ネックレスとブレスレット【改】 魔法少女に召喚された青年は彼女を守る事になりました!

川村直樹

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失われた国 1

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執務室の机に両膝を付くゲイルは、不満そうにソファに座るリリカと春馬を見ていた。今回の事故報告をどう纏めるか悩んでいた矢先に、春馬とリリカがやって来たのだ。

そんなゲイルの事情など呑気な訪問者は、全く気にしていなかった。

「何で、ここに来ているんだよ」

「出発する前に情報が、欲しいんですよ」

カイセラを出発した後のルートや立ち寄る場所の情報があれば、事前にリリカと一緒に行動する予定が組めるからだ。

「そうです、情報をください!」、リリカもゲイルにお願いする。

どうやら不満に思っているのはゲイルだけで、秘書のセリナは楽し気に二人の相手をしていた。彼女は春馬が持ってきたお菓子を箱から出し、お茶の準備をしている。

「そうですよ、せっかく春馬さんがあちらの世界のお菓子を持参してくださったのですから、ゲイル様もこちらに来て一緒に頂きましょう」

促されるようにセリナの隣にゲイルは座り、皆の視線が集まる見慣れないお菓子を睨みつけた。

「このお菓子は、何ていうの?」、リリカは左手にフォークを持ちながら、食べたそうに待ち構えていた。

春馬から貰うお菓子は、いつも美味しく今まで口にしたことのない、甘く優しい味だ。今回も絶対に美味しいに違いないと、彼女は確信していた。

並べられたケーキを早く食べたそうにしている仲間たちを待たせては悪いと、春馬は思いながらもそれぞれの前に並べられたケーキの説明をする。

「リリカのケーキは、ショートケーキだ。セリナさんには、フルーツタルトを用意しました。大人の女性には、ヘルシーなフルーツ中心のお菓子が良いかと思いまして。俺とゲイルさんのケーキは、レアチーズケーキです」

セリナがゲイルの脇腹を肘で小突いた。彼女は、若いのによく考えている春馬に感心したのだ。女性の心を理解している、なんて出来の良い青年なのでしょう!

「春馬さんは、良く分かってらっしゃるわ。誰かさんと違って」

「悪かったな、女心のわからない男で」

ムスッとした表情のゲイルは、目の前のレアチーズケーキをフォークで半分にした。突き刺すと、大きく開けた口に放り込んだ。

テーブルの上に地図を広げたリリカは、現在地を指さした。

「カイセラから北西に進むとアテナイで、南西に行くと連邦国の首都ドマンです。アバルディーンに行くには、アテナイとドマンのどちらを通って行った方が良いですか?」

ゲイルは、リリカが地図上で動かす指を目で追う。

腕を組みながら、頭の中で一番安全なルートを模索した。

ドマンに向かえば、渓谷に沿った道を通る必要がある。渓谷の道は落石が多く危険だ、しかも遠回りになる。

そう考えるとアテナイへ行くルートの方が近いし、定期便の馬車に乗って行ける。安全で楽なコースになる。

「そうだな、やっぱりドマンを通るルートは、危険な道を通らないといけないし遠回りだ。アテナイを通るルートを勧めるよ」

「アテナイに行くとして、何か良い交通手段は無いですか?」

「ここから多くの行商や旅人が向かう国だから、定期便の馬車が出ているよ。それに乗れば、安全に旅が出来るかな」

安全に移動出来そうな答えに春馬は満足したが、そうなるとアテナイに関する情報も欲しくなる。出来るだけ危険を排除しておきたかった。

「アテナイの事ですが、どんな国ですか?」

ソファの背にもたれ体を伸ばしたゲイルは、天井を眺めながらアテナイの事を説明し始めた。

アテナイは、市民が選挙で議員を選ぶ。そして議員の中から国のトップとなる大統領を選出する議会制民主主義国家だ。

そこでは、人間だけでなくエルフ族、獣人族、ドワーフ族と多種族が暮らしており、誰でも民衆の支持を得て選挙で当選すれば、議員になれる。

現在は、クリフォード大統領が民衆の圧倒的な支持を得ながら、安定した国の運営をしている。

ただ、自由の国にありがちな問題も多いようで、所得格差が大きく貧困率が高いらしい。そのためスラム化した地域の治安は悪い。アテナイに滞在する間は、リリカを一人で行動させないよう春馬はゲイルに注意された。

説明を終えたゲイルは、カイセラとアテナイの中間地点に指を置いた。そこは遺跡がある場所で、定期便の馬車が野宿する場所にもなっている。指を置いたものの、何を話したかったのか忘れてしまったゲイルは首を傾げた。

片付けから戻ってきたセリナは、ゲイルの指さすポイントを見て街で聞いた不思議な噂話を思い出した。

「シャメニコーラ遺跡ですね。最近街で妙な噂を聞く場所です」

「噂か? 遺跡だからお化けでも出るのか」、冗談を言ったつもりのゲイルが笑いだした。

「ゲイル様、よくご存じで。最近失われた国の人々の霊を目撃する行商や旅人が急増しているのですよ」

冗談じゃないと、ゲイルは背筋が寒くなり身震いする。

リリカは平気なようで、地図にお化けと書いていた。

「ゲイルさんは、お化けが苦手なの? 私は平気ですよ」

やせ我慢をするゲイルは、苦笑しながら首を振った。暗闇とか化物は怖くないのに、何故か霊だけは怖い。

「幽霊なんか信じないね。実態のない奴は、襲ってこないだろ?」

不安そうにセリナの方を見ると、彼女は薄す笑みを浮かべながらわざとゆっくり振り返る。

「ふふふ、分かりませんよ? 襲われて、呪われるかも知れませんよ」

前髪で顔を隠したセリナをみたゲイルは、小さく「ひっ・・・」と、声を漏らして体を縮めた。

不思議な専用武器を持つ春馬なら、幽霊だって切れるはずだ。
そう思うリリカは、噂話も気にならないし、幽霊だって怖くない。

「春馬なら、お化けでも退治出来るよね」

「おいおい、そんな訳ないだろ。実態のない霊を切るのは、無理だよ」

「いや、出来ると思いますよ。何でも切れますから」

目を合わせたゲイルとセリナは、言葉を失った。春馬の顔から嘘はついていないと思うが、二人は同じことを考えていた。

この若い二人は、冗談が通じないのか? それとも本当に出来るのか。

「あの光る剣か?」と、ゲイルは半信半疑で聞く。

「そうです。この世界のすべてを切る剣です」

「全てとは、ちょっと冗談が過ぎるぞ」

「本当ですよ。石や金属などの硬い物から精神的な物まで全てです」

「いやいや・・・」と、信じられないゲイルは手を左右に振った。

「遺跡の幽霊は、問題ないのでこのルートで行きますね。情報ありがとうございました」と、リリカは立ち上がりガッツポーズを決めた。

全てを仕切る出来る女を想像していたリリカは、したり顔でポーズを決めたのだ。

マラガの軍司エメリンや秘書のセリナと出会い、変な憧れを抱き始めていないか、春馬は不安にさせられる。

カイセラからアテナイ行きの馬車の運賃は、一人1万5000ゼムだった。

安いのか高いのか、この世界の交通料金の相場が分からない。

十人程度の乗客を乗せる馬車には、警護を兼ねた御者が二人おり交代で手綱を引く予定だ。

アテナイまで続く道は、表面を平らに加工された敷石が敷かれていた。所々風化や耐久性を失い割れていたが、地道と違い安定したスピードで馬車を走らせるし、雨の日でも安心して進める。

揺れる馬車の中でリリカは、別れ際に春馬からシャメニコーラ遺跡に着いたら呼び出すように念を押された。そんな事を気にかけながら、お気に入りの飴を口の中で転がしていた。

幌付きの馬車の中は、外の景色を眺めることが出来ない。

アテナイを目指す馬車は、満席だった。

仲間同士で話を弾ませる者や目をつむり静かに過ごす者など、移動中の時間の使い方は人それぞれだ。三人ほどエルフ族の旅人が混ざっていたが、人間族が多い印象を持つ。

出発してから2回の休憩をはさみ、野宿する予定の遺跡に着いた頃には、太陽が沈みかけていた。

御者の男達は馬車から降り、周囲に危険が無いか確認をする。

安全だと判断すると、乗客たちの誘導を始めた。

「ここで一晩過ごしますので、馬車の近くで休む様にお願いします」と、乗客一人一人に声をかけていた。

馬車を降りたリリカは、乗客達から少し離れた場所に移動した。石壁が残る住居跡を見つけると、人目がないか確認してから春馬を呼び出した。

「やっと、シャメニコーラ遺跡に着いたか。長旅だったな」

「ずっと馬車に揺られていたから、お尻が痛かったよ」

住居跡の遺跡の中から春馬は、通りの奥にある白い石柱が何本も並ぶ遺跡が気になった。

「あれは、神殿跡なのか?」

崩れ落ちた石が、四方八方に転がっている。風雨にさらされ消え去ろうとする石を隠すように、隙間から雑草が生えていた。

「此処は、かつてこの世界を支配した王国の王都ですよ。有名な伝説として語り継がれる失われた王国だと、みんな信じています」

「失われた国か、何が原因で滅んだのか知ってるのか?」

「えーと、言い伝えでは、大いなる魔法士とその従者の助けで国は栄えたんですが、二人が国を去るとあっけなく滅んだそうです。欲にまみれた人々が、互いに争い合ったのが原因だったと思います」

「えっ、言い伝えには魔法士と従者が出て来るの?」

「そうよ、何か気になった?」

「いや、そう言う訳じゃないよ」と、春馬は言葉を濁した。

マラガでエメリンから聞いたおとぎ話しと同じだった。その舞台がこの場所だと信じられているのなら、ここに来たのも何かの縁だと感じられた。
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