25 / 52
第二章 Urban Myth “Miwakare Bridge”.
8.
しおりを挟む
髪を揺らし、華麗に。ゆっくりと時間の流れる街を飛び回るのは――魔法少女、八坂星羅。
そんな彼女を後ろから追いかけるのは、紅く充血し、触手を後ろになびかせながら突進する眼球――悲しみの具現化、ネガエネミー。
どちらも譲らぬ、一進一退の攻防が繰り広げられている。
「……は、速い……っ! わたしじゃ、目で追いつくのだって大変なのに、あの速さに追いつけるなんて……」
純粋な速さではネガエネミーの方が上だが……八坂さんは、突進しかできないネガエネミーと違って、細かい動きだって出来る。まるでネガエネミーが、犬がオモチャで遊んでいるかのように見えてしまう。
わたしは両者の動きを、離れた所から見ていたが……。まだまだ一週間、魔法少女になりたてであるわたしには決して届かないであろう領域の戦いだ。
しかし、あの速さの中だ。当然、八坂さんも逃げ続けることで精一杯だろう。彼女の託された通り――トドメはわたしが刺さなければならない。
八坂さんが飛び立つ前。彼女はわたしに向けてこう告げた。
「私がネガエネミーを朝野さんの元までおびき寄せるから、そこで待っていてちょうだい。とにかく、タイミングを見計らって、その一撃に――貴方の全てを込めて」
――あの速さで逃げ続けながら、あのネガエネミーをこちらまで誘導することさえ、八坂さんならば出来るという。
彼女に言われた通り、わたしはここで下手に動かずに、ネガエネミーを引きつけてやってくるその瞬間を待つことにした。
***
桃色の髪を伸ばした魔法少女と、それを追いかけるグロテスクな見た目の眼球が、ゆっくりと時間の流れるこの街を縦横無尽に駆け回る。
「やっぱり速いわね……。トドメは朝野さんに任せてしまったけれど、大丈夫かしら――」
そこまで口に出してから、いや、と首を横に振る。
「私が信じなくてどうするのよ。……でも、あの時――私が信じ、頼ったせいで――いや、この事はもう、先輩にも考えすぎだって……」
一度思い出し、考えれば考えるほどに――あの時の記憶が蘇ってくる。
あの時。先輩――蓮見遥が魔法少女の死を迎えた、ネガエネミーとの戦いで。
私なんかよりも圧倒的に強く、頼れる先輩だった彼女に、私は頼りすぎ……任せすぎてしまった。
その結果、都市伝説を倒す事はできたが……それと引き換えに、蓮見先輩は――魔法少女の死を迎えてしまった。
『もしかして、自分のせいでウチが――って思ってるんなら、それは違うんよ、星羅ちゃん。
星羅ちゃんがウチの事を信じてくれたからこそ、あの都市伝説を倒せた。確かにウチは死んだかもしれない。でも、気にする事はないんよ? いずれ魔法少女は死ぬ物……たまたま、ウチと星羅ちゃんで世代交代の時期だった。それだけの事なんよ。
それに、魔法少女のウチが死んでも、もうお別れ……なんて事はないんやし――』
先輩はそう言ってくれたが――あの時、私がもっと頑張っていれば。先輩に、任せきりになんてしていなければ。
もしかして、今回も――朝野こむぎにトドメの一撃を任せてしまったせいで、彼女が傷つくなんて事があったら――
「違う、私は――今はとにかく、朝野さんを信じないと。このバトンを繋げないと――倒せる物も、倒せなくなっちゃうわね」
私は、脳裏にへばりついてくる様々な考えをぶんぶんと振り払い、今はとにかく集中する。
そして、果たして――これが見えているかは分からないが――一軒家の屋根の上、ネガエネミーを引きつけてくると約束した場所で待っている朝野こむぎに向けて手を振り、合図を送る。
「……後は、朝野さんに全てを任せるだけ――」
そして、空を大回りした後、真っ直ぐに。――ゴオオオオオオォォォッ!! と風を切りながら、彼女の待つすぐ横を通り抜けた。
そして、その後を追う眼球が、屋根へと立つ朝野こむぎの目の前を通過した――その時。
「はああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
彼女の叫びと共に――ドスッッ!!
後ろを振り返ると、硬いフランスパンで叩き落とされ、地面へと墜落した眼球の姿があった。そして、思いっきりコンクリートの地面にヒビが入るほどに叩きつけられた眼球はその場で――砕け、爆散した。
「はあ……緊張したぁ。よかったあ……っ」
「朝野さん……やったのね……!」
どうやら、私の考えすぎだったようだ。もし、失敗して――標的が彼女に向かってしまったら、また彼女が――そんな心配は不要だったらしい。
破裂したネガエネミーから――青く輝くコアが露わになって、私はホッと胸を撫で下ろす。
そんな彼女を後ろから追いかけるのは、紅く充血し、触手を後ろになびかせながら突進する眼球――悲しみの具現化、ネガエネミー。
どちらも譲らぬ、一進一退の攻防が繰り広げられている。
「……は、速い……っ! わたしじゃ、目で追いつくのだって大変なのに、あの速さに追いつけるなんて……」
純粋な速さではネガエネミーの方が上だが……八坂さんは、突進しかできないネガエネミーと違って、細かい動きだって出来る。まるでネガエネミーが、犬がオモチャで遊んでいるかのように見えてしまう。
わたしは両者の動きを、離れた所から見ていたが……。まだまだ一週間、魔法少女になりたてであるわたしには決して届かないであろう領域の戦いだ。
しかし、あの速さの中だ。当然、八坂さんも逃げ続けることで精一杯だろう。彼女の託された通り――トドメはわたしが刺さなければならない。
八坂さんが飛び立つ前。彼女はわたしに向けてこう告げた。
「私がネガエネミーを朝野さんの元までおびき寄せるから、そこで待っていてちょうだい。とにかく、タイミングを見計らって、その一撃に――貴方の全てを込めて」
――あの速さで逃げ続けながら、あのネガエネミーをこちらまで誘導することさえ、八坂さんならば出来るという。
彼女に言われた通り、わたしはここで下手に動かずに、ネガエネミーを引きつけてやってくるその瞬間を待つことにした。
***
桃色の髪を伸ばした魔法少女と、それを追いかけるグロテスクな見た目の眼球が、ゆっくりと時間の流れるこの街を縦横無尽に駆け回る。
「やっぱり速いわね……。トドメは朝野さんに任せてしまったけれど、大丈夫かしら――」
そこまで口に出してから、いや、と首を横に振る。
「私が信じなくてどうするのよ。……でも、あの時――私が信じ、頼ったせいで――いや、この事はもう、先輩にも考えすぎだって……」
一度思い出し、考えれば考えるほどに――あの時の記憶が蘇ってくる。
あの時。先輩――蓮見遥が魔法少女の死を迎えた、ネガエネミーとの戦いで。
私なんかよりも圧倒的に強く、頼れる先輩だった彼女に、私は頼りすぎ……任せすぎてしまった。
その結果、都市伝説を倒す事はできたが……それと引き換えに、蓮見先輩は――魔法少女の死を迎えてしまった。
『もしかして、自分のせいでウチが――って思ってるんなら、それは違うんよ、星羅ちゃん。
星羅ちゃんがウチの事を信じてくれたからこそ、あの都市伝説を倒せた。確かにウチは死んだかもしれない。でも、気にする事はないんよ? いずれ魔法少女は死ぬ物……たまたま、ウチと星羅ちゃんで世代交代の時期だった。それだけの事なんよ。
それに、魔法少女のウチが死んでも、もうお別れ……なんて事はないんやし――』
先輩はそう言ってくれたが――あの時、私がもっと頑張っていれば。先輩に、任せきりになんてしていなければ。
もしかして、今回も――朝野こむぎにトドメの一撃を任せてしまったせいで、彼女が傷つくなんて事があったら――
「違う、私は――今はとにかく、朝野さんを信じないと。このバトンを繋げないと――倒せる物も、倒せなくなっちゃうわね」
私は、脳裏にへばりついてくる様々な考えをぶんぶんと振り払い、今はとにかく集中する。
そして、果たして――これが見えているかは分からないが――一軒家の屋根の上、ネガエネミーを引きつけてくると約束した場所で待っている朝野こむぎに向けて手を振り、合図を送る。
「……後は、朝野さんに全てを任せるだけ――」
そして、空を大回りした後、真っ直ぐに。――ゴオオオオオオォォォッ!! と風を切りながら、彼女の待つすぐ横を通り抜けた。
そして、その後を追う眼球が、屋根へと立つ朝野こむぎの目の前を通過した――その時。
「はああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
彼女の叫びと共に――ドスッッ!!
後ろを振り返ると、硬いフランスパンで叩き落とされ、地面へと墜落した眼球の姿があった。そして、思いっきりコンクリートの地面にヒビが入るほどに叩きつけられた眼球はその場で――砕け、爆散した。
「はあ……緊張したぁ。よかったあ……っ」
「朝野さん……やったのね……!」
どうやら、私の考えすぎだったようだ。もし、失敗して――標的が彼女に向かってしまったら、また彼女が――そんな心配は不要だったらしい。
破裂したネガエネミーから――青く輝くコアが露わになって、私はホッと胸を撫で下ろす。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました
東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。
王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。
だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。
行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。
冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。
無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――!
王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。
これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる