ラスボス推しなので! 魔王の破滅フラグ折って溺愛されます!??

モト

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魔族は俺に気づかず通り過ぎて行った。


<……はは、馬鹿め、俺はここだよ~だっ……! は……はぁ>

手がない、足がない、胴体も何もかも。

身体はないが気持ちがガックリ項垂れる。


フワフワの透明になった俺はわざと抑え込んでいた記憶を全て思い出していた。

<……はっ、あっけない……魔法は解けて、か>


物体のない心がざわざわと嘆く。

レーベン…………、俺は、貴方と話したかった。ずっと、ずっと前からずっと……。










『異世界転移した時に神からのギフト、“視える者”を授かった僕だから見えるけど、君って本当に弱い生き物だよね』



俺は、精霊とも呼べない小さくて弱い生き物だ。

精霊の中でも力がなく実体化出来ないから誰にも存在を確認されない。

ずっと、焦がれて傍にいるレーベンにも……だ。



レーベンが幽閉され救いを求めていた中、俺が“視える”異世界人に出会った。

異世界人は何度か出会ったことがあったけど、俺の事が“視える”存在は初めてだった。


異世界の“日本”からやってきた佐藤と名乗る男は、この世界の事を“ゲーム”と呼んでいた。


彼は賢者のように全てを知っていて、この世界の事を色々教えてくれた。

レーベンの運命もその時に聞いた。

その男が真実を述べていると分かったのは、レーベンの過去を正確に言ったからだ。



俺は、何年もずっと彼を助けてくれる救世主を探していた。

佐藤に助けを乞うた。

「それを出来るのは、俺じゃないんだ」


そんな……、お前には、彼に届けられる声も身体もあるじゃないか。


俺は、諦めずに何度も頼んだ。佐藤は困った顔をするだけ。

情報集めなら出来るから! 出来る事なんて見るくらいしかできないけど、それくらいなら!!


「ホツ、もうすぐ俺は日本に帰るよ」

「…………」


希望の灯りは唐突に終わりを告げた。

俺はフワリフワリと北の塔の中に入り、寝そべるレーベンの周りを浮遊した。


「外は天気が良かったです。赤い花がとても美しくて、そこに小さい蝶々が飛んできて花の蜜を吸っていました」


いつものように彼が見ようとしない外の事を話しはじめた。とてもいい天気なのに……。

レーベンの身体から血の気配がした。また……、人間に傷つけられたのか。


<痛いですね……>


触る事の出来ない身体。レーベンの身体を癒して撫でる事が出来たならどんなに俺は満たされるだろうか。


<……どうして、俺にこんな感情があるんだろう。どうして、貴方を助ける力がないんだろう>

どうして、俺に涙を流す目がないんだろう。


<俺は、自由気ままな貴方も、人間達の奏でる音楽が好きな貴方も、陽気な貴方も知っています>

人間の為に光の玉を落とし、他の精霊は貴方の傍を去りましたが、俺は今も貴方を見ています。


レーベンの閉じた瞼にそっと寄り添う。この目はとてもキレイでもし永遠に開かないとなれば、どんな苦しい気持ちよりさらに苦しいだろう。

今までは我慢してきたが、レーベンの運命を知ってしまった。


<……必ず助けてくれる誰かを探してきますから>


俺は、佐藤の他に助けてもらえる相手を探した。浮遊するのは得意だ。

どこかに誰かいるはずだ! 俺の声は聞いてもらえる。あらゆる種族の元へ向かった。勿論魔族にも。

どこを探しても見つからなかった。


だけど、見つからないだけでレーベンを諦める理由にはならなかった。




「ホツ、よかった。日本に戻る前にもう一度君に会えた」

佐藤……。

コイツだ。

急いで城に戻ると、佐藤がいた。俺は、仮にも精霊だ。

その生き物を摂取すれば、その生き物を形成できる。俺と言う器に物体を上塗りするのだ。

俺の大きさならば、佐藤の血を少し分けてもらうだけでいい。それだけでいいのだ。


「君にそんな力はないだろう。知っているよ。不完全になって壊れるだけさ」

そう。魔力も存在もちっぽけすぎてそんなことは出来ない。


<佐藤の血を分けてもらった後は、ただ、ひたすら魔力を集めるだけに存在する事になる。それでも、少しずつ吸収すれば人間の身体を保つ程度の魔力を溜められるはず>


「小さな風船に大量の液体を入れるようなものだ。その後どうなるか分からないよ」


いいんだ。その後のことなんて考えていない。


佐藤は、俺の事を友達と呼んでくれていた。だからか、とても悲しい顔をした。



そんな顔があっていいな。

俺にもレーベンに向ける顔が欲しい。悲しい顔じゃなく、笑った顔。

彼に微笑む相手が長くいなかったから、俺がそうなりたい。


「じゃぁ、弱い君に一つだけ俺からとっておきのおまじないをかけてあげるよ」


佐藤はそう言って、指をナイフで切り、俺に差し出した。

それを俺は吸い取った。吸い取る事も下手でゆっくりで、それを佐藤はおまじないを唱えながら待ってくれた。


「君の真っすぐさは強さだ。迷いは弱さ。もし、人間になれた時、その身体を保っていられるように、人間だと思い込むんだ」


人間だと思い込むことで、その物体を維持できる。佐藤は何度となくそう言った。


「ほつれないように、完全に人間になるんだよ」

「……」


必要な血を吸い込んだが、魔力の足らない俺は、すぐに人間になれるわけではない。

佐藤に別れを告げ、レーベンにも別れを告げた。


そして、何年もひたすらに、ほつほつと魔力を集めるだけの生物になった。

魔力吸収が下手な俺は、意識を鎮めその行為に没頭する。


佐藤の血は、佐藤の記憶も入っていた。彼の記憶をただ反芻する。その記憶が俺の意識と混ざり合う。

日本の事、家族の事、ゲームの事……。

俺はラスボスが死ぬなんて嫌だっ!!! 絶対こんな終わり方おかしい!! 何か! 何かきっと別のエンディングがあるはずなんだ!!!


ラスボスが死ぬなんて許せない。


「……異世界転移しなくちゃ」




神の導きか、偶然にも俺は、アドルフ王子達に転移させられたのだ。


何年も思い続けた“人間”であるホツは、自分がちっぽけな力なき精霊だという事をすっかり忘れていた。レーベンを助けるのは自分だと思い込んで……。


そして、魔力が保てなくなった時から、夢が覚めるように現実が見え隠れした。

何が精霊の仕業だよ……。全部自分の中で記憶が混乱していただけの事。


これが本当の俺————。

しかも、この小さな透明の物体ですら維持できないような弱すぎる生き物……だから?

だから、なんだ。


<……いや……、諦めるな……!! 俺の最後はこれじゃない!>


大丈夫だ。まだ、俺は存在しているじゃないか。何をショック受けている。今更諦められないだろう。

こんなのでも何か出来るハズだ。レーベンにまた火の粉が降りかかろうとしている。

今度は魔族がレーベンに何をするか分からない……!


<————え?>

自分の事でいっぱいで、辺りがやけに静まり返っている事に気づくのが遅くなった。

何か変だ。

フワフワとその場を移動する。暗い森を出ると空がよく見えた。



空高くに光の玉が見える。

一度だけ見たことがある光の玉、これを作り出す事が出来る方などレーベン以外いない。


<レーベンに何かあったのか!?>


あの玉をどこに落とそうと言うのか……。

俺が魔族に捕まる前にあんなに優しく微笑んでくれていたのに……!!


空に一体の魔族が急いで飛んでいるのが見えた。後から続々と魔族、魔獣たちが空を飛んでいく。

まるで、皆、魔界から脱出しようかというような慌てようだ。


それを見て、魔族達が逃げて来た方向へと向かう。

魔族達は、あの高い城……あぁ、そうだ! 魔王城だ。魔王城から逃げているように感じる。

何故だろう、直感的にそこにレーベンがいるような気がした。


もしかして、俺が攫われたようにレーベンも魔族達に攫われたのかもしれない。

彼はとても強い力を持っているが、優しく、すぐ信用してしまう悪い点がある。俺の方がよっぽど疑り深い。

一番初めに人間となった俺と遭遇した時もだ。


何故、よく知らない相手を番などに出来るんだ。

俺には、何百年たっても気づきもしなかったのに。



フワフワの身体は時間をかければ向かっていける。だけど、それじゃ間に合わない。


空を飛べない魔物達が反対側から押し寄せてきた。ぶつかりはしないが、ふわりふわりっとその魔族達が走る振動で飛び上がって前に進めない。


<くそぉっ!! 俺ってなんでこうなんだ!>


フワフワと浮きながら前に行こうと足掻く。風向きも逆方向だが、懸命に魔王城へ向かった。


レーベン……!!

真っすぐに、魔王城を見る。集中するともう周りは魔王城以外視界に入らない。


レーベン!!

もうすぐだ。もうすぐ……森を抜けられる。

脳裏にレーベンが俺を見つめてくれ微笑む顔。また、触って……



その時、真っ暗な世界になり、フワフワと浮遊していた俺の身体はヒュ——と真下に落ちて、地面にほつんと音もなく落ちた。


<レーベ、ン……>

動けない。


何も見えない。魔力切れ。意識も静かに沈んでいく。



完全に意識がなくなってしまう直前、俺を探す声が聞こえた。


「ホツ!! どこだ!! どこにいる!?」


何度も何度も辺りを探し呼んでいる声。沈んでいく意識が浮上する。

この声は、……レーベン?


俺を探しているの? 聞いたことのないような大きな声を出している。

そんな声を出しても見つからないよ。見えないから。


「ホツッ!! どこだ!? 君が分からない!! 君が見えない!!」


レーベンがずっと探している。レーベンらしくない……。

でも、俺からもレーベンの姿が見えない。真っ暗闇の中。


見つかりたかったなぁ。

一度、貴方に触れて見つめてもらったから、癖になったんだ。もう一度、その視界に入りたくて仕方がない。


見つけてほしい。ずっと貴方に見つけて欲しかった。


どんどん足音が遠ざかっていく。

…………見つけて、ほ、しい……。


だけど、もう意識が保てない。




冷たくなると思った世界は、急に温もりに包まれていた。


俺の身体が浮いた。

そうして、息を吹きかけられた。何度か繰り返し息を吹きかけられる。

キラキラと輝く魔力……その息だけで、俺の視界は明るくなった。


「みつけた」

<……>

レーベンの黒くて長い髪、そして顔が見える。もう一度、息を吹きかけられた。


「ホツ、君だったんだね」

<レーベン様……>


















ふわり。

フワフワと。


神属性である私は、妖精や精霊に愛される存在だった。

だが、一度だけ気に入った人間に肩入れした。そして、地を破壊した。

私は咎を負った。その罪は、この地を破壊したことにより、憎しみを作ってしまった事。


妖精も精霊も私から離れた。咎を負う神属性はもう落ちていくだけだから。


塔の中に幽閉され、光も満足に身体に当たらない。

これでは、そう大した時間もなく私は闇落ちするだろう。


ふわり。



だけど、私はそうはならなかった。

透明のふわりと飛び交う生物がそこにいるから。


妖精か精霊かも見分けがつかない。小さな生物だけが私の傍にいた。


ふわり

何か伝えてくれようとしている。それがいつもくれるのは優しい気持ちだと思った。


聞き取れなくて申し訳ない。もし、この鎖がなかったら魔力が自由に使えれば、君の声が聞こえたのかもしれない。


<—————……痛いで、す……苦しいで、すね……、何も、……できなくて……>


ふわりの声は、全てを聞きとる事は出来ない。だが、ふわりの気持ちが高ぶった時はその声を聞く事が出来た。


そうか。君だけはこんな咎負いを心配してくれるのだね。


<人間の馬鹿! 人間の馬鹿野郎———!!>


ふふっ。思わず笑ってしまうではないか。

たまに聞こえる君の声のおかげで、私は何かを恨むのをやめることが出来た。

姿は見えなくて、声も満足に聞こえないけれど、私の世界は君がいてくれるなら、そう悪くないかもしれない。


だが、ある日を境にふわりはいなくなってしまった。

「どこへ……」


私はふわりのいない喪失感に耐えられなかった。分身体を出して塔の外へ出て世界の様々な所へふわりを探しに向かった。

ふわりは透明な上、魔力を探知することが難しい。

今、ふわりは無事なのだろうか。無事ならばもう一度会いたい。


声など一度もかけた事がない事を後悔した。もう一度会えたら、声をかけたら、ふわりはなんて返答するだろう。ちゃんと耳を澄ませて、君の話を聞きたい。



だが……それから何十年探したが、ふわりは私の前には出てきてくれなかった。


小さな窓から空を見る。

私は、あとどのくらいこの孤独に耐えられるのだろうか。



「ホワァァァア!!! キタこれぇ!! 黒い毛、赤い目、鋭い爪!! 美しいぃ~~~!!!」

『……』

急に現れた人間。破られた孤独。

私が“魔王”になり、人間に倒されるという破滅フラグとやらを一生懸命折ろうとする。

彼の笑顔に明るさにあっという間に惹かれた。

闇の中で唯一の光。

まるで、ふわりと同じ。


だが、私は同時に不安にもなった。ふわりのように彼がいなくなるのではないかと。そうなる前に食べてやろうか。これほどに彼を求めている自分に驚いた。

眠る時はいつも彼を傍に置き、彼に触れ、そうしてようやく満足して眠れるのだ。


「起きたら、これからの事を沢山話しましょうね。一番の破滅フラグ、俺はちゃんと折りますよ」

彼は何を知っているのだろうか。私の心の闇はふわりが作った物だ。

それを君が折れるのか?


彼を一度裏山で見失った事があった。

有り得ない。この私が……。何としても探さなくてはと思っていたら、彼はスヤスヤと山の中で眠っていた。

ホッとしたが、同時に恐怖した。山がこの私の宝を隠したのか? ならば灰にしてやると灰にしてやった。

そうして、不思議な精霊の気配……。私は何かを見落としているのか?


ホツは、その日から夢の事を思い出すようであった。彼が私の事を心配するより、もっと自分の事を心配すればいい。



「シドルが謝って済むものでもないの! 勝手過ぎっ!! レーベン様は自由なんだ!! シドルの馬鹿! 人間の馬鹿! 人間の馬鹿野郎!!」


—————え……。


なんだろうか。見落としていた点と点が重なった気がした。

<人間の馬鹿! 人間の馬鹿野郎———!!>


ふわりの声と重なった。そんなはずがない。

ふわりは姿も実体化出来ない弱い生き物だ。そんな生き物が人間に化けるなど不可能だ。

不可能を……もし、彼がどうにかして……。

背筋に電撃が走った。

ホツは振り向いて、私を見上げた。クリクリした黒い目が私をみつめる。


——だが、仮にそうであったならば……。



私は君にどれだけ幸せをもらっていたのだろうか。


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