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プロローグ~
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プロローグ
一九九一年一月十八日水曜日、火災発生
「事件ですか、事故ですか」
「矢萩美術館で火災が起きてます。それに、どうやら人も倒れていて……」
「わかりました、すぐに救急と消防を向かわせます」
事件はここから始まった。
この日に二人の男性が亡くなった。死因は火災によるものではなく、何者かによって刺された時の失血である。
普段、活気もないこじんまりした町は大騒ぎになった。
しかし、放火をしたであろう犯人の行方は特定されることもなく、十数年の時が過ぎた。
*
何年経っても私の住む小さな町ではその話題で持ちきりだった。
原因不明の矢萩美術館の失火。男性の無惨な焼死体。
切り刻まれたような跡のある絵画や火災により傷んだ絵画。かの有名な『ヴィーナスの誕生』を描いたボッティチェリや『叫び』で知られるムンクなど、名だたるテンペラ画の巨匠たちの作品に紛れて、瀧直人(たきなおと)の絵画群だけに切られたような傷が集中していた。これは悪意のあるイタズラによるものか、意図的か否か。
傷もさることながら火災による痛みも激しい。
地元紙には大きくこのように掲載されていた。
『矢萩美術館で火災 男性二人死亡
一月十八日午後四時ごろ、矢萩町の矢萩美術館から火災発生。二人の男性の遺体が共に発見された。
矢萩警察署による調べでは、この男性は同日同所で開催中のテンペラ画美術展に参加していたオーナーの安田孝昌(52)と矢萩美術館の館長紺野勝幸(63)。両者の腹部には、鋭利な刃物で刺されたような傷があり、死因は失血死とみられる。
警察は安田孝昌さんと紺野勝幸さんの身の回りに、人間関係のトラブルがなかったか、調査中である。』
1 絵画修復という仕事
一九七一年、ちょうど私が二十歳の頃に日本を飛び出し、絵画修復の本場イタリアで数々の美術品を修復してきた。当時新人だった私には絵画修復を任されるということはまず夢のまた夢のようなことであった。
ベテランの修復師のジュリア先生から、完璧な修復を施せるか、絵画に傷をわざとつけられ、試されることもしばしばだった。
「この傷が修復できたら、この絵画を君に任せるわ。頑張ってちょうだい、期待の修復師君」
「わ、わかりました。任せてください。完璧に直して見せます」
完璧な修繕・修復は困難を極める作業である。
その絵画を描いた画家の筆の運びや絵具の重ね塗りや濃淡、それぞれに意図があり、読み解かなければならない。
修復行為には、画家が描いたその時代を損なわないような修繕あるいは補修行為である必要がある。
それほど、慎重で繊細な仕事を要求される”絵画修復“という仕事。
そんな完璧な修繕・修復を要求される一枚の絵画の修復を任されるというのは名誉であり、おそれ多いことなのだ。
ゆえに普段ぬるま湯に浸かったような緊張感もヘタレもない私自身ですら、自分でも驚くほど一定の緊張感をもって一枚の絵画を修復するのにかかりっきりだった。
その絵画は画家の瀧直人が描いた『リットリオの夏』という。一九三七年のイタリア軍艦リットリオの進水式の様子を描かれた作品だ。しかし、絵具やワニスの剥離がひどく大変傷んでいた。
保護材のワニスの剥離により、ほこりや光、湿度などあらゆる刺激にさらされて絵画の半分以上が日焼けし、微細なほこりが付着し、美しい発色を失い、くすんでいた。
しかし、その多くの汚れや傷みを私は二年近くかけて修繕を施した。
綺麗なテンペラ画特有の白の発色の良さが戻る。
くすみ灰色がかった一枚の絵画は鮮やかさを取り戻した。
暗雲がかかったような空も鮮やかな青色に変わっていた。
リットリオの進水式の日が晴れやかな空模様だったかは資料が手元になくわからないが、おそらくこの絵画を描いた画家の目には、そう映っていたことだろう。
私はそんなことを思いながら、あのベテラン修復師でもあるジュリア先生も認めた、仕事ぶりを同僚の修復師たちに見せつけ、イタリアを発った。
2 日本に来て、矢萩美術館での出会い
イタリアを離れて、日本に帰国した私は、帰国後からの半年は日本中の美術館を見て回った。帰国後すぐに仕事を始めるのではなく、のんびり絵画を見て羽を伸ばすと決めていた。この半年の間に、たまたま私が修復を担当した絵画のひとつが矢萩美術館に飾られることになった。
その絵画が、『岩窟の聖母』という絵画であり、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品だ。
『ダ・ヴィンチ展~天才が遺した名作たち~』という展覧会に、それが出展される。
同日に、一般客としてではなく、修復の担当者として、矢萩美術館の展覧会の設営に参加した。
この絵画の修復状況の説明や、展示に際しての留意点などを事細かに説明する。
この絵画には聖母マリア、幼児キリスト、幼い洗礼者ヨハネ、天使の四人の人物像が描かれているが、これらの人物の肌が湿度や室温による劣化がひどく、『リットリオの夏』の時と同様にワニスも剥離しており、黒いカビが所々に点在して洗浄や色を馴染ませる修復にかなりの苦労を要していた。
その時カメラに収めた何枚もの写真と実物を見比べながら説明し、開催主である矢萩美術館長の目に留まる。
この一件から矢萩美術館での仕事を貰えるようになっていた。
この繋がりが功を奏して、今の彼女の矢萩美術館に勤めている石川さやかという女性と出会った。
矢萩美術館の館長を通して、私は矢萩美術館のことも彼女のことも目にするような機会が増え、徐々に親密な間柄になっていった。はじめこそはただの仕事上のお付き合いだったが、ビジネスパートナーより一足踏み込んだお付き合いに変化していた。
やはり男女というものは親密になればなるほど互いが惹かれ合うようになるらしい。
私と彼女の間柄のように、互いに仕事には真面目な性格の二人が互いの仕事を知ることで、互いが互いを認める、ビジネスパートナーとして、また男女のパートナーとして。親密になるには充分すぎる理由だった。
それほど彼女の絵画に対する扱いや姿勢が、熱心である種の信仰心のような敬虔な態度を取っていた。
私が彼女の仕事ぶりをそうとらえたように、同じく彼女も私の絵画に向き合う姿勢に惹かれていった。
互いが互いを認め、私の仕事場であるまだ小さな工房に彼女は何かと理由をつけて足を運ぶようになっていった。
3 二〇〇六年八月 火災から十四年経過
矢萩美術館が火災に見舞われたというニュースを知って十四年と少しの月日が経った今。今日もまた、彼女が私の工房に彼女独特な明るい声で入ってきた。
「和田く~ん。様子を見に来たよー」
「足元、気をつけてな。そこら辺画材とか散らかって汚れてるから」
「分かってるわよ、それにな~に。その絵画は」
彼女は軽快な足取りで、キャンバス掛けに立て掛けられた絵画をさわった。
「ああ、この絵画か。新しい館長さんから話しは聞いてなかったのか?」
「話?」
「ああ、矢萩美術館が火災になったっていう話なんだが」
「ああ、それね、聞いてるわよ。ってか、その火災に居合わせた一人が私なの」
彼女の動揺したような顔つきをみて、
「さやか。そんな大事な話ぐらい、いつでも私に話せたはずだぞ?」
と、つい毒づいてしまった。
「それはごめんなさいね。色々あったのよ‥‥。それに和田くんったら、仕事にかかりっきりで聞く耳持たなかったじゃない!」
なんでもない会話のやり取りをしたはずだった。
しかし、彼女を怒らせてしまった。
私が何か言おうとすると、口の中いっぱいに苦虫を噛み潰したような味が広がる。私の口からも彼女の口からも怒りの言葉しかでないような気がしてならない。
やるせない思いを目の前の修復待ちの絵画にぶつける。
そうだ、私には絵画修復がある。
私の心が彼女の言葉から離れ、絵画に向かったのを見計らったかのように、彼女は少し重たくなった口を開いた。
「この絵画って、もしや火災が起きたときに展示されたあの絵画かしら」
「美術館からはそのように聞いている」
「それを早く言ってちょうだい」
「何を言う、さやかは修復の進み具合を見に来たんじゃないのか?」
「エヘヘ、そうだったわ」
「変に探ろうとしちゃったじゃないか、ったく」
私は彼女が、焼けた美術館のことやお世話になっていた紺野館長が亡くなったことで、およそ頭がいっぱいになり、辛い心境でいるのだろうと肌にひしひしと感じていた。だから、彼女は言葉に詰まらせながらも、私との会話を途切れないようにぎこちない返事をしたのだと、自身に言い聞かせた。
彼女への心配、気遣いもある。
それ以上にこの焼けた絵画を修復するためにも、彼女の感じていること、考えていることを深く理解するためにも彼女に聞かなければならない。
一人の男として、あるいは絵画修復師という職業柄からして、そんなことを思案しながら、壊れた絵画から彼女の方を見上げた。
「やっとその絵画から私を見る気になったかしら」
「ああ、ようやくね」
私は彼女の問いかけに少し頭をかきながら答えた。
「な~に、和田くん。そんなに私がいたら邪魔なの?」
彼女のわかりきった問いかけにたいして、
「そんなことはないさ、むしろ、居て欲しいぐらいだぞ!」
と私は彼女の欲しがる言葉を吐いた。
「居て欲しいって? もう長いことお付き合いしてるのに、プロポーズの一つや二つもしない仕事人間のあなたが? 居て欲しいですって!?」
「何を言うんだい。冗談も半分にしてくれ。今そんなことは話してないだろ?」
私は彼女の癇に触る発言にかぁっとなってしまった。
「分かってるわよ。あなたがそんなこというはずがないことぐらい。ええ……ハイハイ。仕事に付き合えばいいんでしょ? 私は何をしたら良いかしら、お茶汲み? 掃除? 雑用?」
いらだつ彼女に気の利いたセリフを吐けないものかと考え、口にした。
「いやいや、お茶汲みでも掃除でも雑用でもないさ」
「だったら何をしたら良いの?」
「簡単な話さ、私に見たままを、聴いたままを話して欲しい」
「それってつまり?」
「火災の日に何があったのか知りたいのさ。もちろん、修復のために、ね」
「ええ、分かったわ。話せばいいんでしょ。仕方ないわね」
こうして私は彼女から火災当日の話を聞くことになった。
4 一九九一年火災発生前 矢萩美術館
日本では、かつてない好景気により、不動産や株式の売買が盛んに行われ、バブルが弾けた時代。
そして、絵画などにも資産価値が見出だされたためか、高額の値段がつき、有名・著名な絵画や美術品が飛ぶように消費されては売られる時代。
そんないち資産家やいちコレクターの手に名画が渡る時代に、ここ矢萩美術館では、たくさんの絵画や美術品を有名な美術館からだけでなく、名だたるコレクターたちからも借り入れ、展示する計画が立案されていた。
矢萩美術館の広報や経理事務担当の責任者数人が会議室で、打ち合わせをしていた。
口をひらいたのは石川さやかだ。
手元にある資料を長い髪で隠れないように右手でかきあげると、普段落ち着いた様子の彼女には珍しく早口で喋りだした。
「……ですから、私はこのバブルが弾けた不況の時代を鑑みましても、たくさんの絵画や美術品等、素晴らしい芸術作品の数々を良好な保存状態のまま保つためにも、私たち美術館が積極的に個人からも借り入れ、広告を打ち、たくさんの人々に見てもらえるように誘致することで、絵画がなんたるかを知らないものの手に渡るのを防ぐことが必要かと思います」
この意見にたいして、泉田秀規(いずみたひでき)という矢萩美術館の経理を任されている男が答えた。
「私は疑問だな。個人からも借り入れるとなると、展示企画の立案から展示物の借り入れ、返却・運搬等、事務的なやり取りが増えて、こちらの労力が増えるだけになりかねないのではないのか」
彼女は続けざまに反論を述べる。
「私個人の意見に過ぎないのかもしれないですが、決して喜ばしいとは言えない集客数です。矢萩美術館自体それほど大きいとは言えませんし、交通の利便性に富む立地にあるとも言えません。確かに個人からも絵画を借り入れ、展示すると決めたとしても人手不足な部分が否めません」
「だったら、やはり大きな美術館と連携するしか……」
「いいえ、やはり個人のコレクターの力をお借りするのです。バブル景気により、多くのコレクターが誕生しました。一企業が一九八七年にゴッホの『ひまわり』を五十三億円もの大金を積んで、落札した話しは有名なことでしょう! ゴッホの『ひまわり』みたいに落札された絵画は一つや二つではないはずです。それはもちろんお分かりなはずです」
二人の熱い答弁を冷静に聴いていた紺野館長が口を開いた。
「ならば、どうしたいと言うのかね?」
彼女は続けて話す。
「先程言った通り、や・は・り個人からも安く借り入れるのですよ。他の美術館から借り入れた場合、何千万もの保険が必要になります。万一のことを考えると、とてもじゃないですが、支払える額ではなく、大きな展示会は現実的ではないでしょう……」
「確かにそうだな」
彼女の話しに他の人は首を縦に振りうなずく。
「しかしながら、個人の場合なら、どうです。きちんとした管理・修繕・運搬などの知識に乏しいために、こちらが展示にかかる一連の負担をする旨の契約を結べば、保険額等の費用を向こうに減額ないしは負担を交渉できる。さらに言えば、当美術館を展示会により、宣伝でき、個人には、収益の一部を支払い、win-winな関係を結べる。……名案ではないでしょうか?」
彼女の機転とその筋のとおった意見により、否定的な意見を持っていた経理担当の泉田も、俯瞰(ふかん)して意見のぶつかり合う様を見守っていた紺野館長も、うなずいた。
三人は小さな町に埋もれるように存在する矢萩美術館を盛り上げるための具体的な策に言及することになった。
「‥‥では、具体的に個人から絵画を借り入れるとして、その絵画をどのように選定し、どのように頼むべきか、今一度考えたい」
館長がもったいぶったような口ぶりで意見を二人に求めるように話すと、黄色い声が上がる。
「大きな美術館からではなく、個人から借りて展示会を開くならば、個人が集めている絵画に共通したテーマが必要かと」
泉田が口を開く。
「確かに、テーマの設定を個人の所有物に合わせて、もっともらしいテーマで開催するのはありかもしれない」
紺野が同意すると、石川も追い風を放つ。
「私も賛成です。個人のコレクターの趣味に合わせたテーマ‥‥時代設定や画家の名前、あるいは……絵画の種類や技法なんかに着目しても良いかも知れないです。それに……」
「続けてくれ」
一番の年配であり、館長という地位としても高い役職にいるからか、紺野はもったいぶりながら石川に発言を続けるように促した。
「それに絵画の種類。西洋絵画だけみても、いくつかあげられます。例えば、油絵、水彩画、パステル画、テンペラ画……個人のコレクターの集めている作品を種類別に分けて、油絵ほにゃらら展だとかテンペラ画美術展だとか何人かのコレクターに打診して、展示会を開くと良いかもしれません」
「なるほど……それは具体的だ。それに有名画家の作品に必ずしもよらないことから、経費も押さえられて、かつ、大きな美術館にはない作品を展示できそうだ。良し、君の意見を貰うことにするよ」
「ありがとうございます!」
石川は心のなかでガッツポーズをした。
今回の意見も通れば二度連続で通ったことになる。そのため、紺野館長の“君の意見を貰うことにするよ”、は最高の報酬だった。
絵画の展示方針はあらかた決まった。
残るはどこのコレクターの誰に頼むかである。
「誰に頼るかなんて、そんなの決まっておる」
そう答えたのは、紺野館長だった。
「だ、誰なのでしょうか?」
これ見よがしの顔つきで紺野館長は石川の質問に答えた。
「安田孝昌氏だ。彼なら仕事の付き合いで前からここと親交があるし、絵画コレクターとしても有名だ」
「議論する余地はなかったみたいですな」
と、石川は目を輝かせ、泉田は少し不満そうに言葉を被せた。
*
紺野館長が会議の用を済ませたためか、席を離脱し会議室を後にする背中を二人は思い思いの目で見送る。
館長の足音が小さくなり、完全に足音が聞こえなくなったのを見計らって泉田が会議室で書類を片付ける石川に話しかけた。
「さっきの館長の発言聞いたか?」
「は、はぁ。館長の発言……ですか」
石川は少し困ったような素振りで答え、書類を片付ける手を止めて泉田の発言に注視した。
「そうだ、館長のあの発言さ」
「あの……発言ですか……一体どの発言のことでしょうか」
「もったいぶった言い方するんじゃないよ。館長が言っていたじゃないか、“誰に頼るかなんて、そんなの決まっておる”っと。端から館長は僕らの意見なんか聞く気がなかったのがよーくわかる。まるで議論の余地がないじゃないか」
興奮ぎみに早口で話す泉田に、石川はなだめようとする。
「そんなにカッカしないでくださいよ、泉田さん。それに……館長と安田孝昌さんは仲が良いらしいのは泉田さんもご存じなはずです。ですから……その……議論の余地が省けただけ考えるものが減って、楽に感じませんか?」
と、沸騰する頭で話す泉田を落ち着かせる。
それでも泉田は不服らしく、「それはそうなのだが」と力ない声で答え、とぼとぼとした足取りで会議室を後にした。
「どうして、ここの男の人って毎回こうなのかしら。頭でっかちだわ。少しは喧嘩ばかりしないで歩み寄ったらいいのに! やんなっちゃう」
残された石川は大きなため息をしながらぼやく。
「まぁ、いっか。強情なあの人たちは置いておいて、私は私でできることをやりますか!」
石川は腕をまくって呼気に力をいれた。
「確かあの人の名前は………ヤスダ。ヤスダさんだったわね! 今回の展示会の説明資料をまとめて……参加してもらえるように頼まなくちゃ!」
張り切った様子で、石川は最後に会議室を後にした。
石川の脳の中はヤスダという美術品収集家をいかにして口説き落とすか、彼女ら矢萩美術館に出品させるかで、いっぱいになっていた。
「ヤスダさんのことをよく調べなくちゃだ」
石川は決意を口にすると、不思議と笑いがこぼれた。これから、彼女の提案した企画が軌道に乗り出す様が想像されて、にやけが止まらない。そんな胸中でいながら、美術館や関係者と関わりのある人の記された名簿から“ヤスダ”の情報を見ようと、美術館の事務所の奥に併設された、重たい扉の先にある記録保管庫に近づいた。
「ヤ……ヤスダ……ヤスダタカマサ……」
分厚い本のような冊子を取りだし、ヤスダタカマサという項(ページ)を開く。
そこには、安田孝昌という名前と住所、過去の矢萩美術館との関わり、絵画や美術品の取引記録などが記されていた。
どうやら、彼は石川が矢萩美術館を勤め出す前の頃に、何回も矢萩美術館に展示された絵画等を購入や出資をしていたらしい。
やはり、ヤスダタカマサという人は、紺野館長の発言からして、館長と親しい間柄にある人だと踏んだ。そして、ヤスダタカマサの記録を見るからに、かなりの額のお金を動かせる富豪だとも見てとれる。子供の頃に少々の苦労がある生活をしていた石川にとっては、多少の羨ましさが口から顔を出して「こんにちは」と挨拶してきそうな心持ちだった。
「ともかく、館長が話すように、ヤスダタカマサに出展、あるいは出資までしてもらうことは難しくはなさそう」
石川の欲しい答えの裏付けが出たところで、彼女がこの企画を軌道に乗せるための計算を指でそろばんをつま弾きするようにして、思考の網を巡らせた。
「だったら、次は……」
と、彼女の頭のなかを高速で駆け抜ける思考を捕まえて、矢萩美術館側の人間として、美術館や芸術の分野を盛り上げるためにヤスダタカマサのコレクションも出展して欲しいことを、淡々とヤスダタカマサ宛の文章に起こして、郵便を送った。
*
ヤスダタカマサからの返信が来るまでに数日が経った。返信の文面を見ると、“快諾”の二文字を見てとれた。企画を成功させたい石川にとって、これは“成功”の二文字にも見える。それほど嬉しい報せだった。
早速、目を爛々と輝かせながら、石川はヤスダタカマサからの返事を紺野館長に伝えた。
「でしょうね。安田とは知己の仲だからね、私の勤める矢萩美術館からのお誘いなら快諾してくれるのは目に見えていた」
石川と紺野館長のひときわデカイ話し声で、事務仕事に勤しんでいた泉田も駆けつけてきた。
「黙々と仕事してる人間もいるのですから、少々ボリュームを下げて話していただきたい。経理の仕事は数字一つの間違いが大きな損失を生み出しますから! それぐらいわかってますよね? お二人さん」
「こりゃ、失敬失敬。邪魔したみたいですまないね、泉田君」
紺野館長はシワだらけの顔に、さらにシワを増やして豪快に笑いながら、泉田のお咎めをのらりくらりとかわした。
「本当にそうですよ! ったく‥‥しっかりしてください」
館長の笑いに乗じて、石川も笑いをこぼした。生真面目な性格で、ちょっと難のある泉田がふてくされながら事務仕事に戻る背中を見て、二人はより一層笑う。
二人は泉田の背中を目で追うと、それぞれ動き出す。
紺野館長は泉田に展示会の諸経費のことや打ち出す広告をどのようなものにしていくか、という準備の相談するために後ろを追い、同時に、石川は今後展示される絵画や美術品を手配するために。
展示会について前向きな石川と紺野館長からしてみたら、なにやらあまり気乗りしない様子の泉田がいささか気がかりではあるが、すでに賽(さい)は投げられた。
なるべく低予算でかつ、矢萩美術館と過去に取引などで繋がりのある協力的な個人のうちヤスダタカマサ以外にも当たることがおよそ望ましいと判断され、過去の協力者の記録保管庫の資料を漁り、選定する。
展示会開催について、無関心に近い態度をとる泉田にたいして、石川は紺野館長から選定を任され、選んだ人物は三名。順にヤスダタカマサ、アンザイアミ、ヤギカナエ。
それぞれ、美術品収集家、画家、画廊のオーナー、と三人が三人共に絵画や美術品といった芸術にたいして、関心があり、矢萩美術館と何度か取引だったり、接点がある個人だ。
ヤスダタカマサやアンザイアミの持つ絵画や美術品の共通点を見出だして、展示会に並べるにふさわしい作品がいくつあるかを調べる必要がある。
石川はここに来て、ようやく頭を悩ませる。
トントン拍子に話が進んできただけに、何人かのコレクターの懐具合や身辺を調べるような探偵のようなことを他の人にも同様にしなければならないと痛感し、めんどくささから、さじを投げたくなった。
ため息をつきながらも継続してコレクターたちに連絡などをまめにいれる石川。
そんな石川の少し落胆した様子を遠目で見ていた館長は、優しく肩を叩きながら、“働いてるのは、お前独りじゃないんだぞ”と声をかける。
石川の目頭は少し熱くなったためか、目の周りがほんのり紅く色づき、もう一度頑張ろう、という気持ちに傾いた。
* (三人のコレクター)
件(くだん)の三人のコレクターの家に所蔵される絵画群にどんなものがあるのか、その傾向を子細に調査すべく矢萩美術館は石川を発起人であり、かつまだ入社してあまり年数の経ってない新人であることから、石川を駆り出した。
しかしながら、石川以外の人間に出張させるほど人員はおろか、時間的にもあまり猶予はない。
そのため、突貫工事のような弾丸スケジュールを組み、三人の家まで迅速に調査する。
順当に調べるならヤスダタカマサ、アンザイアミ、ヤギカナエといったところか。
三人の家を順番に訪問し、保管されている作品名や作者、制作された時代等を写真や文章として記録し、あるいは調べる。
三人に共通して所有しているものには、光や水といった自然現象や衣類のシワ、インテリアの質感など、細部に至るまでリアルに再現することに心血を注がれた作風の絵画が多くみられ、三人共に「自然美」や「リアルさ」の伝わる絵画が好きだと伝わった。
また、ラファエロやデューラー、ファンデルフース等の西洋画家の名前に、日本人の瀧直人等の作品も混じっている。
では、肝心の展示する絵画の傾向をどうするか、その答えをひねり出すには少々年代や作者にばらつきがあり、考えあぐねた。
しかし、三人の所有している絵画の傾向として、すでに感じ取った特徴の「自然美」や「リアルさ」から十五、六世紀の初期フランドル画やルネサンス絵画に多くみられる表現に合致していること、またその頃に活躍していた画家の絵画が散見されることを理由に自然美・写実的な画風をテーマにした初期フランドル・ルネサンス絵画展の立案を構想すると共に、三人各々の意見も詰め寄らせて展示物を決定すれば良さそうだと写真やメモを見ながら考える。
さらに、矢萩美術館の首領(ドン)である紺野館長の意向も大事にしなければならない。
「ああ、考えることが山積みだ」
ぼやきが呼吸をするように石川の口から出る。
何はともあれ、石川のやりたいことを成功させるためにはあと少し、あと少しなのだ。
「館長。三人のコレクターの持つ絵画の共通点はおおむね整理できました。世界的に名のあるラファエロやデューラーといった西洋画家の作品が、ちらほら見え隠れしておりますが‥‥」
「石川君。最初にあなたが提案した意見を思い出してみなさい。大筋から外れた的はずれな発言してないかね?」
「は、はぁ……。確かに……」
石川は過去に発言した意見や討論した内容を振り替える。
有名な絵画を鑑賞する機会を来館者に与えるのは大事なことだが、それをわざわざ弱小美術館でやる必要はない。むしろ、そんなことはルーブル美術館のような有名で大きな美術館が、それを大量の資金と人員を用意してやるような内容だ。現実には則していないし、弱小美術館には弱小美術館なりのよさがある。矢萩美術館は、小規模な美術館であるために、展示できる作品の数に限度がある。さらに“無名”の、かつ“個人”といった名前だけが先にいくような作品以外の作品に着目して展示するのが、“我々矢萩美術館の在り方であり、目指している姿”であるべきだ。
そこまでの長い思考を巡らせると、ふぅーっと息を調えた。
「仮に、我々矢萩美術館が着目すべき展示物が“個人”であるとするならばです。当然のように世界的な画家の世界的な名画みたいな、“肩書き”のある作品は取り扱えません。もっと踏み込んだ話をするなら、三人のコレクターが持っている絵画のなかで、最も日の目を浴びているような肩書きのない絵画に限定すべきです。つまり、絵画を有名という色眼鏡で見られやすい世界的な画家やその作品を避けるべきだと言えますし、世間体みたいな好奇の目にさらされた絵画はおよそ避けるべきです。また、世界的なという肩書きを除外したとき、そこにしれっと紛れている瀧直人という画家が描いた絵画はまだ国外まで充分に認知されていません。ですから、うちで展示するのは妥当と言えるのではないでしょうか」
「見事な論客力だな、石川君。瀧直人だな、その画家の作品の展示を中心に展示会を開こう! よく頑張った、そのように残りの手配をこちらで済ませておく。今のうちに休憩しておいてくれ。さぁ、これからより一層忙しくなりそうだ」
紺野館長は年甲斐もなく声を弾ませて返事をしながら、仕事に戻った。
*
長年慣れ親しんできたのであろう紺野館長による仕事は早く、新人の石川には真似できない早さで三人のコレクターたちと展示会の展示方法や展示作品のすり合わせを行った。
三人のコレクターのうちの一人安田孝昌が“瀧直人”という画家の作品を一番多く所有していた。
瀧直人は風景画から人物画、キリスト教絵画など、様々なジャンルの作品を遺しており、そのうちの風景画とキリスト教絵画数点を中心に展示することが決まった。
しかし、コレクターたちが所有していた瀧作品数が少ないために。展示方法として、中央にはまだ世界的ではない瀧作品を。隅の方にはラファエロという世界的に有名なルネサンス期の画家の作品などを飾る。世界的に有名という偏見で絵画を鑑賞し、色眼鏡を通して語る全ての人間に対する皮肉を込めた形式の展示方法だ。
一九九一年一月十八日水曜日、火災発生
「事件ですか、事故ですか」
「矢萩美術館で火災が起きてます。それに、どうやら人も倒れていて……」
「わかりました、すぐに救急と消防を向かわせます」
事件はここから始まった。
この日に二人の男性が亡くなった。死因は火災によるものではなく、何者かによって刺された時の失血である。
普段、活気もないこじんまりした町は大騒ぎになった。
しかし、放火をしたであろう犯人の行方は特定されることもなく、十数年の時が過ぎた。
*
何年経っても私の住む小さな町ではその話題で持ちきりだった。
原因不明の矢萩美術館の失火。男性の無惨な焼死体。
切り刻まれたような跡のある絵画や火災により傷んだ絵画。かの有名な『ヴィーナスの誕生』を描いたボッティチェリや『叫び』で知られるムンクなど、名だたるテンペラ画の巨匠たちの作品に紛れて、瀧直人(たきなおと)の絵画群だけに切られたような傷が集中していた。これは悪意のあるイタズラによるものか、意図的か否か。
傷もさることながら火災による痛みも激しい。
地元紙には大きくこのように掲載されていた。
『矢萩美術館で火災 男性二人死亡
一月十八日午後四時ごろ、矢萩町の矢萩美術館から火災発生。二人の男性の遺体が共に発見された。
矢萩警察署による調べでは、この男性は同日同所で開催中のテンペラ画美術展に参加していたオーナーの安田孝昌(52)と矢萩美術館の館長紺野勝幸(63)。両者の腹部には、鋭利な刃物で刺されたような傷があり、死因は失血死とみられる。
警察は安田孝昌さんと紺野勝幸さんの身の回りに、人間関係のトラブルがなかったか、調査中である。』
1 絵画修復という仕事
一九七一年、ちょうど私が二十歳の頃に日本を飛び出し、絵画修復の本場イタリアで数々の美術品を修復してきた。当時新人だった私には絵画修復を任されるということはまず夢のまた夢のようなことであった。
ベテランの修復師のジュリア先生から、完璧な修復を施せるか、絵画に傷をわざとつけられ、試されることもしばしばだった。
「この傷が修復できたら、この絵画を君に任せるわ。頑張ってちょうだい、期待の修復師君」
「わ、わかりました。任せてください。完璧に直して見せます」
完璧な修繕・修復は困難を極める作業である。
その絵画を描いた画家の筆の運びや絵具の重ね塗りや濃淡、それぞれに意図があり、読み解かなければならない。
修復行為には、画家が描いたその時代を損なわないような修繕あるいは補修行為である必要がある。
それほど、慎重で繊細な仕事を要求される”絵画修復“という仕事。
そんな完璧な修繕・修復を要求される一枚の絵画の修復を任されるというのは名誉であり、おそれ多いことなのだ。
ゆえに普段ぬるま湯に浸かったような緊張感もヘタレもない私自身ですら、自分でも驚くほど一定の緊張感をもって一枚の絵画を修復するのにかかりっきりだった。
その絵画は画家の瀧直人が描いた『リットリオの夏』という。一九三七年のイタリア軍艦リットリオの進水式の様子を描かれた作品だ。しかし、絵具やワニスの剥離がひどく大変傷んでいた。
保護材のワニスの剥離により、ほこりや光、湿度などあらゆる刺激にさらされて絵画の半分以上が日焼けし、微細なほこりが付着し、美しい発色を失い、くすんでいた。
しかし、その多くの汚れや傷みを私は二年近くかけて修繕を施した。
綺麗なテンペラ画特有の白の発色の良さが戻る。
くすみ灰色がかった一枚の絵画は鮮やかさを取り戻した。
暗雲がかかったような空も鮮やかな青色に変わっていた。
リットリオの進水式の日が晴れやかな空模様だったかは資料が手元になくわからないが、おそらくこの絵画を描いた画家の目には、そう映っていたことだろう。
私はそんなことを思いながら、あのベテラン修復師でもあるジュリア先生も認めた、仕事ぶりを同僚の修復師たちに見せつけ、イタリアを発った。
2 日本に来て、矢萩美術館での出会い
イタリアを離れて、日本に帰国した私は、帰国後からの半年は日本中の美術館を見て回った。帰国後すぐに仕事を始めるのではなく、のんびり絵画を見て羽を伸ばすと決めていた。この半年の間に、たまたま私が修復を担当した絵画のひとつが矢萩美術館に飾られることになった。
その絵画が、『岩窟の聖母』という絵画であり、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品だ。
『ダ・ヴィンチ展~天才が遺した名作たち~』という展覧会に、それが出展される。
同日に、一般客としてではなく、修復の担当者として、矢萩美術館の展覧会の設営に参加した。
この絵画の修復状況の説明や、展示に際しての留意点などを事細かに説明する。
この絵画には聖母マリア、幼児キリスト、幼い洗礼者ヨハネ、天使の四人の人物像が描かれているが、これらの人物の肌が湿度や室温による劣化がひどく、『リットリオの夏』の時と同様にワニスも剥離しており、黒いカビが所々に点在して洗浄や色を馴染ませる修復にかなりの苦労を要していた。
その時カメラに収めた何枚もの写真と実物を見比べながら説明し、開催主である矢萩美術館長の目に留まる。
この一件から矢萩美術館での仕事を貰えるようになっていた。
この繋がりが功を奏して、今の彼女の矢萩美術館に勤めている石川さやかという女性と出会った。
矢萩美術館の館長を通して、私は矢萩美術館のことも彼女のことも目にするような機会が増え、徐々に親密な間柄になっていった。はじめこそはただの仕事上のお付き合いだったが、ビジネスパートナーより一足踏み込んだお付き合いに変化していた。
やはり男女というものは親密になればなるほど互いが惹かれ合うようになるらしい。
私と彼女の間柄のように、互いに仕事には真面目な性格の二人が互いの仕事を知ることで、互いが互いを認める、ビジネスパートナーとして、また男女のパートナーとして。親密になるには充分すぎる理由だった。
それほど彼女の絵画に対する扱いや姿勢が、熱心である種の信仰心のような敬虔な態度を取っていた。
私が彼女の仕事ぶりをそうとらえたように、同じく彼女も私の絵画に向き合う姿勢に惹かれていった。
互いが互いを認め、私の仕事場であるまだ小さな工房に彼女は何かと理由をつけて足を運ぶようになっていった。
3 二〇〇六年八月 火災から十四年経過
矢萩美術館が火災に見舞われたというニュースを知って十四年と少しの月日が経った今。今日もまた、彼女が私の工房に彼女独特な明るい声で入ってきた。
「和田く~ん。様子を見に来たよー」
「足元、気をつけてな。そこら辺画材とか散らかって汚れてるから」
「分かってるわよ、それにな~に。その絵画は」
彼女は軽快な足取りで、キャンバス掛けに立て掛けられた絵画をさわった。
「ああ、この絵画か。新しい館長さんから話しは聞いてなかったのか?」
「話?」
「ああ、矢萩美術館が火災になったっていう話なんだが」
「ああ、それね、聞いてるわよ。ってか、その火災に居合わせた一人が私なの」
彼女の動揺したような顔つきをみて、
「さやか。そんな大事な話ぐらい、いつでも私に話せたはずだぞ?」
と、つい毒づいてしまった。
「それはごめんなさいね。色々あったのよ‥‥。それに和田くんったら、仕事にかかりっきりで聞く耳持たなかったじゃない!」
なんでもない会話のやり取りをしたはずだった。
しかし、彼女を怒らせてしまった。
私が何か言おうとすると、口の中いっぱいに苦虫を噛み潰したような味が広がる。私の口からも彼女の口からも怒りの言葉しかでないような気がしてならない。
やるせない思いを目の前の修復待ちの絵画にぶつける。
そうだ、私には絵画修復がある。
私の心が彼女の言葉から離れ、絵画に向かったのを見計らったかのように、彼女は少し重たくなった口を開いた。
「この絵画って、もしや火災が起きたときに展示されたあの絵画かしら」
「美術館からはそのように聞いている」
「それを早く言ってちょうだい」
「何を言う、さやかは修復の進み具合を見に来たんじゃないのか?」
「エヘヘ、そうだったわ」
「変に探ろうとしちゃったじゃないか、ったく」
私は彼女が、焼けた美術館のことやお世話になっていた紺野館長が亡くなったことで、およそ頭がいっぱいになり、辛い心境でいるのだろうと肌にひしひしと感じていた。だから、彼女は言葉に詰まらせながらも、私との会話を途切れないようにぎこちない返事をしたのだと、自身に言い聞かせた。
彼女への心配、気遣いもある。
それ以上にこの焼けた絵画を修復するためにも、彼女の感じていること、考えていることを深く理解するためにも彼女に聞かなければならない。
一人の男として、あるいは絵画修復師という職業柄からして、そんなことを思案しながら、壊れた絵画から彼女の方を見上げた。
「やっとその絵画から私を見る気になったかしら」
「ああ、ようやくね」
私は彼女の問いかけに少し頭をかきながら答えた。
「な~に、和田くん。そんなに私がいたら邪魔なの?」
彼女のわかりきった問いかけにたいして、
「そんなことはないさ、むしろ、居て欲しいぐらいだぞ!」
と私は彼女の欲しがる言葉を吐いた。
「居て欲しいって? もう長いことお付き合いしてるのに、プロポーズの一つや二つもしない仕事人間のあなたが? 居て欲しいですって!?」
「何を言うんだい。冗談も半分にしてくれ。今そんなことは話してないだろ?」
私は彼女の癇に触る発言にかぁっとなってしまった。
「分かってるわよ。あなたがそんなこというはずがないことぐらい。ええ……ハイハイ。仕事に付き合えばいいんでしょ? 私は何をしたら良いかしら、お茶汲み? 掃除? 雑用?」
いらだつ彼女に気の利いたセリフを吐けないものかと考え、口にした。
「いやいや、お茶汲みでも掃除でも雑用でもないさ」
「だったら何をしたら良いの?」
「簡単な話さ、私に見たままを、聴いたままを話して欲しい」
「それってつまり?」
「火災の日に何があったのか知りたいのさ。もちろん、修復のために、ね」
「ええ、分かったわ。話せばいいんでしょ。仕方ないわね」
こうして私は彼女から火災当日の話を聞くことになった。
4 一九九一年火災発生前 矢萩美術館
日本では、かつてない好景気により、不動産や株式の売買が盛んに行われ、バブルが弾けた時代。
そして、絵画などにも資産価値が見出だされたためか、高額の値段がつき、有名・著名な絵画や美術品が飛ぶように消費されては売られる時代。
そんないち資産家やいちコレクターの手に名画が渡る時代に、ここ矢萩美術館では、たくさんの絵画や美術品を有名な美術館からだけでなく、名だたるコレクターたちからも借り入れ、展示する計画が立案されていた。
矢萩美術館の広報や経理事務担当の責任者数人が会議室で、打ち合わせをしていた。
口をひらいたのは石川さやかだ。
手元にある資料を長い髪で隠れないように右手でかきあげると、普段落ち着いた様子の彼女には珍しく早口で喋りだした。
「……ですから、私はこのバブルが弾けた不況の時代を鑑みましても、たくさんの絵画や美術品等、素晴らしい芸術作品の数々を良好な保存状態のまま保つためにも、私たち美術館が積極的に個人からも借り入れ、広告を打ち、たくさんの人々に見てもらえるように誘致することで、絵画がなんたるかを知らないものの手に渡るのを防ぐことが必要かと思います」
この意見にたいして、泉田秀規(いずみたひでき)という矢萩美術館の経理を任されている男が答えた。
「私は疑問だな。個人からも借り入れるとなると、展示企画の立案から展示物の借り入れ、返却・運搬等、事務的なやり取りが増えて、こちらの労力が増えるだけになりかねないのではないのか」
彼女は続けざまに反論を述べる。
「私個人の意見に過ぎないのかもしれないですが、決して喜ばしいとは言えない集客数です。矢萩美術館自体それほど大きいとは言えませんし、交通の利便性に富む立地にあるとも言えません。確かに個人からも絵画を借り入れ、展示すると決めたとしても人手不足な部分が否めません」
「だったら、やはり大きな美術館と連携するしか……」
「いいえ、やはり個人のコレクターの力をお借りするのです。バブル景気により、多くのコレクターが誕生しました。一企業が一九八七年にゴッホの『ひまわり』を五十三億円もの大金を積んで、落札した話しは有名なことでしょう! ゴッホの『ひまわり』みたいに落札された絵画は一つや二つではないはずです。それはもちろんお分かりなはずです」
二人の熱い答弁を冷静に聴いていた紺野館長が口を開いた。
「ならば、どうしたいと言うのかね?」
彼女は続けて話す。
「先程言った通り、や・は・り個人からも安く借り入れるのですよ。他の美術館から借り入れた場合、何千万もの保険が必要になります。万一のことを考えると、とてもじゃないですが、支払える額ではなく、大きな展示会は現実的ではないでしょう……」
「確かにそうだな」
彼女の話しに他の人は首を縦に振りうなずく。
「しかしながら、個人の場合なら、どうです。きちんとした管理・修繕・運搬などの知識に乏しいために、こちらが展示にかかる一連の負担をする旨の契約を結べば、保険額等の費用を向こうに減額ないしは負担を交渉できる。さらに言えば、当美術館を展示会により、宣伝でき、個人には、収益の一部を支払い、win-winな関係を結べる。……名案ではないでしょうか?」
彼女の機転とその筋のとおった意見により、否定的な意見を持っていた経理担当の泉田も、俯瞰(ふかん)して意見のぶつかり合う様を見守っていた紺野館長も、うなずいた。
三人は小さな町に埋もれるように存在する矢萩美術館を盛り上げるための具体的な策に言及することになった。
「‥‥では、具体的に個人から絵画を借り入れるとして、その絵画をどのように選定し、どのように頼むべきか、今一度考えたい」
館長がもったいぶったような口ぶりで意見を二人に求めるように話すと、黄色い声が上がる。
「大きな美術館からではなく、個人から借りて展示会を開くならば、個人が集めている絵画に共通したテーマが必要かと」
泉田が口を開く。
「確かに、テーマの設定を個人の所有物に合わせて、もっともらしいテーマで開催するのはありかもしれない」
紺野が同意すると、石川も追い風を放つ。
「私も賛成です。個人のコレクターの趣味に合わせたテーマ‥‥時代設定や画家の名前、あるいは……絵画の種類や技法なんかに着目しても良いかも知れないです。それに……」
「続けてくれ」
一番の年配であり、館長という地位としても高い役職にいるからか、紺野はもったいぶりながら石川に発言を続けるように促した。
「それに絵画の種類。西洋絵画だけみても、いくつかあげられます。例えば、油絵、水彩画、パステル画、テンペラ画……個人のコレクターの集めている作品を種類別に分けて、油絵ほにゃらら展だとかテンペラ画美術展だとか何人かのコレクターに打診して、展示会を開くと良いかもしれません」
「なるほど……それは具体的だ。それに有名画家の作品に必ずしもよらないことから、経費も押さえられて、かつ、大きな美術館にはない作品を展示できそうだ。良し、君の意見を貰うことにするよ」
「ありがとうございます!」
石川は心のなかでガッツポーズをした。
今回の意見も通れば二度連続で通ったことになる。そのため、紺野館長の“君の意見を貰うことにするよ”、は最高の報酬だった。
絵画の展示方針はあらかた決まった。
残るはどこのコレクターの誰に頼むかである。
「誰に頼るかなんて、そんなの決まっておる」
そう答えたのは、紺野館長だった。
「だ、誰なのでしょうか?」
これ見よがしの顔つきで紺野館長は石川の質問に答えた。
「安田孝昌氏だ。彼なら仕事の付き合いで前からここと親交があるし、絵画コレクターとしても有名だ」
「議論する余地はなかったみたいですな」
と、石川は目を輝かせ、泉田は少し不満そうに言葉を被せた。
*
紺野館長が会議の用を済ませたためか、席を離脱し会議室を後にする背中を二人は思い思いの目で見送る。
館長の足音が小さくなり、完全に足音が聞こえなくなったのを見計らって泉田が会議室で書類を片付ける石川に話しかけた。
「さっきの館長の発言聞いたか?」
「は、はぁ。館長の発言……ですか」
石川は少し困ったような素振りで答え、書類を片付ける手を止めて泉田の発言に注視した。
「そうだ、館長のあの発言さ」
「あの……発言ですか……一体どの発言のことでしょうか」
「もったいぶった言い方するんじゃないよ。館長が言っていたじゃないか、“誰に頼るかなんて、そんなの決まっておる”っと。端から館長は僕らの意見なんか聞く気がなかったのがよーくわかる。まるで議論の余地がないじゃないか」
興奮ぎみに早口で話す泉田に、石川はなだめようとする。
「そんなにカッカしないでくださいよ、泉田さん。それに……館長と安田孝昌さんは仲が良いらしいのは泉田さんもご存じなはずです。ですから……その……議論の余地が省けただけ考えるものが減って、楽に感じませんか?」
と、沸騰する頭で話す泉田を落ち着かせる。
それでも泉田は不服らしく、「それはそうなのだが」と力ない声で答え、とぼとぼとした足取りで会議室を後にした。
「どうして、ここの男の人って毎回こうなのかしら。頭でっかちだわ。少しは喧嘩ばかりしないで歩み寄ったらいいのに! やんなっちゃう」
残された石川は大きなため息をしながらぼやく。
「まぁ、いっか。強情なあの人たちは置いておいて、私は私でできることをやりますか!」
石川は腕をまくって呼気に力をいれた。
「確かあの人の名前は………ヤスダ。ヤスダさんだったわね! 今回の展示会の説明資料をまとめて……参加してもらえるように頼まなくちゃ!」
張り切った様子で、石川は最後に会議室を後にした。
石川の脳の中はヤスダという美術品収集家をいかにして口説き落とすか、彼女ら矢萩美術館に出品させるかで、いっぱいになっていた。
「ヤスダさんのことをよく調べなくちゃだ」
石川は決意を口にすると、不思議と笑いがこぼれた。これから、彼女の提案した企画が軌道に乗り出す様が想像されて、にやけが止まらない。そんな胸中でいながら、美術館や関係者と関わりのある人の記された名簿から“ヤスダ”の情報を見ようと、美術館の事務所の奥に併設された、重たい扉の先にある記録保管庫に近づいた。
「ヤ……ヤスダ……ヤスダタカマサ……」
分厚い本のような冊子を取りだし、ヤスダタカマサという項(ページ)を開く。
そこには、安田孝昌という名前と住所、過去の矢萩美術館との関わり、絵画や美術品の取引記録などが記されていた。
どうやら、彼は石川が矢萩美術館を勤め出す前の頃に、何回も矢萩美術館に展示された絵画等を購入や出資をしていたらしい。
やはり、ヤスダタカマサという人は、紺野館長の発言からして、館長と親しい間柄にある人だと踏んだ。そして、ヤスダタカマサの記録を見るからに、かなりの額のお金を動かせる富豪だとも見てとれる。子供の頃に少々の苦労がある生活をしていた石川にとっては、多少の羨ましさが口から顔を出して「こんにちは」と挨拶してきそうな心持ちだった。
「ともかく、館長が話すように、ヤスダタカマサに出展、あるいは出資までしてもらうことは難しくはなさそう」
石川の欲しい答えの裏付けが出たところで、彼女がこの企画を軌道に乗せるための計算を指でそろばんをつま弾きするようにして、思考の網を巡らせた。
「だったら、次は……」
と、彼女の頭のなかを高速で駆け抜ける思考を捕まえて、矢萩美術館側の人間として、美術館や芸術の分野を盛り上げるためにヤスダタカマサのコレクションも出展して欲しいことを、淡々とヤスダタカマサ宛の文章に起こして、郵便を送った。
*
ヤスダタカマサからの返信が来るまでに数日が経った。返信の文面を見ると、“快諾”の二文字を見てとれた。企画を成功させたい石川にとって、これは“成功”の二文字にも見える。それほど嬉しい報せだった。
早速、目を爛々と輝かせながら、石川はヤスダタカマサからの返事を紺野館長に伝えた。
「でしょうね。安田とは知己の仲だからね、私の勤める矢萩美術館からのお誘いなら快諾してくれるのは目に見えていた」
石川と紺野館長のひときわデカイ話し声で、事務仕事に勤しんでいた泉田も駆けつけてきた。
「黙々と仕事してる人間もいるのですから、少々ボリュームを下げて話していただきたい。経理の仕事は数字一つの間違いが大きな損失を生み出しますから! それぐらいわかってますよね? お二人さん」
「こりゃ、失敬失敬。邪魔したみたいですまないね、泉田君」
紺野館長はシワだらけの顔に、さらにシワを増やして豪快に笑いながら、泉田のお咎めをのらりくらりとかわした。
「本当にそうですよ! ったく‥‥しっかりしてください」
館長の笑いに乗じて、石川も笑いをこぼした。生真面目な性格で、ちょっと難のある泉田がふてくされながら事務仕事に戻る背中を見て、二人はより一層笑う。
二人は泉田の背中を目で追うと、それぞれ動き出す。
紺野館長は泉田に展示会の諸経費のことや打ち出す広告をどのようなものにしていくか、という準備の相談するために後ろを追い、同時に、石川は今後展示される絵画や美術品を手配するために。
展示会について前向きな石川と紺野館長からしてみたら、なにやらあまり気乗りしない様子の泉田がいささか気がかりではあるが、すでに賽(さい)は投げられた。
なるべく低予算でかつ、矢萩美術館と過去に取引などで繋がりのある協力的な個人のうちヤスダタカマサ以外にも当たることがおよそ望ましいと判断され、過去の協力者の記録保管庫の資料を漁り、選定する。
展示会開催について、無関心に近い態度をとる泉田にたいして、石川は紺野館長から選定を任され、選んだ人物は三名。順にヤスダタカマサ、アンザイアミ、ヤギカナエ。
それぞれ、美術品収集家、画家、画廊のオーナー、と三人が三人共に絵画や美術品といった芸術にたいして、関心があり、矢萩美術館と何度か取引だったり、接点がある個人だ。
ヤスダタカマサやアンザイアミの持つ絵画や美術品の共通点を見出だして、展示会に並べるにふさわしい作品がいくつあるかを調べる必要がある。
石川はここに来て、ようやく頭を悩ませる。
トントン拍子に話が進んできただけに、何人かのコレクターの懐具合や身辺を調べるような探偵のようなことを他の人にも同様にしなければならないと痛感し、めんどくささから、さじを投げたくなった。
ため息をつきながらも継続してコレクターたちに連絡などをまめにいれる石川。
そんな石川の少し落胆した様子を遠目で見ていた館長は、優しく肩を叩きながら、“働いてるのは、お前独りじゃないんだぞ”と声をかける。
石川の目頭は少し熱くなったためか、目の周りがほんのり紅く色づき、もう一度頑張ろう、という気持ちに傾いた。
* (三人のコレクター)
件(くだん)の三人のコレクターの家に所蔵される絵画群にどんなものがあるのか、その傾向を子細に調査すべく矢萩美術館は石川を発起人であり、かつまだ入社してあまり年数の経ってない新人であることから、石川を駆り出した。
しかしながら、石川以外の人間に出張させるほど人員はおろか、時間的にもあまり猶予はない。
そのため、突貫工事のような弾丸スケジュールを組み、三人の家まで迅速に調査する。
順当に調べるならヤスダタカマサ、アンザイアミ、ヤギカナエといったところか。
三人の家を順番に訪問し、保管されている作品名や作者、制作された時代等を写真や文章として記録し、あるいは調べる。
三人に共通して所有しているものには、光や水といった自然現象や衣類のシワ、インテリアの質感など、細部に至るまでリアルに再現することに心血を注がれた作風の絵画が多くみられ、三人共に「自然美」や「リアルさ」の伝わる絵画が好きだと伝わった。
また、ラファエロやデューラー、ファンデルフース等の西洋画家の名前に、日本人の瀧直人等の作品も混じっている。
では、肝心の展示する絵画の傾向をどうするか、その答えをひねり出すには少々年代や作者にばらつきがあり、考えあぐねた。
しかし、三人の所有している絵画の傾向として、すでに感じ取った特徴の「自然美」や「リアルさ」から十五、六世紀の初期フランドル画やルネサンス絵画に多くみられる表現に合致していること、またその頃に活躍していた画家の絵画が散見されることを理由に自然美・写実的な画風をテーマにした初期フランドル・ルネサンス絵画展の立案を構想すると共に、三人各々の意見も詰め寄らせて展示物を決定すれば良さそうだと写真やメモを見ながら考える。
さらに、矢萩美術館の首領(ドン)である紺野館長の意向も大事にしなければならない。
「ああ、考えることが山積みだ」
ぼやきが呼吸をするように石川の口から出る。
何はともあれ、石川のやりたいことを成功させるためにはあと少し、あと少しなのだ。
「館長。三人のコレクターの持つ絵画の共通点はおおむね整理できました。世界的に名のあるラファエロやデューラーといった西洋画家の作品が、ちらほら見え隠れしておりますが‥‥」
「石川君。最初にあなたが提案した意見を思い出してみなさい。大筋から外れた的はずれな発言してないかね?」
「は、はぁ……。確かに……」
石川は過去に発言した意見や討論した内容を振り替える。
有名な絵画を鑑賞する機会を来館者に与えるのは大事なことだが、それをわざわざ弱小美術館でやる必要はない。むしろ、そんなことはルーブル美術館のような有名で大きな美術館が、それを大量の資金と人員を用意してやるような内容だ。現実には則していないし、弱小美術館には弱小美術館なりのよさがある。矢萩美術館は、小規模な美術館であるために、展示できる作品の数に限度がある。さらに“無名”の、かつ“個人”といった名前だけが先にいくような作品以外の作品に着目して展示するのが、“我々矢萩美術館の在り方であり、目指している姿”であるべきだ。
そこまでの長い思考を巡らせると、ふぅーっと息を調えた。
「仮に、我々矢萩美術館が着目すべき展示物が“個人”であるとするならばです。当然のように世界的な画家の世界的な名画みたいな、“肩書き”のある作品は取り扱えません。もっと踏み込んだ話をするなら、三人のコレクターが持っている絵画のなかで、最も日の目を浴びているような肩書きのない絵画に限定すべきです。つまり、絵画を有名という色眼鏡で見られやすい世界的な画家やその作品を避けるべきだと言えますし、世間体みたいな好奇の目にさらされた絵画はおよそ避けるべきです。また、世界的なという肩書きを除外したとき、そこにしれっと紛れている瀧直人という画家が描いた絵画はまだ国外まで充分に認知されていません。ですから、うちで展示するのは妥当と言えるのではないでしょうか」
「見事な論客力だな、石川君。瀧直人だな、その画家の作品の展示を中心に展示会を開こう! よく頑張った、そのように残りの手配をこちらで済ませておく。今のうちに休憩しておいてくれ。さぁ、これからより一層忙しくなりそうだ」
紺野館長は年甲斐もなく声を弾ませて返事をしながら、仕事に戻った。
*
長年慣れ親しんできたのであろう紺野館長による仕事は早く、新人の石川には真似できない早さで三人のコレクターたちと展示会の展示方法や展示作品のすり合わせを行った。
三人のコレクターのうちの一人安田孝昌が“瀧直人”という画家の作品を一番多く所有していた。
瀧直人は風景画から人物画、キリスト教絵画など、様々なジャンルの作品を遺しており、そのうちの風景画とキリスト教絵画数点を中心に展示することが決まった。
しかし、コレクターたちが所有していた瀧作品数が少ないために。展示方法として、中央にはまだ世界的ではない瀧作品を。隅の方にはラファエロという世界的に有名なルネサンス期の画家の作品などを飾る。世界的に有名という偏見で絵画を鑑賞し、色眼鏡を通して語る全ての人間に対する皮肉を込めた形式の展示方法だ。
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