってたんです。あの人たちですね、多分」
「あれこそ公害やないかい、猫逃げてまうがな」
「やば……何なのあの人たち。超迷惑なんだけど」
真琴さんも呆れ声でつぶやいた。もはや猫よりも近所迷惑なのはあの三羽烏だ。猫は大きな音が大の苦手だから、まだ捕獲できず残っている猫たちが逃げてしまうかもしれない。せっかく上手く行きかけていた捕獲が彼女らのせいで中断されてしまい、心が挫けそうになった。
そのとき——。
善二さんがどすどすと歩いて庭に飛び出していき、慌てて他の面々も続いた。
「お前ら、やめんかあああぁぁぁぁ!!!!!!」
大音量で演奏を続ける三羽烏に、ついに善二さんの堪忍袋の緒が切れた。
「静かにしろおおぉぉぉ!! 今こっちは猫たちを手術するために、てんやわんやで捕獲をしとるんだ!! 家に押しかけてきて、『猫をむやみに増やすな、責任をとれ』と何百万回も言ったのはお前らだろう!! 挙句どこかの家の旦那は猫の殺害予告までしやがった!! こっちは猫の家も建てて捕獲もして必死で責任とろうとしてるってのに、黙って聞いてりゃあやりたい放題言いたい放題で……迷惑なのはお前らだクソババアども!!!! さっさと立ち去れえぇぇぇ!!!!」
青筋を立て真っ赤な顔で怒り狂う善二さんの顔は、鬼瓦そのものだった。もしも少しデリケートな性質の人、もしくはナーバスな精神状態にある人がこの怒りをダイレクトにくらったら、トラウマになりそうなレベルだ。と思っていたら保健所職員の長妻さんが、部屋の隅で「ひぃぃ……怖い……あのおじいさん怖いぃ……」とか細い声でガタガタ震えだした。
彼の怯えをよそに、善二さんVS三羽烏のバトルが勃発した。
「何だとクソジジイ!! あんたこそうるさい猫連ども連れてさっさと出ていきなさいよ!! こっちはね、あのうるさい仔猫たちに主人と精魂込めて作った庭におしっこうんちされて、溜まったもんじゃないわよ!! あんたの庭ですりゃあいいのに、わざわざこっちに来てしやがるんだから!! 夜中も猫の喧嘩の声で眠れないし……全部あんたが野良猫に餌をやったからよ!! 責任取りなさいよ!! さもなくば猫と一緒に出て行け、きぇぇぇ~!!」
夜叉のような形相で奇声をあげ、怒り狂うリーダー格らしい高齢女性1はそれこそ獣のようだった。
「そうよそうよ! さっさと保護しろ!」
「猫駆逐、猫駆逐!」
2と3も同調する。
色々な意味で正気の沙汰とは思えない。この三人の婆さんを見ていると、熊より幽霊より怖いのは人間なんじゃないかと思えてくる。
だんだん収拾がつかなくなり、真琴さんが外に出て仲裁に入った。私たちも続いて外に出た。
「げっ、猫嫌いの三羽烏だわ……何だか嫌な予感がするね」
道子さんが忌々しげにつぶやいた。
ドン! という太鼓の音と共に三人が足を止め、プラカードの高齢女性1が居間の開き窓の方を向き拡声器を使って声高に主張を始めた。
『鬼瓦善二は無責任に野良猫に餌やりをして猫を増やし、おかげで我々は毎日奴らに庭を荒らし放題荒らされ糞尿被害で苦しんでいる! ただちに野良猫を保護しろ! でなければ保健所に入れろ!』
今度は左端の高齢女性2が大太鼓をどんどん叩いて叫んだ。
『我々の生活を侵害するな! 猫たちは害悪でしかない! 外猫の餌やりをただちに禁止しろ! さもなくば我々は鬼瓦を警察に訴える!』
右端の高齢女性3は下手くそなラッパを吹いたあと、
『野良猫駆逐! 野良猫駆逐!』
と機械的に言った。やがて2と3が演奏を始め、1が軍歌のようなメロディーの歌を大声で歌い出した。
『♬猫は 我らの 敵ゆえに 勝手な 餌やり 許されぬ 人の エゴで 増やされし 猫は 公害 他ならぬ♬』
「何やアレ、この世の終わりのちんどん屋みたいやな」
存田さんが顔を顰めた。
「善二さんが前に、文句を言ってくる人が三人いるっていってたんです。あの人たちですね、多分」
「あれこそ公害やないかい、猫逃げてまうがな」
「やば……何なのあの人たち。超迷惑なんだけど」
真琴さんも呆れ声でつぶやいた。もはや猫よりも近所迷惑なのはあの三羽烏だ。猫は大きな音が大の苦手だから、まだ捕獲できず残っている猫たちが逃げてしまうかもしれない。せっかく上手く行きかけていた捕獲が彼女らのせいで中断されてしまい、心が挫けそうになった。
そのとき——。
善二さんがどすどすと歩いて庭に飛び出していき、慌てて他の面々も続いた。
「お前ら、やめんかあああぁぁぁぁ!!!!!!」
大音量で演奏を続ける三羽烏に、ついに善二さんの堪忍袋の緒が切れた。
「静かにしろおおぉぉぉ!! 今こっちは猫たちを手術するために、てんやわんやで捕獲をしとるんだ!! 家に押しかけてきて、『猫をむやみに増やすな、責任をとれ』と何百万回も言ったのはお前らだろう!! 挙句どこかの家の旦那は猫の殺害予告までしやがった!! こっちは猫の家も建てて捕獲もして必死で責任とろうとしてるってのに、黙って聞いてりゃあやりたい放題言いたい放題で……迷惑なのはお前らだクソババアども!!!! さっさと立ち去れえぇぇぇ!!!!」
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彼の怯えをよそに、善二さんVS三羽烏のバトルが勃発した。
「何だとクソジジイ!! あんたこそうるさい猫連ども連れてさっさと出ていきなさいよ!! こっちはね、あのうるさい仔猫たちに主人と精魂込めて作った庭におしっこうんちされて、溜まったもんじゃないわよ!! あんたの庭ですりゃあいいのに、わざわざこっちに来てしやがるんだから!! 夜中も猫の喧嘩の声で眠れないし……全部あんたが野良猫に餌をやったからよ!! 責任取りなさいよ!! さもなくば猫と一緒に出て行け、きぇぇぇ~!!」
夜叉のような形相で奇声をあげ、怒り狂うリーダー格らしい高齢女性1はそれこそ獣のようだった。
「そうよそうよ! さっさと保護しろ!」
「猫駆逐、猫駆逐!」
2と3も同調する。
色々な意味で正気の沙汰とは思えない。この三人の婆さんを見ていると、熊より幽霊より怖いのは人間なんじゃないかと思えてくる。
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