滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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アルフェリア 13

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 時間が再び動き出す。正常に戻ったミツヤにクリスは、彼の聖剣を手渡した。

「気分はどうだ? ミツヤ、今までの事を覚えているか」

「はい、なんか遠くで自分を見ていた様な気分です。もう意識は、ハッキリしています」

「煽って悪かったな」

「いいえ、気にしないでください。しかし、良く僕が変だと気が付きましたね」

「君の言動が、おかしかったんだ。普通、違う世界から来たらもっと戸惑うし、王の要望だからと言って全て従わないだろ。俺なら拒否するしな」

「ふっ、ははは。クリスさんらしいですね」、洗脳が解けたミツヤは、腹を抱えて笑いながら良い笑顔を見せた。

「みんなが、起きて来る前に伝えておきたい。王は、君を従順にするために思考を奪っていたようだ。王に君が元に戻ったと知れれば、再び君の思考力を奪いかねない。絶対にグランベルノ王に気づかれるなよ」

「気を付けます。王には、バレないように従うふりをしておきますよ」

 ミツヤは、洗脳に心当たりがあった。この世界に呼ばれた後、彼は宴に招待された。その時、急激な眠気に襲われたので、食事に薬を盛られていたのかと彼は考えた。

「君は、無理して勇者にならなくても良いんだよ。自由意思で、自分の道を決める権利がある」

「分かっています。ただ、今は仲間と一緒に行動しながら、暫く様子を見たい」

「そうか、無理するなよ。まあ、勇者の武具も集めないといけないしな」

「はい、勇者の装備が揃ったら、どうするか決めたいと思います」

「もう一点気になっている事がある。王女リリアと騎士のケンは、君の監視役だと思う。仲間だけど、本当に信用できる確信が持てるまで絶対に気を許すなよ」

「有り難うございます。頭に入れておきます」

「けど、君は強い心の持ち主だね。知らない世界に来て、臆する事なくやっている。俺だったら、元の世界に戻ろと足掻き続けると思うよ」

「強くなんてありませんよ。どうしようも無いのです。帰る方法も分からないし、今はこの世界に馴染むために努力するかありませんから」

「君の居た世界は、此処と似ているのか?」

「全然似ていませんよ。僕は、日本と言われる国から来ました。この世界より文明科学が発達した所です。それに魔獣などいませんし。人間しか暮らしていない世界でしたよ。そこで僕は、高校生でした。えーと、学生ですね。学校に通っていました」

 ミツヤは、目尻を下げながら話をする。彼は、自分の居た世界の事をクリスに話している内に懐かしい気持ちになっていた。

「学校か。この世界では、十五歳で成人として働くから、学校に行く期間は短いよな。それに裕福な家庭じゃないと、学校に行かせてもらえないし。十五歳を過ぎても勉学に励むのは、魔法に携わる者だけだよ」

 ミツヤは、一呼吸すると真剣な表情でクリスの目を見た。

「クリスさん、本当の事を教えてください。魔獣を倒したのは、クリスさんですよね」

「気になるか? まあ、お互い隠し事は無しにするか・・・」と、クリスは首に手を当て笑顔を見せる、「魔獣を倒したのは、俺だよ」

「やっぱり。聖剣でも切れなかったのに、どうやったのですか?」

「どうやるも何も、この剣で切っただけだよ」と、神剣をミツヤに見せた。

「その剣は、何か特殊な剣ですよね。刀身に見たことも無い文字が書かれているし、聖剣には無いこの光彩《こうさい》。一体何ですか?」

「これは、神剣だよ。神さまから貰った」

「クリスさんも女神の加護を得た勇者ですか?」

「俺は、ちょっと違う。神の気まぐれで、加護された者だよ」

「神の気まぐれですか。クリスさんは、相当変わっていますね」

 思わず声を出して二人で笑った。クリスとミツヤは、話をする内にお互い気が合った。

「もし、君が本当に困った時は、俺を頼ってくれ。友人として君の力になるよ」

「良いのですか? 僕なんかを信用してもらっても」

「信用するよ。だから友人として俺の事は、呼び捨てで良い」

「ありがとう、クリス」と、ミツヤは少し年の離れた友人と握手をした。

 東の空が、オレンジ色に染まる。もう直ぐ夜が明けようとしていた。

 みんなが起きて来る前に、朝飯の準備でもするかとクリスはショルダーバッグから堅そうなパンとチーズを出した。

 魔獣を討伐した勇者達は、森の入り口で手配していた馬車に頭の無い魔獣の死体を乗せ帰って行った。魔獣の死体は、討伐の証明になり、貴重な素材は国王への献上品となる。

 グランベルノ王国の威厳を見せつける必要があるのか、それとも討伐後は直ぐに戻れと命じられていたのか、王女リリアはアルフェリアのギルドへ寄らず直ぐにでも国へ帰ると主張した。きっと、勇者一行を宣伝材料として帰還した彼らを盛大に歓迎するだろう。

 一人ギルドへ戻ったクリスは、ショルダーバッグから出した魔獣の頭を受付カウンターに置いた。

「ど、どうしたのですか。それは、魔獣の頭ですか?」、リリは手のひらで口を覆い驚いた。

「案内の報酬にと、魔獣を倒した勇者様から貰ったよ」

「うぉー、すげーな。一体買い取りは、幾らになるんだよ」と、ギルド会館が盛り上がった。

「そうですね、大変珍しい素材ですので、金貨五百枚にはなりますね」

「一年は遊んで暮らせるほどの大金だな。帰りに受け取るから、準備しておいてくれ」

「かしこまりました」と、リリは微笑んだ。

「クリス、今日は宴会だな」と、ランドがクリスと肩を組むと、彼らを冒険者や専従者が取り囲んだ。大金を手にしたクリスにたかるつもりだ。

 クリスはランドの手を払い大きな声で、「予算は、金貨五十枚だ。全員、プルートの店に今晩集合で良いか。予算がオーバーしたら割り勘だぞ」

「おー、良いね。そうでなくちゃ、気風が良いのが冒険者の売りだからな」と、ただ酒が飲める嬉しさからランドは、クリスの背中をバシバシと叩いた。

「俺は、館長に報告があるから。じゃあ、後で」と、クリスは手を振りながらその場を去った。

 クリスからの報告を受けたスライブは、疲れているのか眼鏡を外して目頭を押さえた。

「お疲れか、スライブ。仕事のし過ぎなんだよ、真面目だな」

「ふっ、大丈夫だ。少し寝不足なんだ。最近、寝かせてくれないのだよ」

「なんだそれ、綺麗な奥さんが居るからって。お盛んだな」

「ははは、そっちじゃないよ。お前の姪っ子の夜泣きが続いたからな」

「それはしょうがないね。可愛いマリーの為に親父は頑張らないと」

 スライブは、所帯を持っている。美人で料理上手な奥さんのキャロラインと一人娘のマリー。彼は、愛する二人の為に真面目に働く良き夫であり父だ。

「しかし、男神が魔獣を強化するなど聞いた事が無い。本当に世界のバランスを保つために勇者を排除すると言っていたんだな」

「ああ、イアはそう話していた。女神ディアナも強引に勇者を召喚した事を認めたよ」

「神々が動いているとなると、全ての種族を巻き込む大事になりかねないな」

「そうだな。男神が継続してちょっかいをかけて来るか、それとも種族間の争いが激しくなるか、今のところ予測は出来ないけど」と、クリスは神妙な顔つきになった。

「グランベルノ王国に関しての情報は、何か得たか?」

「勇者が思考力を奪われていた以外は、特に何も情報は得ていない。あと、異世界で成人した勇者を召喚したもんだから、従来の力は発揮できないので、グランベルノ王は焦っているんじゃないのかな」

「勇者を権力の象徴、プロパガンダに使いたいから無理矢理にでも功績を作ろうと、躍起になっているのだろう」

「まあ、思考力を取り戻したミツヤは、もう王に騙される事も無いだろうから、ダンディルグとの戦争は暫く心配無いと思うよ」

「そう願いたいな」と、スライブは人差し指で眼鏡の位置を修正した。

 グランベルノ王国の強引な勇者召喚が、世界のバランスを崩していく。勇者を操ってまで何を成し遂げようとしているのだろうか。それに望まれない勇者をこれから男神は、常に排除しようとするだろう。気ままな人生を歩もうとするクリスは、意図せずこの世界の大きな渦に巻き込まれていく。
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