英雄は喫茶店の片隅で恋をする

モト

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赤毛のマスター

 ◇◇◇

 英雄様が店に初訪問して暫くすると、彼がこの街に越して来た。
 街の独身の女の子は、こぞっとシガーにアプローチをしていた。勿論、その中には赤毛の女の子も多い。


「家を建てているんだ」
「はぁ」


 だけど、当のシガーは毎日喫茶店に来て、のんびりと珈琲を飲んでいく。
 どうやらこの店の味が気に入ったようだ。彼が来るのは午後の三時頃。丁度ランチタイムの混雑が終わり一息ついている時にやってくる。

 シガーは、この街に越してからまだ話し相手がいないのだろう。
 
 毎日珈琲を飲みながら俺に相談や、近状報告をしてくる。「不動産を探している」「土地を購入した」「近い方がこの店に通いやすい」だとか。今までの責務等から引退し自分の人生を生きるのだそうだ。

「俺で分かることがあれば、聞いてください」
「マスター、助かるよ」


 この街の安い店やオススメなどを彼に教えるようになった。勿論、シガーの他にも客はいるので、話が出来たり出来なかったりする。会話がないときもシガーは気にすることなくゆっくりと珈琲を飲んでいた。


「カーテンの色は緑色にした。喫茶店のカーテンも緑だから」

「緑、いいですよね。俺のスキな色です」

「俺も……スキだ」

「同じですね、落ち着きますものね」

「ふは」


 突然、彼はニヤニヤと笑いだした。
 不気味だ……。
 俺の苦笑いに気がついた彼はハッとしてゴホンと咳払いをした。

「すまない」

「いえ」

 英雄と喫茶店のマスターでは共通点などないと思われるけれど、話していると意外にあるものだ。それとも、何気に彼が合わせてくれているのだろうか。

「一日、何度か来てもいいだろうか?」

「え? えぇ。俺としては歓迎ですが」

「そうか、朝もどうしても君……いや、君の珈琲が飲みたくて」

「あぁ、俺も朝一番に珈琲飲みたいので、その気持ち、よく分かりますよ。朝早くから店は開いていますので、いつでもお越しください」


 別に俺に聞かなくともいいのに。


 そして、それ以降毎日二回、店にやってくる。すっかり常連客だ。
 朝は客が多く会話がないが、午後は客の入りが疎らなのでシガーの話を聞くことが俺の楽しみの一つになっていく。

「ベッドはキングサイズなんだ」

 しかし、なんで家の内装や家具の説明ばかりするんだ??

「シガーさん、身体が大きいですもんね。寝相悪くてもキングサイズなら安心ですね」

「……寝相はいい。それに先日花屋でハーブを貰って、いい匂いがしている」

「へぇ、ゆっくり休めますね」

「あぁ、そうなるといいと思って」

 大柄な見た目の割にロマンチックだな。

 その他の事も俺に事細かに報告してくれる。
 キッチンは大きめだとか、裏に畑を作ったとか。カップは色違いで二つ購入しているだとか。

 シガーは結婚願望があるのだろう。彼の家には行ったことがないけれど、どうも話を伺っていると単身用ではない気がする。彼が誰かと一緒にいる姿が安易に想像出来てしまう。


「シガーさんと暮らせる方は贅沢ですね」
「っ、そうか……マスターにそう思ってもらえれば嬉しい」
「えぇ……まぁ……」


 笑顔が可愛いと思ってしまい、顔が火照る。
 俺の反応、やばくないか……。相手は女の人を想うノンケだぞ!?

 不味いと思い、深呼吸をした。







 彼の家の間取りや寝具の色まで知っている俺だけど、店から出て彼と話したことはなかった。彼の周りにはいつも人だかりが出来ているからだ。

 派手な経歴と見た目だけど、内面は素朴なシガー。初めは独身の若い女の子が群がっていたけれど、今ではその親までもが“是非、娘の婿に”状態だ。



「あーん。シガーさんってば、赤毛の女が忘れられないんだって!」
「えー!? 赤毛の女ってシガーさんが、一番初めに街に来た時に探していた女の子でしょ!?」


 店にいると色んな客の色んな話を拾ってしまう。
 ランチタイムに来た女性二人の客が、丁度シガーの話をしていた。シガーが話題に挙がることはとても多い。
 シガーからも話を聞いて街の人からもシガーの事を聞いているから、シガー本人よりシガーの情報を知っているのではないだろうか。


「でも、その女の子とはさ、10年以上会っていないんだって」
「何それ! じゃ、引っ越したかもしれないじゃない」
「そうそう。だからまだチャンスはあるわよ!」


 シガーの探し人はいるかいないか分からない存在。それがシガーを取り巻く女性にとって益々彼を諦めきれない理由なのだろう。
 赤毛の女の子か……。
 俺はその赤毛の女の子を知っている。その女の子がこの世に実在しないことも。
 知っているけれど、言わなかった。


 ——……だって、それは俺だから。


 俺、マシューは10年前にシガーに出会ったことがあった。出会ったというか、暫く共に過ごした。
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