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愛欲編
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しおりを挟むそれは、いつも通りの日常だった。
リチャードが行き先の心配を何度もして、フルラの化粧が上手くいかず遅刻して、アンディが木で矢を作っていた。
「リン君、カイルはまだ帰って来ないのかい?」
リチャードが僕に声をかけた。今、カイル君は王都の僕の専用部屋にいる。僕の結界もカイル君が入れるように設定し直し、今では、マキタとカイル君があの部屋を使用している。今でも仲良くはなさそうなのに、目的の為なら構わないのか、二人して研究している。
カイル君は、僕の腹部に埋め込んでいる禁書を丸暗記した。
彼は一つ読めば複数を考えて理解してしまえる。まるで脳の回路が全て開ききっているようだ。その集中力。一度集中してしまえば僕の声も届かない。僕もマキタもその様子にゾクリと寒気がした。
マキタはカイル君を恐ろしい男だと言うようになった。
カイル君は考え方が他の魔術師とは違った。魔術師学校に通っておらず独学だからか、彼はとても自由な考え方をしていた。人は知識と共に常識が備わってしまう。その常識が魔術の幅を狭めているのだろうかと僕は少し思った。
「凄い……」
彼の作る魔術を見ると、自然と声が出る。
彼の魔術を見れば、どんな魔術師も自分の魔術はなんだったのかと打ちのめされるだろう。
僕は数日間、カイル君と共に王宮にいたのだけど、最高位達に顔を合わせる事が面倒でフルラ達の元に戻ってきていた。
「カイル君は、しばらく勉強しているけど満足すれば帰ってくると思うよ。なんだい? 僕だけじゃ心配かい?」
「まさか。君の実力を疑ったりしないさ」
そう言って彼が僕の横に座った。リチャードの大きな身体には苦手意識があったが、流石に慣れてしまった。
「それと……さ、これ、どうかな?」
リチャードが大きな身体を丸くしてコソッと掌の小さな箱を見せてくれる。その小さな箱の中にはキレイなルビーのイヤリングが入っていた。
「とてもキレイだね」
「はぁ。フルラに要らないって突っ返されたらどうしよう」
「……ふっ」
そうなのだ。実はリチャードはフルラにずっと片想いしていたらしい。フルラは美形好きな為に諦めていたけれど、ずっと、フリーなフルラを見て告白することを決心したそうだ。
決心してから、同じような相談と溜息を何度も聞いている。
「君のアドバイスから、指輪ではなくイヤリングからにしてみたんだ」
「付き合う前から指輪は……、うん。僕は、イヤリングくらいがいいと思う。とても素敵だよ」
こうして、最近彼の恋バナを聞いたりしている。
他人の恋バナとはどうしてこう甘酸っぱいのか。僕などに相談しなくてももっと……うーん。このパーティには恋バナを聞きそうな相手はいないな。そんなわけで僕なのだろう。
「今から渡しておいでよ」
リチャードに言うと「今は無理だ。勝算が見えないよ!!」とイヤリングの箱を胸に隠してしまった。
「何、二人で内緒話してるのよ! 私も混ぜなさいよ。最近、私をのけ者にしてなぁい!? 特にカイルのやつぅ!!」
完璧なメイクをしたフルラが来た。クルクルの巻き髪に長いツケマ、こんなに長く旅をしているのに、フルラのすっぴんを未だに見たことがない。
「カイル君が君をのけ者にするのかい?」
「え? あぁ? ……んーっと、そうね。うん。私の勘違い! カイルはリン以外皆に平等ぉ!!」
……なんだか、茶化されている気がする。
皆、僕が恥ずかしがるから直接言いに来ないけれど、カイル君と恋人同士なのは知られていると思う。恋人同士とか、自分で思うのも恥ずかしいけど。
「おーい。皆、揃ったのなら、そろそろ行くぞぉ!!」
アンディが荷物をまとめて出発の声をかけた。
目的地の街までは細い山道の為、馬車を置いて歩いて向かった。
「毎回移動魔術使えれば楽なんだけどなぁ」
アンディが愚痴を言っている。
そうは言っても、カイル君のようにごまんと使える魔力を持ち合わせていない。移動魔術は魔力消費が激しい為、本来自分一人でも疲れてしまうのだ。
「まぁ、歩くのも修行のうちだろう」
一番重たい荷物を背負っているリチャードが苦笑いをする。
山にはモンスターが沢山いる。今も目の前を通り過ぎた。野兎のようだが目が青く牙が生えている。退治する必要のない力の弱いモンスターだ。
この世界では、モンスターも多く人と共存し合っている。穏やかで平和なラウル王国だ。
山道を下れば、街についた。アイテムの換金するために立ち寄った街であったが、活気がある。広場には子供がよく遊んでいる。
「ふふ」
「リンって子供好きよね。カイルじゃなくて私と付き合う……って、え? なにっ?」
そんなフルラの腕をグイっとリチャードが掴んだ。
「リン君っ! 別行動で!!」
リチャードが必死になって言うので、僕はいってらっしゃいと手を振った。フルラはリチャードに引っ張られて二人でどこかへ向かった。アンディはそれを見て「ケッどいつも」と呆れた顔をしていた。
その後、アンディと二人で目的である換金所に寄り、持っているアイテムとお金を交換してもらった。先日Sランクモンスターを倒したので高額取引が出来た。
「はぁ、皆いいよなぁ」
アンディが街中です違う恋人同士を見ている。アンディもモテなくはないが彼女らしい彼女がいない。
こういう時、励ます言葉が見つからないでいると、「何も言うな!? 言ったら泣くからな!? どうせモテねぇよ!!」と半べそで訴えかけてくる。
「……まぁ、とりあえず僕達は買い物をしよう」
アンディの愚痴は長い。僕は話を切り変えて必要物資の調達に向かった。
商店街通りを真っすぐに歩空気が急に変わったのを感じた。
とても冷たい冷気だった。
「……」
さぁっと血の気が一気に引いていく。
まだ夕焼け前だが、この嫌な感じは災厄前と同じだ…………。
「え!?おい、リンッ!?」
前屈みになって苦しそうに呼吸する僕をアンディは支えた。
「はぁはぁはぁはぁ……」
こんな所で苦しくなってはいけない。僕は、自分の脳に催眠をかけて、呼吸を落ち着かせる。
それから、魔石を口に含んだ。
目を瞑る。まだ、結界に大きな変化はないが微弱な揺れを感じる。
そして、目を開け、遠くの空に真っ黒な雲が視界に入った。
間違いない……!!
空を見上げたまま固まった僕をアンディが心配する。
「どうした? リン!? 大丈夫か?」
「……あぁ、平気だ。それより、今から僕の言う事をよく聞いて欲しい」
僕は、アンディにこれから起きることを伝えた。この地にもうすぐ大きな災害がやってくる。
「災害?」
アンディは疑問に思いながらも僕の指示に従い、武器を持ち、フルラ達を探しに行った。
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