滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

文字の大きさ
11 / 66

アルフェリア 9

しおりを挟む
 勇者達がギルド会館に入ると、カウンターでクリスは眠そうに欠伸をしながらリリと話をしていた。

「お早うございます、クリスさん」と、ミツヤが元気よく挨拶した。

「お早う、勇者殿は朝から元気一杯だね」

「ここから魔獣の住処までは、どれぐらいの時間がかかるのでしょうか」

「王女様か、此処からだと半日で着けるよ」

「ならば、明日には魔獣を倒して戻って来られますね」と、ケンが口を開いた。

「それはどうかな。何が起こるか分からないよ」と、クリスは目を細めた。

「そうだよ、早く終わらせようと考えると失敗するかも知れないので、みんな気を引き締めよう。力を合わせて魔獣討伐するんだから」と、ミツヤは仲間に油断しない様に注意した。

 ミツヤの言葉にクリスは、何か答えを得たように感じる。

 そうか、通常なら生まれて来た勇者を幼少の頃から訓練し鍛える。十五歳になると、仲間と共に実戦経験を積む。勇者が十七、十八歳になる頃には、騎士達でも相手ができない程の化け物が出来上がる筋書きになる。だが異世界から来た彼は、訓練をしていない上に経験も無い。
  
 ミツヤは勇者としては、かなり弱いのだ。訓練をしている時間が無いから、強引に実戦経験を積ませる算段だな。

「勇者の装備は、それだけなのか? 勇者なら専用の鎧や盾などの武具があると聞くが」

 クリスの問いかけにリリアが慌てた様子で答えた、「これから揃える予定なのです」

「方々に散らばり保管される装備を揃えるのは、大変だな。古の塔や洞窟なんかにあるんだろ?」

「そうです。魔獣討伐から私達の冒険が始まるのです。今日は大切な第一歩となりますので、クリスさん、よろしくお願いします」

「これは、これは。重要な役割を任された訳か、皆さんの足を引っ張らないように気を付けます」、クリスは指で鼻を擦ると、ギルド会館のドアを開けた。
 
 彼らの実力では、魔獣退治は出来ないかも知れないと考えながらクリスは、勇者達を引き連れ森の中へと入って行った。

「あの、クリスさん。私達が戦闘している間は、どうされますか?」

「王女様、俺のクラスはブロンズなので安全な所で待機しますよ」

「えっ、ブロンズなのですか。魔獣の住処へ案内をしてくれるので、シルバークラスの人だと思っていました。あと、私の事は名前で呼んでくださいね」

「分かりました、これからは名前で呼ばせてもらいます。俺は案内を任されましたが、魔獣と戦うのは勇者さまだと聞いています。それに、一緒に戦っても足手まといになりますよ」

「ごめんなさい。そうですよね、案内だけのお約束でしたね」と、リリアの残念そうな表情をクリスは見逃さなかった。 

――― ああ、やはりそうか。

 自分達の実力を王女は、理解している。このメンバーで魔獣退治は、無謀な事だと彼女は気が付いているのだ。

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・誰か、誰か・・・」、突然森の奥から叫び声が聞こえると、バキバキと木々が倒れる音が近づいて来た。

 前方から冒険者達が逃げてくる。彼らの後ろから追いかけて来るのは、クマだ。体長4メートルを超すブラックベアが姿を現した。

「おい、どうしたんだ」、クリスの問いかけに冒険者の一人が、「害獣駆除に来ていたんだが、ギルドで聞いていたよりデカかくて。怖くなって逃げてきたんだよ」

 逃げて来た冒険者達は、勇者達とすれ違う。全員振り返る事無く、我先にと逃げ去った。

「怖くなって逃げたのか? 中途半端な考えで仕事を引き受けるからだよ」と、クリスは呆れ顔になる。

「丁度良い、僕たちが倒しますよ。みんな、協力して」と、ミツヤがブラックベアの前に立ちはだかった。

「では、私が動きを封じます」と、ケンは盾を構えてブラックベアの攻撃を受けた。

 後方支援をするエレスとリミアが交互に魔法を放った、「ファイヤーアロー」、「ウォーターバレット」

 最初に火の矢がブラックベアの右腕に当たり、毛が燃え上がる。
 無数の水の塊が弾丸となりブラックベアに当たると、ブラックベアは態勢を崩した。
 ミツヤは、果敢にブラックベアに聖剣で切りかかった。
 ギャアと一声上げると、浅い傷を負ったブラックベアは腕の火を消した。
 突進してくるブラックベアをケンが盾で防ぐ。
 この連携攻撃は、ブラックベアが倒れるまで延々と行われた。

 魔獣を倒せる力があるなら、普通これくらいの害獣は瞬殺のはずだ。クリスは、一時間ほどこの勇者達の攻撃を眺めていた。彼の隣には、リリアが固唾を飲んでじっとミツヤ達を見つめていた。

「あのー、リリアさんは攻撃に参加しないのですか?」

「私は、ヒールしか使え無いので攻撃に加われないのです」

「えっ、身体強化などの補助は出来ないのですか?」

「はい、まだ知識と経験不足で。早く勇者様のお役に立ちたいのですが」

 無事ブラックベアを倒した彼らは、戦闘で魔力と体力を消耗しクタクタになっていた。リリアはここからが私の仕事だと、疲れて地面に座り込む仲間達に回復魔法ヒールをかけた。

 クリスは、悟った。そうだったのか、ヒールしか魔法の使えない彼女を卑下する意味で、人々はホワイトウィッチと呼んでいるのか。

 日が暮れてしまったので、クリスは野宿の準備を始める。彼のショルダーバッグから出て来た簡易テントを双子の姉妹が不思議そうに見ていた。

「凄いですね、ストレージの魔法が付与されているのですか?」と、二人の声が揃う。

「そうだよ。ストレージの魔法は、便利だよね」

「どうやったのですか? 魔法が付与されたバッグを買ったのですか? 貰ったのですか?」

「いや、見つけたのだよ」と、クリスは誤魔化した。

「羨ましいです。私達も欲しいですよね」

 創造神から貰った力の根源は、創造力。クリスが想像出来ることは、ほとんど具現化出来る。

 ストレージは、クリスが想像した物の一部だ。何でも入る便利な鞄が欲しいと考えていたら、ストレージ機能付きのショルダーバッグの創造に成功した。ストレージの魔法は知らないが、想像した事が簡単に実現できるなど、話せるような力ではない。

 焚火の前で勇者達と一緒に食事を済ませたクリスは、疲れ切った彼らに気を遣った。

「みなさん、今日は疲れたでしょう。見張りは俺がやるので、休んでください」

「クリスさんのお言葉に甘えて、みんな休ませてもらいますね」と、ミツヤが答えた。

 ケンは少し気になるのかクリスに、「あなたも休んだ方が良い。私が交代するから、途中で起こしてくれ」

「有り難うございます。その時は、声を掛けさせてもらいますよ」

 クリスは、木を削りながら一人焚火の前で考え事をする。

 勇者なら身体能力向上や回復魔法は、最初から身についているものだと思っていた。しかし、ミツヤはブラックベアと戦う時に、身体能力を向上させる魔法を使っていなかった。彼は、魔法の使い方が分からないのかも知れない。それと、異世界から来た彼は何も疑問を待たないのだろうかと、クリスは気になる。当たり前の様に仲間と一緒に戦う姿に違和感を覚えたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...