英雄は喫茶店の片隅で恋をする

モト

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英雄は探している

 
「失礼だけど、君に妹はいないだろうか?」

 喫茶店に入ってきた一人の男が俺に尋ねてきた。

「……」

 その男は、一般人と思えない筋肉の付き方だった。その盛り上がった腕や胸には細かい傷。何より店内の客が息を飲むほど、整った顔立ちをしている。

 ——あぁ、この人が噂の英雄様か。

 数日前から、ドク国を救った英雄様が想い人を街で探していると噂だ。
 英雄様の名前はシガー・ナイツ。金髪、碧眼の美青年。


「俺に兄妹はいませんよ」


 俺、マシュー・デイルに家族はいない。父は戦死、母は去年この喫茶店を残して亡くなってしまった。今は俺一人でこの店を切り盛りしている。


「では、身内の者に君のような赤毛の女性はいないだろうか?」

「いません」

「その、そうか……。探しているんだ」


 どうやら英雄様の探し人は、赤毛の女性らしい。しょんぼり肩を落とす姿はどことなく可愛らしい。

 大型犬みたいな人だな。


「この辺りで赤毛は特に珍しくないので、それだけの特徴ではご協力できません」

 周辺地域には赤毛が多い事を伝えると、英雄シガーは眉間にシワを寄せた。小声で呟いたので思わず聞き耳を立ててしまった。

「小さくて可愛らしくて、凛とした笑顔が輝いていて、存在自体が尊くて。こう、妖精……、いや天使のような子なんだ」

「……」

 うん。そんな女の子、この街にはいないな。
 内心ツッコみを入れてしまう。
 しかし、彼の表情は至って真剣だ。数日間、人探しをして顔に疲労が見える。


「お疲れ様です。こちらよければどうぞ」

 コポポ……っと珈琲を入れて彼の前に差し出した。俺のオリジナルブレンドだ。酸味が少なく後味スッキリとしている。

 シガーは俺と差し出した珈琲を見比べて、真面目に後で代金は払うと言い、そのカップに口を付け、ゴクンと珈琲を飲んだ。

「旨い」

「それはよかった」

 彼の眉間のシワがなくなった。どうやら好みの味だったようだ。素直な感想に思わず笑みが零れる。

「君は……? ……あぁ、失礼した。食事を注文したい」

「どうぞ」

 シガーは、横に置いてあるメニュー表を眺めてサンドウィッチを注文した。

 サンドウィッチは店のメニューの中でも一番人気高い。ゆで卵をゴロゴロと大きめにマッシュしてたっぷりと乗せる。パンは三軒先のパン屋で発注している。自分で作ったパンよりパン屋のパンの方がもっちりしっとりが違うからな。客にはより一層旨い物を食べてもらいたい。


「どうぞ」
「あぁ、どうも」

 シガーは腹が空いていたようでそれをバクバクと食べ始めた。彼は身体が大きいから厚切りのサンドウィッチも小さく見えてしまう。すぐに空になった皿を見つめていると彼が顔を上げた。

「失礼だが、君は女性だろうか?」
「い・い・え!」

 本当に失礼な質問だ。180㎝以上あるひょろひょろの身体をした男なのに女性に間違えるとか有り得ないだろう。



「そうだよな、失礼した。また来るよ」
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