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二 映画みたいな小説みたいな
2. あの日
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13年前の3月11日、岩手県の沿岸の町に住んでいた当時14歳の私は、幼馴染の泰平と映画を観ていた。場所は映画館ではなくて『くじら号』というバスの中だ。観た映画は『ショーシャンクの空に』で、私達と運転手と添乗員の女性以外に観客はいなかった。
180分の映画はあっという間に終わって、バスから降りると泰平は私に一冊の本を手渡した。金城一紀の『映画篇』という単行本だった。
「これめっちゃ面白いがら読んでみろ」
「珍しいね、普段本なんか読まないのに」
「この本は好ぎなんだよ、まじで一気読みだがら!」
泰平は勉強はからきしだが運動神経だけはクラスで一番良かった。読書なんて柄でもないのに。
「事実は小説よりも苦なりっていうだろ? 映画みたいな小説みたいな。そんな人生っていいなって思ったよ」
「それを言うなら『奇なり』でしょ」
泰平はお馬鹿に見えて色んなところを深く考えている。そんな所が私は好きだった。
「返すのはいづでもいいよ、じゃあ俺優斗と会う約束あっから行くわ!」
そう言って泰平は自転車に乗って行ってしまった。この日に限って泰平は一度自転車を止めて、遠くから手がちぎれそうなくらい大きく手を振った。私も手を振り返した。
家に帰って2階の部屋で昼寝していると、経験したことのない激しい揺れで目が覚め咄嗟に机の下に隠れた。本棚の上の写真立てや壁掛け時計が床に落ちた。
家には私しかいなかった。揺れがおさまるのを待ち泰平の本だけ持って階段を駆け下りた。
海沿いにある私の町は津波の危険があった。一刻も早く逃げないといけない。
私は本を脇に抱え高台に急いだ。
15分ほどして後ろを振り返ると、黒い波が遠くから迫っているのが見えた。最初私はそれが津波だと分からず、「津波だ!」という男性の言葉で事態を飲み込んだ。
死の恐怖と同じ位、泰平から借りたこの本を守らないといけないという使命感にも似た気持ちに襲われ全力で走った。黒い波はすぐ近くまで来ていた。ジーンズの裾が水に浸かりもう駄目かと思った。
絶対に死ねない。何よりこの本を濡らしてはいけない。泰平が私に初めて貸してくれた本なのだから。
私は最後の力を振り絞り、神社に続く坂道を一気に駆け上がった。
その夜は神社の畳張りの部屋で余震と津波に怯えながら、他の避難者たちと寄り添うようにして過ごした。
ラジオで隣町は壊滅的な被害を受け、百人の遺体が見つかったと告げていた。その隣の町では地震に起因する大規模な火災が起きていると。
これが現実だと思えなかった。
家族は無事だろうか。皆どこかに避難していますように。泰平も、彼の家族も、他の友達も。
180分の映画はあっという間に終わって、バスから降りると泰平は私に一冊の本を手渡した。金城一紀の『映画篇』という単行本だった。
「これめっちゃ面白いがら読んでみろ」
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「この本は好ぎなんだよ、まじで一気読みだがら!」
泰平は勉強はからきしだが運動神経だけはクラスで一番良かった。読書なんて柄でもないのに。
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「それを言うなら『奇なり』でしょ」
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家に帰って2階の部屋で昼寝していると、経験したことのない激しい揺れで目が覚め咄嗟に机の下に隠れた。本棚の上の写真立てや壁掛け時計が床に落ちた。
家には私しかいなかった。揺れがおさまるのを待ち泰平の本だけ持って階段を駆け下りた。
海沿いにある私の町は津波の危険があった。一刻も早く逃げないといけない。
私は本を脇に抱え高台に急いだ。
15分ほどして後ろを振り返ると、黒い波が遠くから迫っているのが見えた。最初私はそれが津波だと分からず、「津波だ!」という男性の言葉で事態を飲み込んだ。
死の恐怖と同じ位、泰平から借りたこの本を守らないといけないという使命感にも似た気持ちに襲われ全力で走った。黒い波はすぐ近くまで来ていた。ジーンズの裾が水に浸かりもう駄目かと思った。
絶対に死ねない。何よりこの本を濡らしてはいけない。泰平が私に初めて貸してくれた本なのだから。
私は最後の力を振り絞り、神社に続く坂道を一気に駆け上がった。
その夜は神社の畳張りの部屋で余震と津波に怯えながら、他の避難者たちと寄り添うようにして過ごした。
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これが現実だと思えなかった。
家族は無事だろうか。皆どこかに避難していますように。泰平も、彼の家族も、他の友達も。
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