滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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ダンディルグ王国 9

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 明らかに怒っているカレンが、もの凄い形相で部屋に入って来ると、ソファに座るクリスの腕を力一杯掴んだ。カレンと契りを交わしたクリスは、怒る理由に心当たりがあるだけに、黙ったまま動かなかった。

「カレン、落ち着きなさい。クリスは、王からの依頼を引き受けてくれるのだから」

「モーガン館長、そんな事はどうでも良いのです。私が怒っているのは、黙って出て行こうとしたからです。第一夫人の私に、何も説明してくれない事に腹を立てているのです」

「ふ、ふふふ。そうなのか、そう言う仲になっていたのか」

 女性なら誰でも心と体を許した男性が、黙って出て行けば怒るに決まっているのに、分かっていて行動するとは何とも若いなと、モーガンは思ったがあえてその事は口に出さない。

「はぁ、責任は取るけど。とにかく悪かった。まあ、落ち着いて座れよ」

 クリスに促されたカレンは、大人しく彼の隣に座った。

「ちゃんと話して欲しいの。強い種を分かち合うのは、女の務めだから何も言わないし、あなたの自由を束縛しないから」

 そうだ、彼ら魔族は、強い種を独り占めしてはいけないと考える種族だった。

 クリスは、種族間の文化の違いを思い出す。カレンは、自由な自分にピッタリの女性だった。

「黙って出て行こうとして悪かった。これからは、どんな事でも君に話すよ」

 感情をあまり表に出さない魔族のカレンが、怒り、悲しみ、喜ぶ姿にクリスは、彼女を愛おしく感じる。自分以外の他人には見せない女性の表情に、男性はとにかく弱いものだ。

 涙が出ていたのか手で目を拭ったカレンは、「今回だけ、許してあげる」
 
 クリスとカレンの二人の話がまとまった所でモーガンは、手紙を懐から出した。

「スライブからだ、早馬で届けられた」

「何かあったのか?」と、クリスは受け取った手紙を読む。

 短い文章の手紙には、『ミツヤがお前を尋ねて来た』とだけ書かれていた。

 何か悪い事が起きたのでは無いかと、クリスの脳裏に浮かんだ。

「悪い知らせだったか?」と、心配そうにモーガンが尋ねた。

「ええ、人族の勇者が俺を尋ねてアルフェリアに来たみたいです」

「そうか、報告は本当だったのかも知れないな」

「何の報告ですか?」

「数か月前にグランベルノは、カルラシアを侵略した。人族の勇者が、先陣を切ってカルラシア王を倒したと報告があってね。侵略後、カルラシアの人々は、身分に関係なく全ての住民はグランベルノの奴隷とされたらしい。最新の情報では、グランベルノの発展のために、重要な労働力として苦役を強いられているそうだよ」

「騙されたのか、あれほど注意しろと言ったのに」、自分を頼ってアルフェリアにミツヤが来たのなら、きっと彼は自分を追いかけてダンディルグに来ると思った。

「モーガン館長、お願いがあります」

「君の願いなら、何でも受けてあげるよ」

「人族の勇者ミツヤは、必ず俺を尋ねて此処に来ると思います。だから、彼が来たら俺が戻って来るまで、引き止めて貰っても良いですか」

「お安い御用だよ。しかし、人族の勇者は悲しい運命を背負ってしまったな」

「同じ勇者として、ミツヤには同情します。護るべきものに騙されたショックは、計り知れないでしょうね」と、カレンは膝に置く手で拳を作った。

「騙されるだけなら良いが、グランベルノ王は、命令に従わず逃亡した勇者の命を狙うだろうね。だからこそ、俺を頼って来たと思う・・・彼の力になりたい」

 クリスは、手紙を握りしめた。女神ディアナには悪いが、悪い方向で勢力を拡大するなら、人族の王で会っても容赦なく倒させてもらうと、心の中で誓った。

 モーガンとの話が終わるとカレンは、逃げられないようにクリスの腕を掴んだ。

 一瞬、彼女はためらいを見せたが、意を決したのか真っすぐ見据え口を開いた。

「モーガン館長、今後クリスは、私と一緒に暮らします。ミツヤの事も含めて連絡は、私の屋敷へお願いします」

「おい、待て。君と一緒に暮らすのか?」

「そうです、その方が何かと良いのです。さあ、行きましょう」

 足を踏ん張るクリスをカレンは、引きずり強引に部屋から連れ出す。その姿を見つめるモーガンは、楽しそうに手を振った。

 ギルド会館の前に停まる馬車にクリスを押し込んだカレンは、使用人に指示を出した。

「彼の馬と荷物は、全て屋敷に運んでください。では、参りましょうか」

「カレン、屋敷って君のご両親も住んでいるのか?」

「ご心配なく。住み込みの使用人は二人いますが、私一人ですよ。両親の顔は覚えていませんし、誰なのかも知りません」

 クリスは、窓の外を眺めながら思いに耽る。

 勇者として生まれた彼女は、物心がつく前に両親から引き離されたに違いない。

 幼い頃から魔族を護る使命を果たすために、強要や訓練を一人で受けて来たのだから、親は居ないも同然かと考えた。

「なあ、カレン。両親に会いたいと思った事は、無いのか?」

「ありません。生まれてから今に至るまで、ずっと一人でしたから」

 無理に作り笑いをする彼女に、何とも言えない思いが込み上げてくる。隣に座るカレンを見ると、クリスは屈託のない笑顔を見せながら、彼女の手を取り彼の顔に触れさせた。まるで、彼女に笑い方を教えるような仕草を取った。

 カレンの住む屋敷は、城を守る堀に沿って軒を連ねる騎士達の居住区の中にあった。

 門を抜けると、中庭は綺麗に手入れされた芝生に覆われており、特別大きくも無く、かといって小さすぎない二階建ての洋館が建っていた。

 洋館の隣には、使用人が暮らす別館と馬小屋が見える。

 馬車を降り屋敷の中に入ると、初老の男性と女性が帰りを待っていた。

「彼らは、使用人のジーヤとバーヤよ」

「へっ? 普通、名前で紹介しないか」

「恐縮です、クリス様。カレン様は、私共を名前で呼ぶのが苦手でして」

「いやいや、お二人のお名前は?」

「私は、カルロシアスメルクミルド・フェンデルハイル・ゴメツグランシアと申します。彼女は、テレシアスローズデンブルーム・ヘレロヘルデス・ゴメツグランシアで私の妻です」

 長い、何て長い名前なんだとクリスが思っていると、真顔のカレンが見つめて来る。確かに彼女だけでなく、誰でも間違えずに彼らを名前で呼ぶのは難しそうだ。

「始めまして、これからお世話になります。俺もカレンと同じ様に、ジーヤとバーヤで呼ばせてください」

「さあ、お入りください。クリス様の荷物は、お部屋に入れておきますので」

 カレンに連れられて大広間に入ると、彼女はこれからの予定を話し出した。

「クリス、三日後に出発するから、それまでに旅の準備をしておいてください」

「分かった」

 クリスの素っ気ない返事が気になったのかカレンは、「怒っている?」

「いや、全く怒っていないよ? カレンに同行するのは、別に嫌じゃないから」

「本当に? 二人っきりの旅じゃないのよ」

「遊びに行くわけじゃないんだ、それくらい理解しているよ」

「ふーん、・・・」

「どうした、何か気になる点でもあったか?」

「別に・・・、何でもないわ」と、プイッと彼女は横を向いた。

「しかし、出発までの三日間、どう過ごそうかな」と、クリスは、頭上に伸ばした右腕を左手で持ち軽くストレッチをする。

「あのね、もし、クリスが嫌じゃないなら私に剣術の手ほどきをして欲しいの」

「俺で良いのか? カレンに手ほどきは、必要ないと思うけど」

「国ごとに異なる剣術を学びたいの。フリント王国の騎士が、使う剣術に興味あるし」

「本当に良いのかな? 俺が使う剣術は、先陣用だけど」

 馬車の中の作り笑いとは違い、カレンは嬉しそうに口角を上げ微笑した。

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