魔法少女・朝野こむぎはフランスパンで殴る。【完結】

束音ツムギ

文字の大きさ
34 / 52
第三章 Fifty-Fifty. Despair of Whale.

5.

しおりを挟む
「朝野さんが粘ってくれたおかげで、こちらも準備は万全ね。――問題は、これが通用するのかって所だけど……」

 朝野こむぎのサポートをしながらも、私は詠唱をし続け、数百ものガラス瓶を生み出していた。『液体』であれば自由に変えることが出来る、その中身も様々だ。相手の弱点が分からない以上、さまざまな攻撃をしらみ潰しに試していくしかないだろう。

 そして、さっき。彼女が放った、頭上から落とされた巨大なコッペパンに対する、巨大クジラの動き。それに私は注目していた。

 ……あのネガエネミーは、素早く動けない。……つまり、自力で攻撃を避けることができない。よほど遅い攻撃ではない限り、相手は受け止めるしか選択肢がないのだ。そしてあの時、頭上に降ったその攻撃を丸ごと飲み込んだ。――ならば、そこに勝機があると……そう睨んでいた。

「……どうやらそれも問題ないみたいね。貴方は大きさだけで――実際は大した事ないのかもしれないわ」

 そう呟き、クジラと正面に向かい合う。そして、塩酸の入ったガラス瓶、燃料の詰まった火炎瓶、毒薬が仕込まれたガラス瓶をまずはそれぞれ十本ほど、砲撃のように、真っ直ぐに放つ。

 そして、私の思惑通り――目の前のクジラは、その口を大きく開け――投げられたガラス瓶を、全て飲み込もうとする。

「……狙い通りね。これも、朝野さんが上手く行動パターンを引き出してくれたお陰だわ――」

 この攻撃だけで仕留められるとは思わないが、これだけの量の毒だったり、体内を傷つけられ、炎が燃え盛れば――少なからず、ダメージは与えられるはず。

 こういった敵は、身体の内側が弱点であると相場が決まっている訳だ。

 あの大きさに、一度は絶望を植え付けられたが……それでも、勝利を確信した私は、にやりと。私は相対するクジラに笑みを浮かべる。

「都市伝説と聞いてかなり身構えていたけれど……案外、あっさりと倒せそう――」

 ――余裕に満ちていたその声が。

『――グオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!?!?』

 ――突然、耳を裂くような激しい咆哮によって――全て、真っ黒へと掻き消される。

 反射的に耳を塞ぎ、後ろで待機している朝野さんもちゃんと耳を塞いでいることを見て確認し、無事を確認してから再び正面を見据えると――そこには、湧きでた希望をぐしゃりと踏み躙られるような――そんな光景が広がっていた。

 ――ガシャガシャガシャバリバリバリバリッ!!

 飲み込もうとしていたはずのガラス瓶が、今の咆哮によって全て、口に入る直前で粉々に砕かれていたのだった。

 さらに、それだけではない。後ろに残していた、残りのガラス瓶も――バリバリバリバリバリバリッ!! 咆哮によって次々と砕け、中身が溢れ落ちていく。

「そ、そんな……ッ! ただ吠えただけで――私の全てが封じられるなんて……」

 激しい咆哮は、文字通りわたしのを――一瞬にして粉砕されてしまう。立ち向かおうと思える勇気も、その気力さえも――

「……八坂さんっ! 一旦下がりましょう!」

「……そうね……もう、どうしようもないわよ、こんなの――」

 ここまで、八ヶ月――魔法少女として戦ってきて。その今までの努力も、一瞬で水の泡にされたような、そんな気分に襲われる。いくら都市伝説だと言えど、ここまで一方的に力の差を見せつけられたのは初めてだった。

 倒せない。倒せない。倒せない。戦えない。……もう、あのネガエネミーは――私たちの実力では、どうしようもないんだと。そんな現実を、思いっきり叩きつけられたような――そんな気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...