輪廻魔術 ~君が死なない方程式~

モト

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ストーカー編

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 人間は予測する生き物だ。


 予測をすることで、今後の計画を立てたり、危険を察知することができる。
 帰り道が行き道よりわずかに短く感じる事は人間の脳がその帰路を予測しているからともいわれている。


「あー! また俺の負け」

「アンディは予測が下手ねぇ」

 馬車の荷車の中で4人がカードゲームをして遊んでいる。予測が下手なアンディはとてもゲームが弱いようだ。意外にもリチャードが一番に強い。呪いの夢から覚めることも早かった。危機察知に優れているのかもしれない。

 4人の声を聞きながら馬車から景色を眺める。
 この辺りはそれほど高くない山に囲まれている。緩やかな山を越えればすぐにまた緩やかな山となる。今は少し気候が寒くなってきて紅葉が美しい。

 この場所にもモンスターはいない。

 それは、僕にとっては憂鬱なことだった。
 モンスターは人間よりも本能的に危機察知することに長けている。 察知力の高いモンスターがどこにもいないことは『この国が危険』であると予測できるからだ。

 ドラゴンが巣を空ける事自体は珍しくない。だけど、他モンスターがいなくなるタイミングでドラゴンもいなくなる事は不可解だった。





 馬を休憩させるために、馬車が止まった。僕たちも荷車から降りて身体を伸ばす。
 次に馬車が動くまで各自軽食をとったり自由に行動する。

 カイル君が馬車から離れたため、僕は彼の気配を追った。この山は他の生き物も少ない為、多少離れていても彼の気配がよく分かる。

 暫くするとカイル君は戻ってきて、僕の腕を引いた。

「こっちへ」

「?」

 カイル君に連れて行かれた先には、木に赤い果物がなっていた。
 木から実をプチンとちぎり僕にくれる。

「アイツらに先に見つかるとお前の分がなくなるから」

 そう言いながらも、彼らの分を採っていく。

「ふふふ。特別扱いだなんて嬉しいねぇ」

 それを言うと、“キモイ”と言われると思ったけれど、カイル君からは何もツッコミがやってこない。
 カイル君をジッとみて、ツッコミ待ちをしているのに。ツッコまれない。

「……ふむ」


 ドラゴンの巣から、カイル君は僕に親しみを感じてくれているみたいだ。今までと違って態度が柔らかい。ドSなカイル君も悪くないのだけど。


 僕はもらった果実を皮ごと食べようとすると、カイル君に止められる。


「待て。皮は苦くて食べられないぞ」


 カイル君は果実の皮を器用に剥いて、僕の口に放り込んだ。果汁が口の中に広がり口から果汁が溢れてしまう。はっ……汚い。


「はは。一口が大きかったな」

 そう言って、カイル君の指が僕の口から出た果汁を拭ってくれる。

 は……、はれ?


「旨いか?」

 美味しいけれど、それ以上にカイル君のキラキラが眩しい。僕は言葉を失ってしまう。すると、また、果実を口に放り込まれる。


「もっと食べるか?」

「へ!? はいぃ」


 すると、ヨシヨシというように僕の口に果物を運んでくれる。ドキドキしすぎてまともな判断能力が欠如する。

 も……もしかして、ここは天国? カイル君は天使??


 ポキッと木の枝を踏んだ音で我に返る。


「はっ! 僕は何をっ!! カイル君! 君は、また距離感を間違えているよ!?」

 僕はカイル君から急いで離れる。

「お前のそれ、どういう意味だ?」

「え?」

「距離云々訳わからねぇ。」


 うん。うん。僕よ。息をはけ。カイル君は『仲間=親しくする』なんだ。きっとそうだ。カイル君はリチャードとも肩を組みよく食事をとっているではないか。

 “あーん”くらいはカイル君の仲間としての接し方なのだろう。彼は元々おせっかいやきだし。口調は悪いけど優しい人だ。ストーカーだと罵っていた時も、スープの作り方教えてくれたし……。

「何を考えている?」

「うん。……そういえば、カイル君にスープの作り方教えてもらったけど、一度も作っていないなぁっと思っていたんだ」

 折角教えてもらったのに、僕はズボラだな。

「別にいいぞ」

「?」


 何が別にいいのかカイル君に聞こうと思った時、地面が揺れた。

 地震か!?


「リンッ!!」

 カイル君が姿勢を低くしろと指示をする。僕は頷き、地面へと手をつく。

 地震…いや。

 地面で何かがうごめいている。

「カイル君!! 準備をしたまえ。何かがくる」

 すると、目の前の山がボコリとえぐれた。一瞬でも目を離していたなら突然山がなくなった風にみえるだろう。

「なんだ……?あれは」

 えぐれた部分から何かが出てきた。あれは……異形だ。
 異形のモンスターがえぐれた部分から続々と出てくる。三匹、四匹……

 長い毛の覆った形、目だらけの形、その種は様々である。奇妙な見た目に身の毛がよだつ。

「お前は、危ないから逃げていろっ!!」

 カイル君はそう言ってモンスターの方へ向かった。逃げていろとは一体誰に言っているのか。走るカイル君の腕を掴んで移動魔術をかける。

「普通に走ったのでは、間に合わないよ」
「!」

 フッっと二人で異形の目の前に移動する。カイル君は僕を見てニヤリと笑う。

「いい度胸じゃねぇか」

「ふふ」

 異形は一匹の強さはそれほどでもない。ただ、数が出てくると厄介だ。続々と出てくる異形。
 まずは、この異形が出てくる穴をふさがなくては。

「僕が穴を塞ぐから、援護を頼むよ!」

 そう言ってカイル君の方を見ず、異形が出てくる穴へ向かう。僕に向かって異形の手がどんどん向かってくるが、僕には当たらない。

 僕に当たる直前で異形の手はカイル君の剣がさばいているからだ。彼の実力、そして人を守るという彼の性。安心して僕は前に進める。

 異形が出てくる中、僕は地面に手を付いた。地面へと魔力を込めると、地面が盛りあがり穴を防ぐ。その地面を下から異形が壊そうとするが、さらに地面を硬化する。下から崩されないような分厚い地面を形成した。

 地面を閉じ切った後、地上にはまだ2匹異形が残っている。
 カイル君、この短時間の間に数匹を倒したのか。
 僕はカイル君の背にピタリと引っ付いた。

「援護は任してくれたまえ」

「あぁ」

 カイル君は剣で切り刻んでいく間、彼に攻撃が当たらないように彼自身に結界を張る。

 彼の超人的動きは、実践で一段速くなる。一匹倒した隙にもう一匹が逃げようとした。


「ふっ!!」

 僕は地面を盛り上げて逃げ道を塞ぐ。

「リンッ! 助かる!!」

 カイルくんは上段の構えから異型モンスターを切り刻んだ。

 ドサリと肉片が落ちる。

 簡単に退治出来たのはカイル君と僕だからだ。この場所に来たのが、最強同士でなければ被害も少なくはなかっただろう。

「平気かい?」

 カイル君の状態をみるとどこも異常はない。念の為身体に触れて確認する。魔力も体力も減っていない。
 顔を上げるとカイル君が僕を見ていて、ハッと手を離した。

「ッ! 馴れ馴れしく触れてしまってすまないっ!!」

「はは。いや、いいぜ。リン。お前凄いよ。こんなに誰かが頼りになると思った事ない」

「そうかい。僕は強いからね。頼りにしてくれて構わない」

 カイル君は興奮がまだ冷めないようなイキイキとした表情をしている。まるで子供みたいだな……。

「今はさ、お前に付きまとわれるの嫌じゃねぇよ。それが不思議だった。けど、鍛錬とか魔術とかさ、俺より凄いし楽しかったんだ。お前といるとワクワクする時があるんだよ」

 ピカーっとカイル君が眩いばかりの光で僕をみつめる。

 これは心底嬉しいという笑みだ。もしかして、この展開は僕のこと……。

「初めて同士が出来た!」

「…………」

 嬉しいが喜べない。

 同士……。彼の同士とはどういう意味だろう。
 戦い仲間? カイル君に使ってもらえるのは嬉しいけれど、僕は戦闘系ではない。むしろ引きこもって本を読んでいたいタイプなのだ。
 彼の鍛錬に付き合う事をルーティン化されたら困る。朝から身体を思いっきり動かしたくない。

 同士と言われても複雑である。

 反応に困っていると、カイル! リン! と僕達を呼ぶ声がする。カイル君が大丈夫であると声を上げる。

 僕はカイル君の後に位置する閉じた穴を見た。

「……」

「あの山で見た穴と同じだな」

 この同じ穴の形状が、ドラゴンの巣の山でもあった。あの穴と似ていた。
 地面の下は一体どうなっているのだろうか。
 以前、爆破からの空間歪みから異形が出てきたと報告を受けた。地面からも出てくるのか。


「さっき地震大きかったわよね!!」

「お前ら心配したぜ!」

 どうやら、リチャード達の位置からは高い樹木のせいで、山がえぐられた事がみえなかったのだろう。

 リチャード達の元へ戻ると、馬車が無事だったのでよかった。皆が馬車に乗りこんでいく。

 僕も馬車に乗ろうとした時、一羽の鳥が僕の元に飛んできた。青い小さな美しい鳥だ。マキタの魔力を感じる。マキタは僕との通信時には美しいモノを飛ばしてくる。

 今回もとてもキレイな子だと、美しい鳥の頭を撫でた。


「僕は、ここで一度離れるよ。また、カイル君の家に遊びに行くよ」



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