輪廻魔術 ~君が死なない方程式~

モト

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ストーカー編

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「カイルが急に出発日を一日遅らせるって言うんだもんな」





 弓使いのアンディが笑いながらカイル君に肘打ちする。
 カイル君、他3人は馬車で街を出発し王都に向かっていた。街を出て一日が経過していた。
 王都に着くまでは後、一日以上かかるだろう。
 アンディが言うように三人が出発の約束をしていたのは、一昨日であったが出発したのは昨日だった。


 出発が遅れたのは、僕のせいだった。

 僕はカイル君の結界を破る為に魔力を使い果たした。魔力切れにより泣きながら倒れてしまった。カイル君に献身させてしまった上、出発日を遅らせたのだ。

「あぁ。悪い。私情だ。先に向かってくれてもよかったんだぞ」

「ちょっと! アンディ!! カイルだって都合があるわよ!! ね?」

 うふん、とフルラがカイル君の腕にデカい胸を押し付ける。どうやら、このフルラという女は、男ならおっぱいが大好きだと思いこんでいるようだ。

「フルラ、呪われたくなければやめておけ」

「?」

 カイル君は、フルラの胸が押し付けられた腕を上にあげた。それを見ていたリチャードが「あぁ」と頷いた。その二人の様子をみてアンディとフルラは首を傾げた。


 その時、前方を走っていた馬車が止まった。

「何だ?」

 異変に気が付いたカイル君は馬車から降り、前方の馬車まで駆ける。
 そこには、前方の馬車から金品を持ち去ろうとする山賊の姿があった。
 ざっとみて山賊の数30人ほどか。
 このあたりの街道は山々に覆われている。逃げ道を防ぎやすく、山賊が出没しやすい。



「ずっと馬車に乗っていたから運動にはいいわよね!」

 山賊をみたフルラが不敵に笑う。アンディ、リチャードも構えをとった。

 また、山賊の方も剣をむけ、カイル君達に向かってきた。
 身の程をわきまえない奴らだ。

 たかが盗賊風情が、カイル君に敵うわけがない。
 カイル君は剣をぬかず体術で捻り上げる。アンディは弓で、フルラは精霊を呼び出して応戦した。

 あっという間に仲間の山賊が倒されていく。その様子に焦ったリーダー格が馬車に乗っていた人を人質に取った。


 無駄なことを。きっと、カイル君は人質を助けられるだろうけれど、ずっと透明化していた僕の方が、面倒なく倒せるだろう。


 僕は透明化のまま、山賊に近づいた。この山賊、僕に全く気が付いていない。山賊の身体に触れ、体内へ衝撃を与える。この魔術は、以前地面から壁を生成した術と同じだ。

 衝撃を与えられた山賊は何が起きたのかも分からないだろう。そのまま意識を飛ばし倒れた。



「え? 何?」

 急に倒れた山賊を見て、フルラが驚いた声を上げた。

 その時、ヒュンヒュンと矢が上から降ってきた。
 高い山の位置から残りの山賊が弓を構えてこちらに矢を放ってきている。

 しかし、その矢はこちらへ届くことはない。

「な、な、な、何何何~!? さっきから気持ち悪いんですけどぉ!!」

「なんだぁ!? 結界か? カイルか?」


 カイル君は首を横に振った。

 結界を張ったのは僕だ。カイル君じゃない。
 アンディがチャンスだとばかりに弓を構えて応戦する。中々の的中率。あと、驚きっぱなしで呆けていたフルラも精霊を出して攻撃をする。


 山賊全員を仕留める事に時間はかからなかった。アンディとフルラも実力はそこそこだが悪くはない。
 リチャードがすかさず山賊を縄で一つに締め上げ、馬車にいた人の安否を確認する。

「なんだったのぉ? 攻撃していない山賊が急に倒れたり、矢が飛んでこなかったり!」

「リン」

 カイル君が僕の方を見て僕を呼ぶ。
 やはり、僕の透明化はカイル君には通じていないようだ。

「なんだい」



 僕は透明化を解いて姿を出した。

 その僕の姿を見て、フルラがぎゃっと悲鳴を上げた。



「何っ!そいつ!? 生霊!?」

 フルラと違い、アンディは面白そうに僕を見た。

「あれ? カイルってば、式神使いにでもなったのか?」

 どうして、僕を人外にさせようとするんだ。式神は僕が使う術式ではないが、一般的に広く使われている。

 失礼な奴らめ。呪ってやろうか。


「いや。人間で俺のストーカーだ」

「ストーカー!?」



「カイル君……その紹介はどうかと思うよ?」


 生霊に式神にストーカー……せめて守護神とかにしてもらいたい。

 しかし、カイル君はその後も僕の事を3人にストーカーとして紹介し始めた。その様子をニヤリとリチャードが笑った。


「仲直りしたのか、情が移ったか」

「うるさいぞ」


 リチャードには先日、僕がカイル君に怒られたことを見られている。あれはケンカでもなければ仲直りでもない。
 僕が、泣きついてカイル君にお願いしたのだ。カイル君が本気になれば僕はカイル君を追跡できない事を知った。


「ストーカーだなんて気持ち悪いわね。ぞっとするわ」


 フルラにとって、僕は拒否反応レベルなのだろう。僕も彼女に興味がないので別に構わない。

「コイツの事は俺が許可している。フルラが何か言う必要はない。リン、来い」


 先日から、カイル君は僕の事を名前で呼ぶようになった。
 そのことに分不相応にもドキドキしてしまう。僕はカイル君に近づいた。

「そんな身体で魔術を使いすぎるな。この飴やるから舐めておけ」

 カイル君が僕の手を掴み、飴を渡してくれる。僕はこくんと頷くだけで精一杯になってしまう。カイル君が僕を呼んだ用事は飴を渡したかっただけのようだ。

 僕は言われた通り、飴を口に含み再び透明化になった。


「凄いモン飼っているなぁ。勝手に超結界張ってくれるし。俺もそういうの欲しいな」


 アンディが面白がって言っている。
 僕は、面白がられるのも気持ち悪がられるのも好きではない。

「やめておけ」


 そう言うとカイル君は助けた人と馬車の状態を確認した。どちらも大丈夫そうだ。
 助けた人は身なりがよい。父と娘なのだろうか。
 カイル君が娘に手を差し出し立ち上がらせると娘は頬を赤らめていた。


「あの、ありがとうございます」

 それを見てすかさずフルラがカイル君の腕に掴まった。


 王都へは一日以上かかる為、助けた村人の屋敷に好意で一泊させてもらう事になった。一部屋に寝具が人数分用意されている。
 娘はずっとカイル君の事を見ていた。


 カイル君に付きまとって約2ヶ月。カイル君にこうして好意を向けてきた人は数知れない。当たり前だけどカイル君はとてもモテるのだ。

 娘の父がカイル君に娘はどうだいと夜ワインを開けながら聞いていた。
 その様子を見て、僕は家から出た。少し歩けばのどかな丘がある。そこで夜空を見つめた。


 夜空はキラキラと輝く満天の星空であった。


「星の動きが変わらない」

 この娘はカイル君にはふさわしくなかったようだ。
 何も変わらない。変化が起きない。

 どんな接点であれ、運命が変わった時には星が動く。

「星が変わる時とは、一体どんな時なのだろう。」

 僕は透明化を解除した。夜風が涼しい。丘に座って気持ちいい夜風に目をつぶる。

「リン、こんな所で何をしている?」

 真後ろにカイル君が立っていた。

「……カイル君、君、気配を感じないよ? 驚くからやめておこうね?」

「それ、お前に言われたくないって」


 カイル君が僕の横に座った。


「あわっ! また、君はそうやって距離を間違えているんだから……っ!」

「お前なぁ。そんなんじゃまともに会話出来ないだろう!!」

 立ち上がって去ろうとする僕の腕を彼が掴んだ。腕を離さないので、僕は大人しく座った。

 か……会話?


「ほら」


 カイル君は僕の手に赤い果物を渡してくれる。3粒のイチゴだった。


「嫌いじゃなければ、食べろ。お前、全く食べてなかっただろう。ちゃんと食えって」

「……す、すまないね。先日から色々気にかけてもらってばかりで……。僕は何かとご飯を食べるのを忘れてしまうんだ

 いいからとでも言うようにカイル君がこちらを見て頷く。

 僕はもらったイチゴを少しずつ食べ始めた。

 酸っぱくて甘くて美味しい。

 横で、カイル君が、魔術……と呟いた。


「お前の魔術はどこか学校で習ったのか?」

「いや、僕は学校では学んでいないんだ。ずっと親代わりの師が教えてくれていてね」

 僕の魔術は師から全て受け継いだ。僕は師が語る魔術がとても好きだった。もう年で亡くなってしまったけれど、とても大事な人だった。

「そうか。お前の魔術は構成力が凄いな。俺は魔力だけの力技でそれなりの魔法を使えてきた。だが、結界一つにしてもお前のものは複雑な構成の上に成り立っている」

「ううん。いくら複雑に構成しても、カイル君のように圧倒的な力の前じゃ敵わないよ。ふふ。……でも、なら、こうして崩してやろうってどんどん夢中になるのだけどねぇ」



 僕の魔力は上の下だ。僕より強い魔力の人間はごまんといる。だからこそ、見たこともないような魔術式を構成して強い魔術を編み出すのだ。

 勉強をすればするほど、魔術は強くなる。努力すれば結果が出る術なのだ。



 イチゴを食べ終わった僕を見て、カイル君が頭を撫でた。

 ギュ―――……っと胸が痛くなる。


「うぅ。君は何かと距離感が分からない人だね!? 天然の人たらしではないかい!? フルラもそうだし、あの娘もそうだし」


 あぁ。僕は何を言っているんだ。こんな事、まるで……。

「なんだよ。ヤキモチ?」

 カイル君が面白そうに僕を見ている。

「―…うぅっ。参ったよ」


 真っ赤になってうつ伏せになった僕をまたカイル君はポンポンと頭を撫でる。

「そうやって、普通に会話しろよ。前みたいな告白でもいい」

「ぁああ―――……あぁっ!! ぼ、僕はぁぁ……。恥ずかしい。穴があったら入りたいよぉ」

 そう言うと、ははっとカイル君が隣で笑い始めた。そんなに笑われると顔から炎が出てしまうんじゃないだろうか。

 僕は地面に指で、丸を書いて不貞腐れる。カイル君は笑った後、真顔に戻った。



「以前さ、リチャードと西の街で異形を倒した時、やっぱりお前来ていただろう」

「……まさか」

「そうか?」

「うん。あの時、君が僕の身体を縄で縛っていただろう。君だって帰ってきて見ていただろう。


 実はあの時、僕は西の街へと向かった。移動魔術で先回りしてカイル君の援護をした。そして急いで帰って同じように縄を再現したのだ。

 バレてマズイ情報ではないが、僕は先日鬱陶しさからカイル君に結界を張られてしまった。嘘をついて後をつけたとバレてしまったら、もっと拒否されるのではないだろうか。



「話したくなったら教えてくれ」

「……」



 僕はカイル君を見た。
 雰囲気が柔らかい。


「お前は訳が分からないが、魔術も凄くて面白い奴だ」


 どこか僕を嫌悪していたその目が、いつの間にか優しい視線に変わっていた。

 僕はその目を見つめるのが恥ずかしくて怖くて視線を外す。カイル君も空を見上げた。



「キレイな星空だな」


 星は、何も変わらなかった。

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