魔法少女・朝野こむぎはフランスパンで殴る。【完結】

束音ツムギ

文字の大きさ
30 / 52
第三章 Fifty-Fifty. Despair of Whale.

1.

しおりを挟む
 ――こむぎ、起きてっ!

 日付も変わり、外も明るくなってきた頃……深く眠りについていたわたしを、揺り起こそうとするその声に――わたしは重いまぶたを開け、ゆっくりと起き上がる。

 まだ鮮明ではない意識の中、続けて耳に入ってきたのは――

『――巨大なネガエネミーの反応だ! ……命岐みわかれ橋の都市伝説がネガエネミーになったんだっ!』

 サポポンの放ったその言葉。ここ最近ずっと、気にかけていた敵。それがついに現れたと聞くと、わたしの眠気は一瞬で吹き飛び――

「……行かないとっ!」

 ベッドから急いで飛び起きたわたしは――ガチャンッ!! と、部屋の窓を大きく開け放ち、わたしの心の奥底に眠る魔法名をその口から紡ぎだす。

 ――【BREADブレッド】――ッ!!

 そして、開いた窓に脚を掛け、まだ薄暗い外へと向かい、小麦色のショートヘアをなびかせながら――ジャムパンの見た目をした妖精、サポポンと共に飛び立っていく。

 倒すべき敵である『ネガエネミー』……それを倒し、人々をその魔の手から守るために――


 ***

 
 昨夜、八坂星羅やさか せいらから送られてきた『集合場所』へと到着したわたしは、魔法少女の姿で降り立った。……しかし、まだそこには誰もいない。

 ここへとやってくるはずのもう一人の魔法少女――彼女を待つにしても、今の魔法少女の状態では時間の流れがゆっくりとなってしまうので、いつまで経ってもやってこないはず。なのでわたしは、一度変身を解くことにした。

 変身を解いたわたしは、自分の姿を見てふと、ある事に気がつく。

「……あっ、いけない……急ぎすぎてパジャマのままだった――」

 着ていた服だなんてお構いなしに、窓から真っ直ぐに飛び出してきたわたしは、すっかり寝る時に着ていたピンク色のパジャマのままだったのだった。

 まあ、魔法少女に変身すれば関係ないし、大丈夫だろう。……そんな事を気にして、ふとつぶやいた――その瞬間。がしっ!! と、

 そして、変身を解いた状態であるはずのわたしが、何故か――ゆっくりと流れる時間の中に巻き込まれていることに気がついた。驚き、振り向いてその手を握る方を見ると――

「――や、八坂さんっ!」

 握られる手、その先を見ると……桃色の髪を伸ばし、ピンクの和服のような衣装を身に纏った――ここで集合する予定の魔法少女――八坂星羅と、スライムのような見た目のサポポンがそこにいた。

 変身を解いてから、本当に直後だったので、つい驚いてしまったが……ゆっくりとした時間の流れと普通の時間の流れ、その両方に、同時に生きている魔法少女らにとっては普通の事なのだろうか。

 まだ魔法少女になってから一週間のわたしは時間の感覚がおかしくもなるし、ごちゃごちゃになるしで……まだまだ慣れることはないだろうが……。

「朝野さん、おまたせ。……あっ、これは……魔法少女だけじゃなくて、その魔法少女が触れている相手も、同じ時間の流れに巻き込むことが出来るから……。つまり、これは時短よ、時短!」

 互いに手を繋ぎ、少し恥ずかしさもあるものの――魔法少女である彼女が触れているおかげで、わたしも彼女と同じ時間の流れへと入ることができているらしい。魔法少女同士が合流する時は、毎回こうしているのだろうか?

 わたしは、彼女に手を繋がれたまま、再び魔法名をつぶやいて魔法少女へと変身すると――

「準備はバッチリのようね。それじゃあ、行きましょうか。――命岐橋の元へ」

「……はいっ!」

 この街に現れた、甚大な被害を与えかねないネガエネミー……『命岐橋』の都市伝説。

 その強大な敵と戦うため、わたしたち二人の魔法少女は――わたしたち二人が初めて会った場所でもあり、その都市伝説の発祥の地であるその場所へと向かう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...