滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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北の遺跡 1

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 港町グルグでは漁に出る準備をするために、夜更けから船員たちが港に集まって来る。ここでの漁は深夜に出港し、朝日と共に漁を終え帰港する。

 そんな漁業で栄える穏やかな雰囲気の町は、北の遺跡で腕試しをする冒険者達が集まる試練の町としての側面も持っていた。

 遺跡には、魔の森と同様に魔獣が住み着いている。

 レベルの低い冒険者達でも戦える魔獣から、英雄クラスの者でも太刀打ちできない魔獣まで存在しており、レベルアップを目的とする者たちがこの町を拠点に活動しているのだ。

 遺跡には、三階建ての巨大な神殿と十三階建ての塔があり、そこで冒険者達と魔獣が毎日死闘を繰り広げている。

 遺跡に足を踏み入れたら最後、どんな魔獣に出会うかは、彼らの運次第で決まる。そのため命を落とす者が多く、この町で長く冒険者として活躍する者は極端に少ない。人の入れ替わりの激しいギルド会館を有するグルグは、何時しか試練の町と言われるようになった。

 グルグへ到着したカレンとその仲間達は、宿屋の一階にある食堂に集まり話し合いをしていた。全員が浮かない顔で、意気消沈している。

「すっかり、自信を無くしてしまった様だな」、腕を組み呆れた顔のクリスが言い放つ。

「ご、ごめんなさい。私が、悪いのです。皆さんの援護どころか、何も出来ませんでした」

 メンバーの中で一番、肩を落とし体を竦めるサーシャは涙ぐんでいる。

「サーシャだけの責任じゃないわ。無様に負けてしまったのは、私達の実力が至らなかったからなのよ」、カレンは下を向いたまま話した。

「カレン、君がリーダーなんだ。サーシャが実力を出せなかったのは、君の責任だよ」

 口を尖らせ不機嫌そうにカレンは、顔を上げた。

「クリス見たいに、身体強化出来ないもん。それに、今の私達では、どうやっても男神には勝てないよ」

「確かにクリスが居なければ、俺達全員、あそこで死んでいた。ギリとチェンもそう思わないか?」

 ジルの言葉にギリが無言で頷くとチェンは、「あのような強大な力に遭遇したのは、初めてです。あなたが使う力を初めて見ましたが、実力の差を感じました。我々は、まだまだ修行不足だったのでしょうか? 強いと、奢っていたのでしょうか?」
「悪かったな。俺が言いたいのは、せっかくパーティーを組んでいるのだから、お互いに協力して戦えたのではないのかと言う事だ。もう十分強いからと、個々で対処しようなどと甘い考えをしていなかったか?」

 うっ、何か言おうとしたカレンは慌てて口を噤《つぐ》み、指示が出せなかった自分を思い出した。

 何も出来ていなかった、北の遺跡を目指している間に時間はあったはずなのに。
 実戦前にサーシャだけでなく皆の能力の確認をしていなかった自分が悪い。
 そう考えると、クリスに指摘されるのも仕方が無い。

「ふう、思い当る節があるか・・・」、クリスは隣に座るカレンの頭を撫でた。

「みんな、ごめんね。やっぱり、私が悪い見たい。ちゃんと皆の力を把握した上で、戦いに臨んでいたら。もっと的確な指示が出せていたのに」、カレンは前を見て仲間達と話しをするクリスを見つめた。

 そうだ、彼は移動中に初めて会う仲間達と何気ない会話の中で、彼らの得意とする攻撃やら能力を聞いていた。それなのに、私は何をしていたのかとカレンは自分を責めた。

 彼が屋敷に来た日の朝早くに、体を鍛え剣を振る姿を窓から見たのを思い出す。

 体を動かすのが日課なのかなと、その時は何も考えず見ていた。しかし、今になって良く考えてみると、彼は常に万全を期す為に準備をしていたのだと気付かされた。

「じゃあ。クリスは、私達が今以上に強くなるには、どうしたら良いと思うの」

「仲間達の事をもっと良く知る事じゃないのか。ソロで戦うなら今より強い相手と戦うか、己の技を極めて行くしかないだろけど。折角パーティーを組んでいる仲間が居るのだから、お互い連携して戦う術を身に付けた方が良いと思うけど」

「毎日、クリスと同じ様に剣を振るだけじゃあダメなの?」

「うっ、見ていたのか?」、情けない表情をするカレンが頷いた。

「ははは、クリスの言う通りだな。いくら勇者とは言え、一人では立ち向かえない相手がいる限り、俺達の助けが必要になる。個々で鍛えるだけでなく、いかにして連携して戦うか考えなくてはならないな」と、ジルは自分の赤い髪の毛を掻き上げた。

「ふーん・・・」と、カレンが返事するとチェンが何かを思い出したかの様に話し出した、「私の師匠も良く言っていました。どれだけ強くなっても、結束した集団の前では、個人の力は中々発揮させてくれないとね。私達が、力を合わせれば、男神とも互角に戦える様になるのかも知れません」

「そうだよ。俺が言いたいのは、チェンが話してくれた事なんだよ」

「くっくっく・・・」と、眉をひそめていたギリの表情が崩れ、笑い出した。

「それと、男神の言葉も気になってね」、クリスは指でこめかみを押さえた。

「重要な事を何か言っていたかしら?」、カレンは目を丸くする。

「ほら、そんな実力じゃあ、女神の用意している試練を攻略できないと言っていたから。もしかして、今のカレンに何か足りない物が、あるのではないかと思って」

「うっ、ううう。何か足りない物と言われても、分からないわ」、頭を抱えて悩むカレンの姿が、クリスの目には滑稽に映った。

 難しい顔をしたテーブルを囲む彼等は、悩んでいても答えは見つからないから、明日改めて話し合おうと解散した。

 やっと部屋でゆっくり休めると、ドアを開けたクリスのシャツをカレンが後ろから引っ張ってきた。

「どうした、カレン。自分の部屋に行かないのか?」

「えへっ、クリスとね、同じ部屋にしてもらったの」

「何言っているの? ほら、一人部屋だよ」、部屋の中を見渡すと、大きなダブルベッドのある二人部屋だった。

 カレンの方を見ると、恥ずかしそうにしながらもにやけ顔で、「私がね、変更しておいたの。荷物も同じ部屋に運んでもらったから」

「はぁー、してやられたのか」、クリスは頭に手をやり項垂れた。

「別に良いでしょ、夫婦みたいなものなんだから。早く慣れないとね!」

 先に部屋の中に入ったカレンは、ベッドの上に大の字になって寝転がった。

「フカフカだよ! 思った以上に気持ちいい」

 無邪気な笑顔を見せるカレンは、戦闘から離れた安息の時間を心から楽しんでいる様子だ。そんな彼女の姿を見たクリスは、自分と一緒の部屋で彼女の気持ちが安らぐのなら、これで良いかと思った。

「君が、同じ部屋で良いのなら。それで良いよ」と、彼女の横たわるベッドに座った。

 コロコロとクリスの傍に転がってきたカレンは、じっと彼を見つめる。

「あのね、もしかしたら明日は無いのかも知れないと、何時も思ってしまうの。だから、今の幸せを満喫したい、ダメかな?」

 くしゃくしゃと、カレンの頭を撫でたクリスは、「その考え、俺も賛成だよ。勇者に英雄に冒険者、いつ命を落とすか分からないからな」

「ふふふ、それじゃあね、あなたのご寵愛をくださいな」と、カレンは目を閉じた。

 彼女と唇を重ねたクリスは、ほのかに甘い味を感じた。

 大変な一日だったはずなのに、彼女の柔らかな肌に触れていると疲れを忘れさせてくれる。
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