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第三章 Fifty-Fifty. Despair of Whale.
5.
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「朝野さんが粘ってくれたおかげで、こちらも準備は万全ね。――問題は、これが通用するのかって所だけど……」
朝野こむぎのサポートをしながらも、私は詠唱をし続け、数百ものガラス瓶を生み出していた。『液体』であれば自由に変えることが出来る、その中身も様々だ。相手の弱点が分からない以上、さまざまな攻撃をしらみ潰しに試していくしかないだろう。
そして、さっき。彼女が放った、頭上から落とされた巨大なコッペパンに対する、巨大クジラの動き。それに私は注目していた。
……あのネガエネミーは、素早く動けない。……つまり、自力で攻撃を避けることができない。よほど遅い攻撃ではない限り、相手は受け止めるしか選択肢がないのだ。そしてあの時、頭上に降ったその攻撃を丸ごと飲み込んだ。――ならば、そこに勝機があると……そう睨んでいた。
「……どうやらそれも問題ないみたいね。貴方は大きさだけで――実際は大した事ないのかもしれないわ」
そう呟き、クジラと正面に向かい合う。そして、塩酸の入ったガラス瓶、燃料の詰まった火炎瓶、毒薬が仕込まれたガラス瓶をまずはそれぞれ十本ほど、砲撃のように、真っ直ぐに放つ。
そして、私の思惑通り――目の前のクジラは、その口を大きく開け――投げられたガラス瓶を、全て飲み込もうとする。
「……狙い通りね。これも、朝野さんが上手く行動パターンを引き出してくれたお陰だわ――」
この攻撃だけで仕留められるとは思わないが、これだけの量の毒だったり、体内を傷つけられ、炎が燃え盛れば――少なからず、ダメージは与えられるはず。
こういった敵は、身体の内側が弱点であると相場が決まっている訳だ。
あの大きさに、一度は絶望を植え付けられたが……それでも、勝利を確信した私は、にやりと。私は相対するクジラに笑みを浮かべる。
「都市伝説と聞いてかなり身構えていたけれど……案外、あっさりと倒せそう――」
――余裕に満ちていたその声が。
『――グオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!?!?』
――突然、耳を裂くような激しい咆哮によって――全て、真っ黒へと掻き消される。
反射的に耳を塞ぎ、後ろで待機している朝野さんもちゃんと耳を塞いでいることを見て確認し、無事を確認してから再び正面を見据えると――そこには、湧きでた希望をぐしゃりと踏み躙られるような――そんな光景が広がっていた。
――ガシャガシャガシャバリバリバリバリッ!!
飲み込もうとしていたはずのガラス瓶が、今の咆哮によって全て、口に入る直前で粉々に砕かれていたのだった。
さらに、それだけではない。後ろに残していた、残りのガラス瓶も――バリバリバリバリバリバリッ!! 咆哮によって次々と砕け、中身が溢れ落ちていく。
「そ、そんな……ッ! ただ吠えただけで――私の全てが封じられるなんて……」
激しい咆哮は、文字通りわたしの全てを――一瞬にして粉砕されてしまう。立ち向かおうと思える勇気も、その気力さえも――
「……八坂さんっ! 一旦下がりましょう!」
「……そうね……もう、どうしようもないわよ、こんなの――」
ここまで、八ヶ月――魔法少女として戦ってきて。その今までの努力も、一瞬で水の泡にされたような、そんな気分に襲われる。いくら都市伝説だと言えど、ここまで一方的に力の差を見せつけられたのは初めてだった。
倒せない。倒せない。倒せない。戦えない。……もう、あのネガエネミーは――私たちの実力では、どうしようもないんだと。そんな現実を、思いっきり叩きつけられたような――そんな気がした。
朝野こむぎのサポートをしながらも、私は詠唱をし続け、数百ものガラス瓶を生み出していた。『液体』であれば自由に変えることが出来る、その中身も様々だ。相手の弱点が分からない以上、さまざまな攻撃をしらみ潰しに試していくしかないだろう。
そして、さっき。彼女が放った、頭上から落とされた巨大なコッペパンに対する、巨大クジラの動き。それに私は注目していた。
……あのネガエネミーは、素早く動けない。……つまり、自力で攻撃を避けることができない。よほど遅い攻撃ではない限り、相手は受け止めるしか選択肢がないのだ。そしてあの時、頭上に降ったその攻撃を丸ごと飲み込んだ。――ならば、そこに勝機があると……そう睨んでいた。
「……どうやらそれも問題ないみたいね。貴方は大きさだけで――実際は大した事ないのかもしれないわ」
そう呟き、クジラと正面に向かい合う。そして、塩酸の入ったガラス瓶、燃料の詰まった火炎瓶、毒薬が仕込まれたガラス瓶をまずはそれぞれ十本ほど、砲撃のように、真っ直ぐに放つ。
そして、私の思惑通り――目の前のクジラは、その口を大きく開け――投げられたガラス瓶を、全て飲み込もうとする。
「……狙い通りね。これも、朝野さんが上手く行動パターンを引き出してくれたお陰だわ――」
この攻撃だけで仕留められるとは思わないが、これだけの量の毒だったり、体内を傷つけられ、炎が燃え盛れば――少なからず、ダメージは与えられるはず。
こういった敵は、身体の内側が弱点であると相場が決まっている訳だ。
あの大きさに、一度は絶望を植え付けられたが……それでも、勝利を確信した私は、にやりと。私は相対するクジラに笑みを浮かべる。
「都市伝説と聞いてかなり身構えていたけれど……案外、あっさりと倒せそう――」
――余裕に満ちていたその声が。
『――グオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!?!?』
――突然、耳を裂くような激しい咆哮によって――全て、真っ黒へと掻き消される。
反射的に耳を塞ぎ、後ろで待機している朝野さんもちゃんと耳を塞いでいることを見て確認し、無事を確認してから再び正面を見据えると――そこには、湧きでた希望をぐしゃりと踏み躙られるような――そんな光景が広がっていた。
――ガシャガシャガシャバリバリバリバリッ!!
飲み込もうとしていたはずのガラス瓶が、今の咆哮によって全て、口に入る直前で粉々に砕かれていたのだった。
さらに、それだけではない。後ろに残していた、残りのガラス瓶も――バリバリバリバリバリバリッ!! 咆哮によって次々と砕け、中身が溢れ落ちていく。
「そ、そんな……ッ! ただ吠えただけで――私の全てが封じられるなんて……」
激しい咆哮は、文字通りわたしの全てを――一瞬にして粉砕されてしまう。立ち向かおうと思える勇気も、その気力さえも――
「……八坂さんっ! 一旦下がりましょう!」
「……そうね……もう、どうしようもないわよ、こんなの――」
ここまで、八ヶ月――魔法少女として戦ってきて。その今までの努力も、一瞬で水の泡にされたような、そんな気分に襲われる。いくら都市伝説だと言えど、ここまで一方的に力の差を見せつけられたのは初めてだった。
倒せない。倒せない。倒せない。戦えない。……もう、あのネガエネミーは――私たちの実力では、どうしようもないんだと。そんな現実を、思いっきり叩きつけられたような――そんな気がした。
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